PART6-3
MARY J.BLIGE

 実はメアリーJについては、それ自体で一つの特集が組めるほどのアーティストであり、彼女を論ずるには最新作「Share The World」をも含めた視点が不可欠なんだが、取り合えずこのコラムはラップを題材にしていることと、ここはバッド・ボーイ軍団としての彼女の時代のことについて述べるというのが趣旨なので、詳細論議はまた別の機会に譲ることにして、ここではパフィのプロデュースと、メアリーJの作品におけるバッド・ボーイ軍団の役割みたいなところを重点的に攻めてみたい。
 メアリーJは1971年ニューヨークはブロンクスの生まれ。5歳の時からニューヨーク郊外のヨンカーズ(あのニール・サイモンの「Lost In Yonkers」の舞台となった町だ)に住み、定番通り教会の合唱団で少女時代の音楽生活を過ごした。幼少から母の聴くオーティス・レディングやグラディス・ナイト、ダニー・ハサウェイといった正統派R&Bと近所でガンガンかかるヒップ・ホップ・ビートに親しんだメアリーJが17歳の時にカットしたデモテープ(アニタ・ベイカーの『Caught Up In The Rapture』だったそうだが)が当時のアップタウン社長のアンドレ・ハレルの手に渡ったのがきっかけで、メアリーJはアップタウンとのレコード契約を手にした。
 そのストリート・オリエンティッドなボーカル・スタイルと、当時のアンドレ社長の右腕だったパフィ一派のプロダクションによる切れ味鋭いタイトなサウンドを引っさげてリリースしたデビューアルバム「What's The 411?」(1992)はヒップホップR&Bのアンセムとなった『Real Love』や『Reminisce』などのビート鋭い曲を満載、たちまちメアリーJを「ヒップ・ホップ・ソウルの女王」と呼ばれるまでに押し上げた。彼女の資質はオン・ザ・ビートな卓越したボーカル・スタイルにあるのだが(Real Loveにそれは顕著だ)、彼女曰く「あたしはR&Bやソウルで育ったけど、大きくなってからは近所のヒップ・ホップ・パーティに入り浸ってたわ。だからあたしのボーカルはラッパーみたいにオン・ザ・ビートなの」。でもそれはオン・ザ・ビートなボーカルを生かすプロダクションあってのことだろう。それをデビューアルバムにして最大限に引き出したパフィの才覚とMark Rooney, Mark Morales, Tony Dofatといったプロデュース陣は評価されるべきだ。
 彼女のそういった資質をさらにワンランク上まで引っ張り上げたのはファーストのあとのリミックスアルバム「What's The 411? Remix」(1993)に続いてリリースされた名盤「My Life」(1994)だ。このアルバムでのメアリーJのパフォーマンスは一つの頂点を究めていると言っていいが、ここでも重要なのはパフィ軍団の新しい仕事人、Carl "Chucky" Thompsonのオーセンティックでありかつオールドスクール的な美的感覚に裏打ちされたサウンドプロダクションである。この指向性がメアリーJの資質と絶妙にマッチして、彼女のヒップ・ホップR&Bの第一人者としての地位を不動にした。
 その後ベイビーフェイスとの仕事(サントラ「Waiting To Exhale」(1995)収録の『Not Gon' Cry』)を経て、メソッド・マンとのデュエット・シングル(録音は別々だったらしいが)『I'll Be There For You/You're All I Need To Get By』のリミックスの仕事を最後になぜかメアリーJとパフィは袂を分かってしまった。メアリーJの最新作「Share The World」は全く新しい制作陣を迎えて作っておりそこそこの出来ではあるが、前の2枚と比べると迫力の面でいかんせん劣ってしまうのは否めない。メアリーJはパフィとの訣別の理由に触れることを避けており、その真相は明らかではないが、バッド・ボーイの制作陣は彼女の才能を十二分に理解していただけにこの動きは残念。メアリーJが新たなる優秀なプロダクションチームに出会うことを望むばかりである。

PART6-3-1
MARY J.BLIGE discography (M.Ata)

What's The 411 ? (1992)

[album cover]  記念すべきメアリーJのデビュー作。ひたすらトラックはかっちり作りこんでありながら、ストリート・ビートとR&B的な華やかさを発散しており、メアリーJはそのグルーヴにのって実に軽快にかつ気持ちよく歌っている。言うまでもなくこのアルバムの、また当時のヒップ・ホップの代表曲であった『Real Love』、メアリーJのうねるようなボーカルと重厚なサウンドが心地よい『You Remind Me』、おさえたコーラスのリピートと存在感あるメアリーJのボーカルが素晴らしい『My Love』など、92年当時のブラックミュージックの最高の要素を選りすぐったかのような内容である。蛇足だが、パフィは留守電趣味があるらしく、オープニングのトラックはビギーの「One More Chance」のように留守電のスキットになっており、アルバムの構成にアクセントを付けている。バスタ・ライムスやジョデシのメンバーらの控えめながら効果的なサポートも楽しい。

What's The 411 ? Remix(1993)

[album cover]   玉石混淆、といった印象のメアリーJのリミックスアルバム。ファーストの12曲から『Intro Talk』と『Slow Down』以外の10曲をリミックスし、新たに『You Don't Have To Worry』など2曲を加えた完全なファーストのリミックスし直しアルバム。企画はいいんだが、もう少し新曲を入れるとか、思い切ったミックス違いを入れるとかすればよかったのに、というのが感想で、最悪なのは『Real Love』のリミックス。何ともしまりのないアレンジで、パフィの外れの面が思いっきり出てしまってる。『You Don't〜』のクレイグ・マック、『My Love』のヘヴィーD、『What's The 411?』のビギーなどのゲストラップは楽しいが、決定打にかける気が・・・・ベストトラックはルーファスのカバー『Sweet Thing』。素直なリミックスが好感。

My Life (1994)

[album cover]  このアルバムはChucky Thompsonの絶妙のR&Bセンスをベースにした流れるようなトラックとメアリーJの油の乗ったボーカル・パフォーマンスの見事なコラボレーションで、おそらく彼女にとってのベスト・ワークとなった作品。ファーストのビンビンのビートに乗ったようなところは若干陰を潜めてはいるが、むしろヒップ・ホップ・ソウル・ダイヴァとしての貫禄のある歌唱で、早くも円熟の域に達したメアリーJのボーカルは見事だ。『You Bring Me Joy』でのバリーホワイト使いや、『My Life』でのロイ・エアーズ使いなど、R&Bファンを唸らせるトラックを作り上げながら耳に親しみやすいサウンドを作り上げているチャッキー・トンプソンの仕事はさすが。キーボーディスト出身らしいメローながらタイトな音作りでチャッキーの業界での評判を確立したこの作品は、ストリートっぽさがちょっと、という向きには自信を持ってお薦めできる。

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