PART5
A TRIBE CALLED QUEST (M.Ata)
A Tribe Called Quest(以下Tribe)は、ニューヨークはマンハッタンの南に位置するスタッテン島出身の3人組によるユニットで、1989年頃から活動を開始し、1990年ジャイヴレコードよりリリースした、デビュー作「People's Instinctive Travels And The Paths Of Rhythm」により、ヒップホップシーンでの人気を確立した。メンバーは、Q-Tip(本名:Jonathan Davis)とPhife Dawg(単にPhifeともいう)(本名:Malik Taylor)の2人のMCプラスDJのMr.Muhammad(本名:Ali Shaheed Muhammad)の3人。上記のデビュー作ではこれにJambiが参加していたが、次にリリースした「Low End Theory」以降ではサイドミュージシャンとして参加している。
Q-Tipはレコードデビューに先立って同じNative Tongue一派であるDe La Soulのデビュー作「3 Feet High And Rising」(1989)で2曲にゲスト参加しており、その関係もあってかTribeの作品にはDe La SoulのTrugoy the Doveや、The Jungle BrothersなどNative Tongue一派がしょっちゅう参加している。また、Q-Tip自身逆にDe La Soulのトラックにも頻繁に客演している。しかし、彼の客演で最も名を馳せたのは、Craig Mackの「Get Down」のリミックスとDeee-Liteの「Groove Is In The Heart」のリミックスでのパフォーマンスであろう。それ以外にもNative Tongueのグループだけではなく、Mobb Deep、Nas、Beastie Boysなど幅広いアーティストたちのレコードに顔を出している。
Tribeの音とリリックは、いわゆるハードコア・ラップや、ギャングスタ・ラップなどのアタックの強いトラックに乗せて激しいメッセージや過激な内容(思想的なものもあれば、性的なものもあり)を威勢良くたたきつける、といったものとは対極にあり、ヒップホップ・ファンの間でもとかく評価が分かれているようだ。即ち、Public Enemy系のハードコアや、NWA−Dr.Dre一Snoop系のトラックがブリブリいってるパターンを最高とする向きには、彼らのべ一スをきかせた非常にゆったりしたグルーヴに乗せて、ジャズ系アーティストや70年代の今風にいえばフリー・ソウル系の曲のサンプリングを効果的に便うことによって独特な雰囲気を出しているサウンドは何とも捕らえどころがないと感じるのだろう。
リリックにしても彼らの場合は極めて散文的である。ことさらにブラックスの厳しい現実に対する悲しみを表現するでもなし、白人社会に対する反体制的メッセージを打ち出すでもない。Q-TipとPhifeの繰り出すリリックは現実をあくまで客観的に描写するものや、彼ら自身の音に対するスタンスを示すものであり、そのフロウはバックトラックのシンプルなドラムスとベース(Drum'N'Baseとは違うけど)のジャジーなグルーヴに乗ってあくまでなめらかである。そういった意味でいえば、とかくリリックの内答が掴みにくい我々非英語圏のリスナーにとってはわりと入り込みやすい類のラップであり、ある意味で入門編として初めてラップを聴いてみようという向きには適しているのかも知れない。とはいうものの彼らの音と(リズムツールとしての)リリックに対するスタンスには鮮烈なものがあり、彼らの初期のアンセムである「Check The Rhime」は、Average White Bandの「Love Your Life」のサンプルに乗せて、こんな具合にスタンス表明を行っている。
”俺は誰かを痛めつけるでもなし、ましてやパンクなんかじゃない
リズムの極限、それが今お前が聴いてる音さ
せいぜい耳をかっぽじって俺らのリリックを聞くといい
みんな、Rhymeをチェックしろ”
いわゆるジャズ的な音作りという意味では、彼らはヒップホップ界において先駆者的な役割を果たしていると言っていい。フレディ・ハバードやボブ・ジェイムズなどの70年代R&B系ジャズミュージシャンをサンプルして見事なグルー一ヴを作り上げるという手法は彼らが一気にポピュラーにした感があり、後の2Pacの作品あたりまでその影響が見られる。単にサンプルするだけでなく、2枚目の「Low End Theory」収録の"Verses From The Abstract" では御大ロン・カーターを引っぱり出すという荒技にも出ている。後に出てくるDigable Planetsあたりは明らかにTribeの影響を色濃く見せており(ファーストの“Bunita Applebum”を聴くと分かる)。今やヒップホップ界では大きな影響力を見せている。こういったフォロワーが出てくるあたり、彼らの魅力はそのビートにあり、そのビートの組み立て方がハードコア系などとはアプローチが違う、というだけなのだろう。
彼らの音のエキスとも言える“Award Tour”を雛し完成度の高い前作「Midnight Marauder」によってこの世界で今やWu-Tangと並んで新作のドロップが年間のイベントとなる程の存在感をヒップホップ界で確立してしまった彼ら、最新作「Beats, Rhymes and Life」では本来アコースティックな音作りをべースにしたグルーヴを基本にしてきた彼らが大胆にエレクトロニック的な手法を取り入れたり、Faitth Evansなとをフィーチャーした歌ものを入れたりと新境地を開こうとしているかのようである。こういったアプローチは正解か否かは別として、音作り・グルーヴ作りにこだわる彼らの姿勢を表しており、今後ともTribeの動向から目が離せないことには間違いなさそうである。
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