Luther Vandross
Biography

 いつも彼の名前が出る度に言うことだが、彼ほど過小評価されているソウルシンガーもいないと思う。バカラックナンバーとかレオン・ラッセル/カーペンターズの「スーパースター」なんていう超メジャー白人ポップス(実はR&Bに影響を受けたナンバーだったりするのだが)を何のてらいもなくカバーしちゃったりするあたりが、コアなブラックファンには白い眼で見られやすいのかとも思うが、過去の偉大なソウルシンガー達(サム・クック、レイ・チャールズ、マーヴィン・ゲイなどはホンの一例だ)がどこかの時点で白人トラディショナルのカバーに傾倒した時期があったことを考えると、「うた」でソウルを追求しようとしている彼がこういった一見表層的なカバーをやるのも充分理解できるというものだ。

 取りあえずこいつは歌が巧い。巧すぎる。普通黒人は生来卓越したリズム感を、ゴスペルで鍛えた音感で補う形で巧い歌を聴かせるものだが、ルーサーのテナーの巧さは別格で、ブラック・アーティスト達からも無茶苦茶リスペクトされている。1970年代後半にシックのアルバムへの参加やチェンジのボーカルなど、スタジオ・ミュージシャン的な活動で頭角を現した後、1981年に『Never Too Much』でソロデビュー以来、出すアルバムは全てプラチナ、R&B界では当然のごとく絶大な人気を誇ってTOP10ヒットを連発していたが、ポップフィールドでは中ヒットを散発的に放つのみという状態に甘んじていた。そんな彼がようやくポップでもブレイクしたのが盟友マーカス・ミラーとの共同プロデュースで1989年にリリースしたアルバム『Any Love』とそこから生まれた初のポップTOP10ヒットの「Here And Now」。これを持って彼の才能はようやく万人の認めるところとなったというわけである。この後彼は『Power Of Love(1991)』という素晴らしいアルバムでこのポジションを確固たるものにしたが、その後のアルバム『Never Let Me Go(1993)』カバー集の『Songs(1994)』『Your Secret Love(1996)』『I Know(1998)』とコンスタントにヒット作を出してはいるが、そのスキルとパフォーマンスのレベルは落ちていないにも関わらず、この頃の盛り上がりには少し欠けるように思えるのがちょっと残念。(阿多)


Hit List

'89 #30 She Won't Talk To Me
 アルバム『Any Love』からの第2弾シングルで、シシー・ヒューストン、リサ・フィッシャー、フォンジ・ソーントンらの超一流のバックコーラス陣を従えて軽〜く洒脱に「ちょっとイケてる娘がいたんで声をかけたら、何と彼女ったら僕と話もせずに立ち去っちゃったんだ」というかなりライトな内容を歌っているミディアム・アップ・ナンバー。らしいといえばらしいのだが、何せこの人歌が巧すぎるんで(なんつったってナチュラルにコブシが回っちゃう人ですから)何か歌舞伎俳優がナンバしてるような変なイメージを与えるきらいもあり、好き嫌いの別れる曲かも。このヒットの後にいよいよブレイクヒットとなった「Here And Now」が大ヒットとなる。



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