Tom Petty
Biography

 1989年はトム・ペティに取って変化の年であった。一方ではジェフ・リン、ジョージ・ハリソン、ロイ・オービソン、ボブ・ディランと架空のバンド、トラヴェリング・ウィルベリーズを結成、アルバム『Volume One』をヒットさせ、また一方ではデビュー以来初めてソロ名義でのアルバム『Full Moon Fever』をリリース、トラヴェリング・ウィルベリーズでの盟友、ジェフ・リンのプロデュースの下、それまでの彼自身のサウンドとは一方変わった肌合いのサウンドを取り入れた新境地に挑戦した年だった。アルバムではジェフ・リン、ロイ・オービソン、ジョージ・ハリソンらのトラヴェリング・ウィルベリーズ一派を迎えただけでなく、楽曲でもジーン・クラークの曲を取り上げるなど、ルーツ・ミュージックへの急接近を見せたという意味でも特筆すべき作品だった。この後トムはジェフ・リンとアルバム『Into The Great Wide Open(1991)』を制作した後、ルーツ・ミュージックをベースとした贅肉をそぎ落とした彼なりのロックを追求する方向に転じ、デフ・ジャム・レーベルの創設者、リック・ルービンとタッグを組んで『Wildflowers(1994)』『She's The One(サントラ、1996)』そして最新作の『Echo(1999)』と地味ながら新たなアメリカンロックの担い手としての存在感充分な作品をコンスタントにリリースし続けている。1980年代初頭に不良の臭いをプンプンさせていた活きのいいバンドが、今や大御所感の漂う、毎回新作を信頼して聴くことのできるアーティストに成長したのを見るのは同時代を生きた人間として感慨深いものがあるね。(阿多)


Hit List

'89 #12 I Won't Back Down
 このアルバムのトム・ペティのサウンドは明らかに変貌している。それまで大きなうねりの中でR&B的な色合いをハード・エッジなサウンドで料理しながら、トムの変態ボーカルで味付けする、といった感じだったサウンドが、ここではひたすらジェフ・リンの刻むベーシック・トラックの生み出すグルーヴにトムのボーカルを乗っけている、という極めて自然体のサウンド作りが巧まずして聴く者の気持を和ませている。「もう今さら後には戻れないよ」という歌詞も新たな境地に進んだ自分を鼓舞するかのように聞こえて、ほのかな共感を呼び起こしてくれる。アルバム『Full Moon Fever』からの最初のシングルで、この時期のトムのスタンスを感じさせる曲だ。

'89 #23 Runnin' Down A Dream
 特徴のあるマイク・キャンベルのギター・リフと、タイトルをなぞるコーラスのバックでかき鳴らされるアコースティック・ギターのカッティングが印象的な、どちらかというと昔のロックンロール・ナンバーのリズム・パターンを彷彿させる曲。他の曲もそうだが、この『Full Moon Fever』からの曲はいずれも(ジェフ・リンのプロデュースということもあるのだろうが)割と単調なリズムに乗せたアップテンポの感じが耳に残る。何と言うことはないけど、多分アメリカの中西部あたりでなーんにもないフリーウェイをこの曲をかけながら突っ走ると無茶苦茶気持ちいいだろうな、と言う感じの、そんな曲だ。ちょっとギターのリフがジュース・ニュートンの「クイーン・オブ・ハーツ」を思わせる。

'89 #7 Free Fallin'
 これから後のルーツ・ミュージックをベースとしたサウンド作りの基礎とも言える感じのゆったりとした曲調で、このアルバムからの唯一のTOP10ヒットとなった曲。トム・ペティって、昔はどちらかと言えばトーキング・ボーカルというか、ボブ・ディラン風というか、絶対歌のバースではメロディにボーカルを乗っけない(乗っけてても必ず要所要所でフェイクする)スタイルを一貫していたのだが、この曲(というかこのアルバム)ではむしろ純朴なまでにメロディを追うボーカルスタイルに変貌しているのが意外。で、それが決して鈍くさくなっていなくって、かえって彼の新境地となっているあたり、トラヴェリング・ウィルベリーズなどでの経験が大きな肥やしになっているなあ、と感じさせてくれる、しみじみした一曲。



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