'89 #1 Like A Prayer
"Life is a mystery, Everyone must stand alone, I hear you call my name, and it feels like home"心に鋭く突き刺さるストレートなメッセージでこの歌は始まります。アルバムのタイトルトラックであり、冒頭に置かれているこの曲のオープニング・フレーズは、アルバムの趣旨のみならず、彼女の人生そのものを示唆しているようです。どうしようもない程の絶望感と孤独感に包まれ、もう神に祈るしかない、なんて誰しも体験したことがあるでしょう。離婚騒動の最中にあったマドンナの切実な気持ちがポップかつドラマティックな曲調に乗せられ、一つの名曲が生まれました。確かに彼女は歌は上手くはありませんが、素直な詞を作ってストレートな情熱を込め、「生きたメッセージ」をよりリアリティをもって表現する能力は群を抜いています。これだけ長い間数多くのファンに支持され続けているのは、曲のキャッチーさもさることながら、そうした彼女の能力やスタンスに惹かれる人がそれだけたくさんいるからなのでしょう。それがいかんなく発揮されたのがこの曲であったと考えられます。勿論、パトリック・レナードのプロデュース力が多いに寄与したことは言うまでもありません。美しいゴスペルのコーラスから後半の畳みかける展開への流れは絶品です。こうして振り返ってみると、明らかに彼女の他の曲とは毛色が違った曲調や展開を持つ曲であることが分かりますね。一方、ビデオクリップの方は燃える十字架の立ち並ぶ野原でマドンナが踊る場面や、黒人の聖者に彼女がキスするシーンが問題になり、イタリアでは一時放送禁止になりました。人種差別を批判し、カトリックのあり方へ異議を唱えるなど、様々な意味が込められた複雑な内容です。なお、このビデオはマドンナが完全に本来のブルーネットの髪で登場した唯一のものなので、マニアの方は要チェック。
'89 #2 Express Yourself
「個人主義」と「自己表現」。この二つの四字熟語はマドンナを語る上で欠かせませんが、それらを最も簡潔にタイトルにしたのがこの曲。「Come on girl! Do you believe in love? 'Cause I got something to sing about, and it goes something like this!」と単純明解な文句で始まり、それがまた曲にインパクトを与えています。それ故か、翌年に行われた彼女の世界ツアーである「ブロンド・アンビション・ツアー90」ではオープニングナンバーとして歌われました。冒頭の文句に象徴されているように、曲の構成も詞の内容も徒に複雑怪奇に陥ることなく、実にシンプルに出来ています。彼女に「Express yourself !!」なんて語り掛けられるとこっちも何だか生きる活力が湧いてきてしまいますよね。そんな分かりやすさがこの曲の魅力でしょうか。「この歌は突き詰めると、もし自分自身を表現しなかったら、もし何が欲しいのか言わなかったら、それを手に入れられないっていうことなの。」とはマドンナ自身のお言葉ですが、まさにその通り。一般的には200万ドルもの制作費を投入したビデオクリップが有名でしょうか。ベッドに鎖で繋がれているシーンが問題にもなりましたが、何よりもマイケル・ジャクソンの股間つかみのワザを自己流に披露していて話題を呼びました。本当にかっこいい人は何をやってもサマになるということでしょう。ちなみに私はこのビデオのシーンを題材にしたポスターを2枚持っていますが、片方は素っ裸の彼女がベッドの上に座っていて後ろを振り返るというもの(ビデオのラストシーン。「ブロンド・アンビション・ジャパンツアー90」の市販ビデオの表ジャケのやつです)。あまりに刺激的すぎるので部屋には貼れず、未だに未開封のままであります。
'89 #2 Cherish
シリアスなメッセージを送り続けるアルバムの中にあって少々浮き気味な純粋無垢ポップチューンで、これまた盟友パトリック・レナードのプロデュース。これまでのありとあらゆる彼女の曲の中でも最もポップな曲の一つで、聴いているだけでホンワカしてしまいます。特にブリッジ部分の「Who? You!」なんて語りかける箇所は最高にキュートですね。とはいえ、しっかり自己主張することも忘れてはいません。「恋のゲームに敗れて心を痛めるのはもうウンザリ。」「私はロマンス以上のものが欲しいの。」「私の思いをみくびらないで。」などなど、熱いメッセージが盛りだくさん。どんなに曲調がポップでも内容がただのラブソングに終わらないあたりは彼女らしいです。アルバムのど真ん中に置かれているだけに、どうも彼女がこの曲には何か特別な意味を込めているように思えて仕方ありません。また、写真家で彼女の友人でもあるハーブ・リッツが監督したビデオクリップはマドンナ史上初の白黒のビデオとなりました。マドンナはショートヘアに(かなり可愛い!!)黒っぽいドレスを着て登場。海辺でポーズをとり、人魚と戯れる彼女の姿は微笑みを誘いますが、随所できっちり胸を強調するあたりは抜かりありません。余談ですが、海に行くと必ずこのビデオの真似をする輩が私の周りに出てきて困っています。男がやっても全然可愛くないっちゅーに!!
'89 #20 Oh Father
5歳にして母親を亡くし、人一倍父親とのコミュニケーションに拘った彼女の実体験が元となった静かなバラード。暴力的な父が死亡した後、彼の行為を許そうと努める成長した娘の姿が鋭く描かれています。マドンナ自身が具体的に父親とどのような関係にあったのかは知る由もありませんが(映画「イン・ベッド・ウィズ・マドンナ」を見る限りではまあまあ仲良さそうです)、夫ショーン・ペンに暴力をふるわれた末に離婚した最中に作ったということもあって、歌の一節一節が余りにも痛々しく、曲調もこれまでになく悲壮感が漂っています。90年代の彼女の叙情系バラード(「This Used To Be My Playground」や「I'll Remember」など)の下地となった一曲といって差し支えないのではないでしょうか。アルバムでは直前の「Dear Jessie」からの絶妙な流れで始まって、アルバムのテーマを凝縮した重要な曲である「Keep It Together(90年に8位を記録)」へ見事に繋ぐという地味な役割を果たしており、わざわざシングルカットする必要があったのか?という疑問も頭をもたげます。というのも、この曲が最高20位に終わったことにより84年の「Borderline」以来続いていた連続TOP10記録が17曲でストップしてしまい、この後前述の「Keep It Together」から「Deeper And Deeper(93年)」まで更に8曲のTOP10ヒットが続いたことを考えると非常に惜しいことをしたと言えます。やはり曲がちょっと暗すぎたのでしょうか。