八亀's Picks - January 2006

過去の八亀's Picks

1.12 My Boy/Slides - Richard Harris
1.03 Don't Turn Your Back On Me/This Is Jackie DeShannon
1.03 Breakin' It Up On The Beatles Tour - Jackie DeShannon
1.03 Are You Ready For This - Jackie DeShannon
1.03 Laurel Canyon - Jackie DeShannon

My Boy (1971)/Slide (1972) - Richard Harris

My Boy/Slides - Richard Harris
(Raven)



Tramp Shining (1967) 「1968年に生まれた名曲ベスト10」なんてランキングがあったら、まず間違いなく入るであろう作品が「McArthur Park('68米2位/英4位)」。ジミー・ウェブが作り、イギリス人俳優リチャード・ハリスが歌ったこの曲は当時としては型破りな約7分に及ぶ大作で、ハリスの歌よりもオーケストラによる間奏部分の方が曲の主要部分を占めてしまっているという、あの時代の空気を色濃く反映した“プログレッシブ・ポップ”であった。この曲をフィーチャーしウェブが全面的に制作を指揮、ダンヒル・レコードから発表されたアルバム「A Tramp Shining('68)」、同年に制作され前作とコインの裏表のような仕上がりの「The Yard Went On Forever」の2作は、今から10年ほど前にオーストラリアの再発レーベル「Raven」から「The Webb Sessions」のタイトルで2イン1の形でCD化され、以降60年代ポップスファンの必須アイテムとなっている。

 “歌手”リチャード・ハリスの評価は「歌はヘタクソだが、ジミー・ウェブの斬新なプロデュースに助けられてヒットを飛ばすことが出来た」といったものが一般的で、以降の彼の活動を気にかける音楽ファンは殆どいない。ヒットチャート・マニアであれば彼がその後「My Boy('72米41位)」というヒットを放ち、この曲がエルヴィスのレパートリー入りを果たしている('75米20位/英5位)ことを知る人もいるかもしれないが、だからといってわざわざCDを探してまで聴こうとは思わないだろう。そんな訳で先日「Raven」から発売されたハリスのダンヒルにおける3、4作目のカップリング(CD2枚組)は聞き手を非常に限定する作品ということになるが、入手して聴いてみたら意外にもなかなか興味深い内容であった。

Movements - Johnny Harris (1970) 一般的には“ハリー・ポッターの校長先生(故人)”として知られるリチャード・ハリスがどのような人だったかとか、名作「McArthur Park」が生まれるまでの経緯などは、こんなCDに興味を示すような方であれば当然知っているだろう、ということで思い切って割愛し、話は69年から。最初のアルバム2作を手がけたウェブがダンヒルを離れるにあたって、ハリスの新しいプロデューサーに起用されたのがイギリス人のジョニー・ハリス(リチャードと血縁関係はない)。ペトゥラ・クラークやトム・ジョーンズ、シャーリー・バッシーなどイギリスのMOR系アーティストを一手に引き受けていた彼はリチャードの不発に終わったシングル「Fill The World With Love」と「Ballad Of "A Man Called Horse"」を手がけ、70年には自己名義のアルバム「Movements」も発表している(ここに収録されていた「Stepping Stones」は数年前リーヴァイスのTVコマーシャルに使用され、新世代の音楽ファンに注目された)。

Bloomfield Soundtrack (1971) 71年に入るとジョニーはリチャード主演の映画「Bloomfield」のサウンドトラックを担当。同年後半にリチャードがとあるTVショーで披露した、離婚のため最愛の息子と別れなければならなくなった父親の心情を歌った「My Boy」が評判となると、これを元に結婚生活を出逢いから、子宝に恵まれながらも夫婦間系が破綻していくまでリチャードの原案で描く“コンセプト・アルバム”の制作を思い立つ。アルバム全体の雰囲気はAB面冒頭に配置された4曲がジミー・ウェブ作品であることもあり以前のアルバム2作に共通するものが感じられ、ミュージカル映画「キャメロット」への出演、そしてヒットアルバムの発表などを経てリチャードが歌手として自信をつけたのか、かなり歌が前面に押し出されたものになった。結果としてそれがこのアルバムをやや鬱陶しく聴き辛いものにしているのだが(笑)「McArthur Park」時代の名残を色濃く残したアルバムとして、興味深く聴くことが出来る。

 シングル、アルバム共に中ヒット程度に終わった後もリチャードとジョニーの蜜月は続き、次にとりかかったのが、ある男が自然を愛し、教師の職を棄てて北米大陸を放浪するストーリーのこれまたコンセプト・アルバム「Slides」、ここで収録曲すべてを提供し、プロデュースも担当しているのはソングライターのトニー・ロメオ(ジョニーはアレンジを担当)。ロメオはカウシルズやパートリッジ・ファミリーなどのバブルガム系ヒットで知られる作家だがこの時期ルー・クリスティが発表した意欲作「Paint America Love('71)」や73年の「Lou Christie (Beyond The Blue Horizon)」の制作にもかかわっており(クリスティも「Slides」に収録されている「Best Way To See America」や「Blue Canadian Rocky Dream」を取り上げている)、スケールの大きいソングライターへのステップアップを図っていたようだ。完成した作品はまるで架空のリチャード主演映画サウンドトラックといった趣で、サウンドは以前の作品と比べ幾分ソフトな印象。リチャードはこれが気に入らなかったらしく後年「バリー・マニロウにでも歌わせればよかったんだ。」と懐述しているそうだが、確かに彼以外の歌手が歌えば、このアルバムはもっといいものになったのかも(笑)。でもロメオが力作曲を揃えたこともあり、非常に聴き応えのある作品になったのは確か。アルバム最後に入っているイギリス政府とIRAの諍いを憂う内容の朗読(ハリスはアイルランド出身)だけは正直余計だが。

 ダンヒル時代の4枚のアルバム以降、リチャードは80年代の再演版「キャメロット」を例外としてボーカル・レコードを発表することはなかった(朗読アルバムはヒット作「かもめのジョナサン」他多数あり)。“歌手”リチャード・ハリスの短くもユニークな活動の後期を見届けたいのであれば、この「Johnny Harris Sessions」は非常に有用なCDだと思う。但し一般的な評価で考えれば5つ満点で☆2つくらいの内容なので、よほどもの好きな方でない限りお勧めはしないが。“よほど”を自認する方であれば是非。

収録曲等詳細(発売元のサイト)

(2005/1/12)

Don't Turn Your Back On Me (1964)/This Is Jackie DeShannon (1965)

Breakin' It Up On The Beatles Tour (1964)

Are You Ready For This (1966)

Laurel Canyon (1969)


Don't Turn Your Back On Me/This Is Jackie DeShannon (BGO)
Breakin' It Up On The Beatles Tour, Are You Ready For This
& Laurel Canyon (RPM) - Jackie DeShannon



The Definitive Collection - Jackie DeShannon キャロル・キングと並ぶR&R時代最古の女性シンガーソングライターの一人であるジャッキー・デシャノンが1960年代に発表したアルバムが、昨年後半立て続けにCD化されたのでまとめてご紹介。職業ソングライターとしても数多くのヒットを生み出した当時の彼女の活躍ぶりを上手くまとめた一節がCDのライナーノーツにあったので引用させてもらうと、彼女は

【 エルヴィスとデイトし、ビートルズとツアーに出、バート・バカラックやブライアン・ウィルソンとレコーディングし、ジミー・ペイジやランディ・ニューマンと曲を共作した 】

 人であった(そうだ)。しかも彼女は“恋多き女”としても知られており、多くのミュージシャンやソングライターと当時浮き名を流している(そうだ)・・となると、その“活躍ぶり”を50年代後半のデビューからいちいちたどっていくと殆ど「R&Rの歴史」そのものに匹敵するほどのエピソード数になってしまうためここでは省略し、各々のCDを取り上げながら60年代半ば〜後半の彼女の活動を紹介することにしたい。

 まず最初は「BGO」からリリースされた「Don't Turn Your Back On Me (1964)」と「This Is Jackie DeShannon (1965)」のカップリング。これは彼女のイギリスにおける1枚目と2枚目のアルバムに当たるようで、当時彼女がアメリカでマイナーヒットさせた「Needles And Pins('63米84位)」、そして彼女が書いた「When You Walk In The Room」をサーチャーズがカバーヒットさせたことによりイギリス発売が実現した模様。この時期彼女はジャック・ニッチェと盛んに仕事をしており「Don't Turn 〜」の収録曲の殆どは彼のアレンジ。異色なのはこのアルバムのタイトル・トラックで、これはイギリス進出のためか特別にロンドンで録音されており、アレンジはまだ10代だったジミー・ペイジが担当。彼の張り切った12弦ギターを曲全般で楽しむことができる。

 その他の聴きどころとしてはサーチャーズ関連の2曲は勿論、まだ駆け出しのソングライターだったランディ・ニューマン作の3曲にも注目。彼が62年に書いたという典型的なティーン・ポップ「Just Like In The Movie」は別として既にドラマチックな作風が確立されつつあり、この数年後に訪れる成功の萌芽が認められる。続いてのアルバム「This Is 〜」の方は本国でバカラック作の「What The World Needs Now Is Love('65米7位)」が大ヒットしたことを受けて制作されたもので、内容は米国盤と一緒。「What The World 〜」に加えバカラック・ナンバーとしては「A Lifetime Of Loneliness('66米55位)」が収録されており、更にランディ・ニューマン作も一曲・・とこの調子でアルバム一枚仕上がればよかったのだが、慌てて作られたせいかスタンダード・ナンバーのカバーも多く、なんとなく中途半端な印象。シンガーとしての彼女はデビュー以来ブレンダ・リーの強い影響下にあり(皮肉にもデシャノンは彼女に大ヒット「Dum Dum('61米4位/英22位)」を提供してもいる)、そこから彼女独自の歌声を獲得したのが「What The World 〜」のヒットで、このアルバムはその過渡期にある作品であったということができる。

 話は次のCDへ。「BGO」同様イギリスのレーベルである「RPM」から再発された「Breakin' It Up On The Beatles Tour」は1964年にビートルズのアメリカ公演に同行した彼女を売り出すため本国でリリースされたアルバムで、内容を見たら前述の「Don't Turn 〜」と一曲を除いて同じ(英盤はこれにジミー・ペイジがらみの一曲が追加されている)!!知っていれば買わなかったのに・・。仕方がないのでボーナス・トラック(全8曲)の方に目を向けてみると、サーチャーズがまたまたカバーした「Till You Say You'll Be Mine」、80年代にトレイシー・ウルマンがカバーしたことで知られる「Breakaway」あたりが聴きどころか。ジャック・ニッチェとの共同作業(≒スペクター・サウンド)期の彼女の録音を集大成した、と捉えれば、これはこれでいいCDなのかも知れない。

 気を取り直して続く「Are You Ready For This (1966)」に。前年に「What The World 〜」が大ヒットしたことで歌手としても自信をつけた彼女がその成功を維持すべく発表したアルバムで、なかなか聴き応えのあるナンバーが並んでいる。まずバカラック作品が3曲(ボーナスでさらに3曲)収録されていて、それだけで“バカラック・マニア”は入手必須な訳だが、入っている曲がまた良くて「Windows And Doors('66米108位)」と後にハーブ・アルパートがヒットさせる「To Wait For Love」、そして「So Long Johnny」。僕個人的には「〜 Johnny」が、彼女が歌うバカラック・ナンバーの中で一番好き。彼女作のナンバーもなかなか充実しており、アルバム・タイトル曲と「Love Is Leading Me」「Find Me Love」の3曲はまるでシュープリームスのようなモータウン調。中には「You Don't Have To Say You Love Me」のカバーなんて欲張り過ぎなものもあるが、今回紹介する中では一番好きなタイプのアルバムであることは間違いない。ボーナス・トラックも前述「This Is 〜」と若干重複するもののアルバム発表前後の期間のシングル音源を網羅しており、大変満足のいく内容になっている。

 で、いよいよ最後のCD「Laurel Canyon (1969)」へ。これは彼女がアーシーなロックに挑戦した意欲作で、ザ・バンドのカバー「The Weight('68米55位;オリジナルより1週早くチャートインし、最高位争いにも勝った)」を収録。この曲及びアルバム「Music From Big Pink」に彼女は相当感銘を受けた様子が窺え、信頼のおけるバンドをバックに熱いロックを聴かせている(録音はロサンゼルス)。バンドのメンバーには各曲でピアノを自在に操っているマック・レベナック(Dr.ジョン)、70年代に入ってワーナーの大プロデューサーとなるラス・タイトルマン、ジャズ畑のポール・ハンフリーの名もあり、特徴的なコーラスに聴き覚えがあるなと思ってクレジットを確認したら、その主はなんとブレイク前のバリー・ホワイト(!)彼はこのアルバムに「I Got My Reason(「The Weight」ソックリ)」という曲も提供。他には彼女がマリアンヌ・フェイスフルに提供しイギリスでヒットを記録した「Come And Stay With Me」の味わい深いセルフ・カバーにも要注目の、時代を先取りした「隠れたロック名盤」である。

 その後ボーナス・トラックには彼女がアラバマのマッスル・ショールズに赴き、ボビー・ウォマックのプロデュースの下録音した4曲他、この時期のシングル録音等を8曲収録。今回の4枚のCDでこれまでベスト盤でしか聴くことが出来なかった彼女の作品を体系的に聴くことができるようになったのは嬉しいことだが、実は彼女の充実期(60年代後半〜70年代前半)の作品は、CDをあと2、3枚は出してもらわないととてもカバー出来ないくらいの量がある。どちらのレーベルからでもいいので、是非とも近いうちの続編を。

収録曲等詳細(発売元のサイト)
Don't Turn Your Back On Me/This Is Jackie DeShannon
Breakin' It Up On The Beatles Tour, Are You Ready For This & Laurel Canyon

(2006/1/3)