14:10 Jean Knight & The Knight's of Rhythm @ Blues Tent
ハリケーン一過で日ざしは強いものの涼しい風が吹き非常に過ごしやすかった3日目は大きい会場は避け、周辺の小規模なテントを中心に徘徊。競馬コースの外側に位置するスペースには各々1,000人くらいずつ入るテントが3つ建てられていて、ジャズ、ゴスペル、ブルースをテーマに1日中演奏が行われている。言ってみれば「ニューオリンズ・ジャズフェス」と聞いて一番イメージが浮かびやすい類いの音楽がまとめて聴けるスペース、という感じ。中は日陰で椅子も並べられており快適なので、直射日光の下歩き回って疲れたらここでのんびり過ごすことも出来、実際年輩の客はここら辺に長時間居ることが多いようだ。
そんな中でまず観たのが1971年に「Mr. Big Stuff」の大ヒットを放った女性R&Bシンガー、ジーン・ナイト。例のアルバムジャケットの印象が強烈なので「彼女もビッグ・スタッフなのか!?」と考えがちだが実際にはそれほどでもなく、確かにふくよかではあるが健康的な感じ。ヒットチャート・ファンにとって彼女は「一発屋」同然なのでつい「他に歌う曲なんてあるの?」などと余計な心配をしてしまうけれども、彼女自身のヒット曲は少なくても、あの時代のR&Bヒットを片っ端から歌えば客は大喝采なのでエタ・ジェームスからアレサ・フランクリンまで何でもござれ状態。ようやくお目当ての「Mr. Big Stuff」が始まった!と思ったら実はそれはベティ・ライトの「Clean Up Woman」だったり(確かにこの2曲よく似てる・・)、なんてことをしているうちに隣のゴスペル・テントで次のお目当てが始まりそうなので心残りではありながらも移動。
14:45 Aaron Neville @ Gospel Tent
フェスのトリを務めるネヴィル・ブラザーズとしての出演前に、アーロンがゴスペル・テントにソロで登場。有名人ということでテントは物凄い人だかりで最初は中に入れないくらい、彼の人気の高さを窺わせた。
ステージに登場した彼は伴奏を伴わず、カラオケでひとしきり有名曲を歌う。最初は音響の調子が悪くていま一つだったが、曲が進むに連れて会場は盛り上がり始め、ハンク・ウィリアムスの「I Saw The Light」を歌ったところで客席の歓声は一気に高まる。予定した曲がすべて終わりスタンディング・オベーションの中彼がステージを立ち去ろうとすると観客はそれを許さず、ようやくのことで(渋々)もう一曲歌うことを承知した彼にかかった声が“「アヴェ・マリア」歌って!!”。あの名唱を生で聴けることになるとは・・。万客の歓声と拍手の中立ち去る彼に涙ぐむ老婦女の姿も。
ジャズフェスは競馬場全域を使って開催されており、ステージ間の移動に使われる(あと仮設トイレの設置場所でもある)競馬コース以外はすべてが「会場」。ちょっとした中庭にもステージが設けられて地元のバンドが出演しているし、グランド・スタンド(屋内の観覧席)にも当然ステージが。ここはライブよりもトークが中心のステージで、ライブの出番が終わったアーティストがインタビューに応えたり、地元のベテラン・ミュージシャンが昔の音楽シーンの興味深い話を聞かせてくれたり。
このグランド・スタンドがちょっとした穴場で、観客はそれほど多くなくて比較的空いてるし、冷房もきいて快適なので外のフード・テントで思い思いに食べ物を調達した上でここに集合し、涼しい席でのんびりランチ、なんて野外フェスらしからぬことも出来そう。今度行かれる方は是非ともお試しを。
15:30 Susan Cowsill @ Heritage Stage
ピンとこない人もいると思うが、彼女は60年代に活躍したポップ・グループ、カウシルズにいた小さな女の子。あれから30数年、彼女はシンガーソングライターになり、その作品はバングルスやフーティ&ザ・ブローフィッシュなどに取り上げられているという。特にバングルスとの親交は深く、90年代にはメンバーのヴィッキー・ピーターソンと「コンチネンタル・ドリフターズ」に参加(2人だけで活動する場合は「サイコ・シスターズ」という変名も持つらしい)。数年前にはこのヴィッキーとカウシル兄弟のジョンが結婚し、オールディーズ・ファンの間でちょっとした話題となったが、その仲を取り持ったのがスーザンであることは間違いないだろう。この日もヴィッキーの話題が出ると「私の義理の姉」という表現を使っていた。
彼女は前週の日程でステージの出演を終え、この日はアコースティック・セットを組んでトーク半分、ライブ半分といった感じの内容。もう40代半ばになろうというスーザン(それでも芸歴を考えれば物凄く若い)だが、実際観た印象は物凄く明るくお話好きでチャーミング。司会者から振られる質問にペラペラと話が止まらなくなり、予定時間を大幅にオーバー。何曲か披露したオリジナル曲もなかなかいい雰囲気だったし、メジャー・レーベルとレコード契約を結んだという話だったので、帰国したら彼女の作品をチェックしてみたいなと思った。
16:10 Tribute to Sister Rosetta Tharpe feat. Maria Muldaur, Marcia Ball, Tracy Nelson, Angela Strehli, Del Ray and special guest Irma Thomas @ Blues Tent
一昨日観た「R&Rママさん」が気になって再びブルース・テントへ。今回は1940年代〜60年代に活躍した女性ゴスペル/ブルース・シンガー、シスター・ロゼッタ・サープの作品を紹介する1時間半の長尺ステージ。数年前に彼女のトリビュート・アルバムが出ていて(この日の出演アーティストの殆どが参加している)、今回はそのステージ版という感じ。他にもアーマ・トマスとマルシア・ボール、トレーシー・ネルソンの3人でアルバムを出したこともあるようで、その息はピッタリ。
ステージはマルシア・ボールとそのバンドが中心となって進行し、曲によってマリア・マルダーやトレーシー・ネルソンがそれに加わり、更にスペシャル・ゲストとしてニューオリンズR&Bの「女王」アーマ・トーマスが登場するという形。この手の音楽に対するアメリカ人の反応というのは本当に凄くて、こればかりは日本人は適わない。これは生まれてこの方何を聴いて育ってきたかという「バックボーン」の問題とか、はたまた宗教的倫理観とかまで関わってくる話なので難しくなるけれども、日本人には到底及ばない“違い”のようなものを感じさせられた気がする。
それはともかく。改めて観たマルシアさんは女性にしては物凄い長身で、組んだ足をリズムに合わせてユラユラさせながらピアノを弾く姿が印象的。他の出演者ではマリア・マルダーは独り場違いなくらいケバケバした“クラブのママ風”で、ちょっと浮いてたかも(ただし打ち上げでは一番モテるタイプ)。アーマ・トーマスに対する聴衆の賞賛ぶりは本当に物凄くて、本人が感極まってしまうほど(さすが女王様!)。これはニューオリンズならではの光景だろう。
「食の街」ニューオリンズだけあって、音楽と並ぶジャズフェスの楽しみは食べ物!会場のフード・テントには地元の名物料理がズラッと並ぶ。ガンボやバーベキュー・チキン、ナマズやザリガニにワニのパイ・・。料理は大体4ドルくらいに統一されていて(ラージサイズは6ドルか8ドル)、ビールはちょっと高くて350ml缶が約3ドル(街の酒屋で買うと半ダース6本で4ドル!)。色々試してみたが甘口のソースが少々苦手の僕にはBBQ系はいま一つ。ジャンバラヤが大鍋で非常に大雑把に作られている割には味がよくて、街中の店で食べるより美味しかったかも。ニューオリンズ名物ということで生牡蠣を出してるテントもあったが、それは流石に野外ではね。。
meantimeらしく現在ヒットチャートで活躍しているアーティストのことも触れておくと、この日は昨年生まれたTOP40ヒットの中ではかなり聴ける一曲「Heaven」を放ったロス・ロンリー・ボーイズのステージもチラッと観た。プロモーション・ビデオでは一風変わったグループという印象が強かった彼らだが、実際にライブを観た感じでは物凄く若くて、物凄くオーソドックス(基本に忠実)なバンドだった。丁度「Heaven」を演っている時に立ち寄れたので、これは幸運だった。
17:30 The Neville Brothers @ Acura Stage
ニューオリンズのジャズフェスでトリといったら彼らしかいないでしょう、ということで一番広いアクラ・ステージに最後に登場したのがネヴィル・ブラザーズ。個人的には90年代(80年代後半?)の来日時に都内のライブハウスで観て以来だから10数年ぶりの彼らは、流石に歳をとっていた。リズム隊は若手のミュージシャン、それにもう一人ミュージカル・ディレクター的な立場のメンバーが加わっていて、兄弟たちはそれにのっかって客を楽しませるという感じ。
それにしてもこの兄弟、この前の週にはオリジナル・ミーターズの再結成もやっているし、他にもほぼ毎日兄弟の誰かが自身のユニットで何処かのステージに出演していたりとフェス期間中は大活躍。「ニューオリンズのファースト・ファミリー」としての気概を見せつけられたような気がする。兄弟としての演奏はベテランらしく余裕のあるもので、フェスの終わりを皆でのんびりと迎えるといった雰囲気。演奏の半ばくらいで僕は隣の会場でトリを務めているアーティストを観るために移動。
18:15 Isaac Hayes @ Congo Square Stage
ジャズフェスの中で異彩を放っていた会場がこのコンゴ・スクエア・ステージ。ジャズやR&Bが中心の当フェスだが観客は白人の方が多く、それも比較的教育程度が高い(明らかに大学出風の夫婦や、地元の学生など)印象があったのだがここだけは別で、客層は真っ黒。廻りのテントもアフリカの民族衣装や工芸品などを売っていて、他所とは随分雰囲気が違う。出演するアーティストも比較的若手のR&B系アーティストが多かったのだが、最終日のトリは超ベテランのアイザック・ヘイズだった。会場に着いた時にはもう彼のステージは始まって30分ほどのはずだったのだが・・。
実際現場に行ってみると演奏はまだ始まっていなかった。どうやら機材のトラブルがあったようで、更に10分ほど待たされてようやく御大がニヤニヤしながら登場。「まぁ、色々あるさ。」と大して気にとめる様子もなくライブはスタート。お馴染みのヒット曲やジャム風のインストが延々と続く。
ここで面白いなと思ったのが、ステージの前にはちょっとした台があって、その上でスタッフがアーティストの歌や話している内容を手話で同時通訳していた点。帰国してから調べたのだが聴覚に障害のある観客には希望により手話のスタッフが随行するのだそうで、こういうサービスは日本では考えられないだろう。最初僕が気づいたのはアーロン・ネヴィルのステージの時で、ゴスペルのライブは半分説教のようなものだから、これはなかなかいいアイディアだなと思って観ていたのだが、まさかアイザック・ヘイズのようなアーティストのステージまで手話にするとは。。
彼の演奏はインスト部分が異常に長く、しかも歌が始まるとその内容はかなり際どいものが多い。“最も手話向きでない音楽”といってもいいのだが、手話スタッフは果敢にこれに挑戦。インストの部分では楽器を弾く真似をして(今はギターのソロです)とか(今ドラムを叩いています)みたいな表現をし、物凄く際どい下ネタ系の歌詞(確か「オレのボールをしゃぶってくれ」みたいなことを延々と歌っている・・)でも女性のスタッフがこともなげに手話でサラッと表現して、周囲の観客は大喝采・・という光景があり、それにはちょっと感動してしまった。
アイザック・ヘイスは現在も芸能界的に大物のようで、その存在感は大変なもの。バックのバンド編成もかなり豪華で、やはりこういうところでトリを務めるようなアーティストは歳をとっても立派なものなのだな、などと感心しきり。演奏は定時である19時を過ぎても一向に終わる様子はなく、こちらもいい加減疲れていたので途中で会場を後にすることにした。
ということで僕の3日間に亘るニューオリンズ・ジャズフェスのレポートはこれでおしまい。どうもお疲れさまでした。