八亀's Picks - December 2005

過去の八亀's Picks

12.25 Jersey Boys - Original Broadway Cast Recording
12.25 Lovers Island - Kenny Vance & The Planotones
12.17 We Can Fly - The Cowsills
12.17 Just Believe It - Susan Cowsill
12.04 The Best of Oliver
12.04 Mark Radice

Jersey Boys - Original Broadway Cast Recording

Lovers Island - Kenny Vance & The Planotones


Jersey Boys - Original Broadway Cast Recording (Rhino)
Lovers Island - Kenny Vance & The Planotones (Varese Sarabande)


 2005年も終盤を迎え、忘年会続きの毎日に忙しい思いをしたり、そんな“慣例”に惑わされず相変わらずのんびりと日常を送ったり、それどころじゃなく仕事に忙殺されたり。。そんな生活のBGMにオールディーズを!ということで年末の雰囲気にピッタリな“新録”2枚をご紹介。

Frankie Valli & The 4 Seasons まず一枚目は「ジャージー・ボーイズ」のサントラ。これは茨城県潮来市を舞台に、ジャージ姿の青年たちが大暴れする宮藤官九郎脚本の新ドラマ・・ではなく、今年中野ではない方のブロードウェイで上演されたミュージカルのサウンドトラック。近年60〜70年代に成功を収めたアーティストのヒット曲をふんだんに盛り込んだミュージカルが人気を呼んでいるようで、日本でもアバの「Mama Mia」だとかクイーンの「We Will Rock You(音楽はよかったが、脚本が酷く幼稚なのに閉口した)」などが上演されているが、「Jersey Boys」はニュージャージー出身のボーカル・グループ「フランキー・ヴァリとフォー・シーズンズ」がモデルとなっている。彼らのキャリアを1950年代の下積み時代から成功に至るまで、往年のヒット曲をBGMにたどっていく・・というのがミュージカルのストーリー。

Frankie Valli & John Lloyd Young オリジナル・フォー・シーズンズの4人役には若手の俳優が配されており、となるとどうしても気になるのがリードボーカルのフランキー・ヴァリ、彼の特徴的なファルセットを再現するのは誰か??という点になるのだがそこが流石はアメリカ、ちゃんとピッタリな人材がキャストされていて、ここではジョン・ロイド・ヤングというシンガー兼アクターがその大役を務めている。オリジナル・メンバーの一人ボブ・ゴーディオが制作/監修を担当しているこのストーリーの冒頭を飾るのは意外にもフランス語の「Ces Soirées-la」、これは彼らの「December 1963 (Oh, What A Night)」を元ネタにしたラップ・ナンバーで、2000年にパリでナンバー1を記録したのだとか(本当かね?)。現在も世界中で愛され続ける音楽を生み出した彼らのキャリアのそもそもの始まりは・・?というナレーションと共に、舞台は1950年代へ。

 ここから暫く彼らがブレイクする前の時代の曲がメドレーで披露されるが、この選曲がなかなかマニアックで最初の聴きどころになっている。彼らのプロデューサーであるボブ・クリューが最初に生み出した大ヒット、レイズの「Shilhouettes」をはじめとするドゥ・ワップ・クラシックに混じって、彼らの熱心なファンであれば思わずニヤリとしてしまう「You're The Apple Of My Eye」や「My Mother's Eyes」なんて初期のレアな曲が登場したり、ボブ・ゴーディオがフォー・シーズンズに加入する前に放ったヒット、ロイヤル・ティーンズの「Short Shorts」がチラッと演奏されるなど、非常に楽しい雰囲気で劇は進行。そんな中で彼らは出逢い、類い稀な歌声の持ち主であるヴァリを中心にグループが結成されることとなって1962年のナンバー1ヒット「Sherry」が生まれ、そこから先はヒットに次ぐヒットへ。

 その後はお馴染みの曲ばかりが続くので、曲目を眺めていただけば雰囲気はわかると思う。彼らは60年代に全盛期を過ごした後70年代半ばに再ブレイクを果たしているが、その時期のヒットも上手い具合に60年代のストーリーに織り込まれている。例えば1976年のナンバー1ヒット「December 1963」はその名の通り1963年12月のシーンで、1975年の「My Eyes Adored You(瞳の面影)」は恋人と愛を語るシーンで、といった具合。物語は実際に起った順番が多少前後しつつも60年代後半まで続き、ヴァリがソロで「Can't Take My Eyes Off You(君の瞳に恋してる)」をヒットさせる場面をクライマックスに時代は一気に80年代、彼らが「R&Rの殿堂」入りを果たすところまで飛んで大団円。陽気なヒット曲ばかりで純粋にアルバムとして聴いても楽しめるし、時折入るナレーションで物語の大筋がわかるので彼らのサクセス・ストーリーのおさらいとしても楽しめる。大ヒットばかりをつなげながら途中殆どダレることなくエンディングまで持っていってしまうところは流石だ。

Looking For An Echo (2000) ミュージカルの評判はなかなかいいらしく、ジョン・ロイド・ヤングは今年のブロードウェイでもっとも印象的な人物の一人に選ばれるなど、かなりの高評価を得ている。出来れば日本での上演も望みたいが「We Will Rock You」でさえ客の入りはあんな感じだったから、まず無理なんでしょうね・・。来年渡米するチャンスに恵まれたら、是非ともニューヨークで観たい一作である。で、もう一枚の紹介は、恐らく現役では最高のドゥ・ワップグループであるケニー・ヴァンスとプラノトーンズの新作。彼らは数年前に日本でも公開された素晴らしい映画「Lookimg For An Echo(奇跡の歌)」に於いて、影武者として歌の部分を担当したことで知られているが、現在もニューヨークを拠点にライブ活動を行っており、時折オリジナル・アルバムも発表し続けている。今回は50年代のドゥ・ワップクラシックを彼ら流の味つけで甦らせた好企画盤で、一曲目がいきなりスカイライナーズの隠れた名曲「Lonely Way」という点でもうマニアはノック・アウト。収録曲は殆どがバラードで、悪くいえばワンパターンだが、それが彼らの持ち味だし最大の魅力だから、只々その世界に浸り静かな夜を過ごしたい・・なんて気になってくる佳作である。

 ケニー・ヴァンスとプラノトーンズは僕もずーっと来日公演を待ち望んでいるグループの一つで、実際に招聘に動いているところもあると思うのだが、あまりにも日本と現地の評価が違い過ぎるので条件面が折り合わないのだろう、未だ実現しないままとなっている(ケニー・ヴァンスは無名時代のスティーリー・ダンの音源を持っていて、それを巡って彼らと係争したこともある人なので、恐らく金銭面は相当シビアなんだと思う)。最近「コットン・クラブ」なんて洒落たライブ・スポットも東京には出来たので、是非とも呼んで欲しいところだけど・・。これも次回渡米時の課題とするか。

収録曲等詳細(発売元のサイト)
Jersey Boys - Original Broadway Cast Recording
Lovers Island - Kenny Vance & The Planotones

(2005/12/25)

We Can Fly - The Cowsills

Just Believe It - Susan Cowsill


We Can Fly - The Cowsills (Collector's Choice Music)
Just Believe It - Susan Cowsill (Blue Cone Music)



 60年代後半“フラワー・パワー”な時代のポップ・シーンで最も愛すべきグループの一つが“牛も知ってる”カウシルズ。カウシル一家の母子からなる文字どおりのファミリー・グループで、67〜69年に何曲ものラヴリーなヒットを放っているが、オリジナル・アルバムのCD化は随分前に「The Rain, The Park & Other Things(『雨に消えた初恋』'67米2位)」をフィーチャーしたファースト・アルバムと、もう一つの大ヒット「Hair('69米2位)」が収録されていた目を覆いたくなるようなライブ・アルバム(でもボーナス・トラックが最高によかった)「The Cowsills In Concert」の2枚が出ただけで、その後はまったく復刻の様子がなかった。

We Can Fly (Single) 今回CD化されたのは彼らのアルバムの中でも特にソフト・ロックファンに人気の高いセカンド「We Can Fly」。アルバム・タイトル曲の「空飛ぶ心('68米21位)」と「In Need Of A Friend(同54位)」の2つのヒットをフィーチャーしたアルバムで、家族の美しいハーモニーは絶好調。曲の殆どをメンバーのビルとボブが手がけており、プロデュースもこの2人が担当と、彼らが家族グループという話題性だけでスターになったのではないところを証明した内容になっている。ヒット曲以外で聴きどころは「Gray, Sunny Day」「What Is Happy, Baby」「Mister Flynn」「One Man Show」あたりか(いずれもカウシル兄弟の作品)。カウシルズというとどうしても脳天気なポップスを思い浮かべてしまうが、意外にもちょっと翳りのある曲調の作品が、味があってよかったりする。蛇足情報になるが今回のCDは、ケースの裏面に書いてある曲順はバラバラだし、全11曲収録なのに10曲分しか曲名が書いてなかったり(僕の好きな「What Is Happy, Baby」が抜けてる!)と、一体どうやったらこんな間違いができるの?というミスが随分気になる。でも、これまでバカ高い中古盤かブートでしか聴けなかったこのアルバムが、どんな体裁であるにしても手軽に入手できるようになったことを喜ぶことにするか。

Captain Sad and His Ship of Fools (1968) まだ10代だったカウシル兄弟をアルバムのプロデューサーに据えるのは、レコード会社にとっても賭けの部分があったようだが、内容は素晴らしかったものの華に欠けたせいかこのアルバムはチャートで89位が最高と期待を遥かに下回る結果に終わってしまった。慌てたレーベルは再びグループに外部のプロデューサーをつけ、続いて68年に制作されたのが彼ら唯一のコンセプト・アルバム「Captain Sad and His Ship of Fools」。これも早くCDで聴いてみたいのだが、それが実現するのはいつのことになるか・・。と、ちょっと話がそれたが、今回もう一枚紹介するのはこの「We Can Fly」リリース時にグループの正式メンバーとなった末娘スーザン(「We Can Fly」のジャケットで先頭で滑っている女の子)のソロ・アルバム。彼女が現在もシンガーソングライターとして活動を続けているのは5月に観たニューオリンズのライブレポートで書いた通りだが、その時はなかなか入手困難だった自主制作アルバムの配給元が決まり「ようやく契約したのー!!」と彼女がステージ上ではしゃいでいた姿を今でもよく覚えている。ということで無事amazon.jpでも購入できるようになった「Just Believe It」をご紹介。

 ニューオリンズで観た彼女は信頼できるバンドを得た自信のようなものが感じられ、アコースティック・サウンドを基調とした力強い演奏を聴かせてくれたが、このアルバムはそんな彼女の音楽性を過不足なく伝える内容になっている。幾つかのカバーを除く収録曲のすべてがスーザンの自作または共作ナンバーで、ゲストのクレジットにはルシンダ・ウィリアムスや、カウシル兄弟のジョンと結婚しスーザンと義姉妹になった元バングルスのヴィッキー・ピーターソン“カウシル”の名も。特に耳を惹くナンバーとしてはニューオリンズのステージでも聴くことが出来た「Nanny's Song(ニール・ヤングの「Helpless」を彷佛させる曲調)」や、サンディ・デニーの「Who Knows Where The Time Goes」を力強くカバーしたものなど。ボーナス・トラックにビーチ・ボーイズ「Don't Worry Baby」のカバーが収録されていたのにはちょっとビックリしたが。

 現在の彼女の音楽性をどんな言葉で表現すればいいのか難しいところだが、例えばキャメロン・クロウが監督する映画のサントラに収録されていても、何の違和感もない女性シンガーソングライターもの、とでも書けば伝わる人には伝わるだろうか?彼女の地道な活動を、今後も見守っていくことにしたい。

収録曲等詳細(発売元のサイト)
We Can Fly - The Cowsills
Just Believe It - Susan Cowsill

(2005/12/17)

Good Morning Starshine: The Best of Oliver

Good Morning Starshine: The Best of Oliver
(Taragon)



 随分長いこと60年代のヒット曲をCDベースでコツコツと集め続けているが、縁のない曲というか、巡り合わせの悪い曲というのが幾つかあって、僕にとってその代表的なものがオリヴァーの「Good Morning Starshine('69米3位)」と「Jean(同2位)」の2曲だった。どちらも随分前から60年代“フラワー・パワー”な時代のコンピレーションCDに収録されているのだが、その何れもが「この曲以外全部持ってるよっ!!」な内容だったため、なんとなく手が伸びないないまま2005年にまでなってしまった。そんな個人的には因縁の(多分大半のポップス・ファンには眼中にない)オリヴァー待望の単独CDが発売された。

The Label That Had to Happen: Bob Crewe Presents The Dyno Voice Story 本題に入る前に例によって少々無駄話を。フォー・シーズンズのプロデューサーとしてその名を知られるボブ・クリューは、彼ら以外にも多くのアーティストを手がけ、幾つものヒットを放っている。中でも成功したのが彼自身が立ち上げたレーベル「ダイノ・ヴォイス」時代で、ここからは後期ガール・グループのトーイズやブルー・アイド・ソウルのミッチ・ライダー&ザ・デトロイト・ホイールズなど人気アーティストが生まれた他、彼自身も「ボブ・クリュー・ゼネレーション」名義で「Music To Watch Girls By('67米15位;アンディ・ウィリアムスによるボーカル・バージョンが『恋はリズムにのせて』のタイトルで日本でも大ヒットを記録)」をヒットさせたり、ラウンジ/サバービア派に人気の高いジェーン・フォンダ主演映画「バーバレラ」サントラを制作したのもこの時期。で、この「ダイノ・ヴォイス」が契約したアーティストの中に「グッド・アース」というノース・カロライナ出身のグループがいたのだが、その主要メンバーだったのが今回の主役であるビル・オリヴァー・スウォフォード。

Good Morning Starshine (1969) このCDのライナーを執筆している、恐らく北米で唯一人の「女流ソフト・ロック研究家」ドーン・イーデン女史によれば、オリヴァーのCDは90年代後半に一度企画が持ち上がっていたようで、選曲リストやライナー(今回のとほぼ同内容)も用意されたそう。それがどういう訳か立ち消えとなり、うやむやになっている間にオリヴァー本人は2000年に癌で死去。彼には可哀想なことをしたが今年になってようやくのCD化、失意の中この世を去った(大袈裟か)本人の分も我々で楽しむことにしよう。グループ解散後もボブ・クリューの下に留まった彼はまずジュビリー・レコードから当時大ヒットしていたロック・ミュージカル「ヘアー」からのナンバー「Good Morning Starshine」をリリース。「ヘアー」の一大競作ブームの様相を呈していたこの時期のヒットチャートを勝ち抜いた後、クリューが設立したレーベル、その名も「クリュー」に移籍しリリースしたのがロッド・マッケン作曲の映画「The Prime Of Miss Jean Brodie(ミス・ブロディの青春)」のテーマ「Jean」。この感傷的なバラードが再び大ヒットを記録し、彼は時代の寵児に。

Oliver Again (1970) とりあえずこの2曲が聴ければヒットチャート・ファン的には満足だが、このCDには聴きものがまだある。収録順に紹介していくと、まずは彼のもう一つのTOP40ヒット「Sunday Morning('69米35位)」、こちらはスパンキーとアワ・ギャングと競作になったマーゴ・ガーヤン(当時は“グリヤン”)作の名曲。60年代末の雰囲気たっぷりのこの曲に続いては、今度はバリー・マン&シンシア・ウェイル作のやや大仰なバラード「Angelica('70米97位)」、これで彼のチャート・キャリアはおしまい。この程度の実績しか残さなかったアーティストの単独CDなんて、買う必要あるのか??いや、ヒットこそしなかったが、まだまだ結構面白い曲があるのだ。例えば彼が70年に発表したアルバム「Oliver Again」に収録されていた「Young Birds Fly」、アメリカではクライアン・シェイムス('68米99位)が、イギリスではフラワーポット・メンがカバーしたことでソフト・ロックファンには知られている曲だが、これがオリヴァーのペンによる作品だったとは(彼は「グッド・アース」時代のアルバムでも録音している)。さらに当時ボブ・クリューの制作下で作品を発表していたレスリー・ゴアと“ビリー&スー”名義でデュエットしたフリートウッズのカバー「Come Softly To Me」も、これまでなかなか聴けなかった貴重な作品である。

 70年代に入り、甘ったるいバラードを歌うよりシリアスなアーティストを目指すことにしたオリヴァーはユナイテッド・アーティスツに移籍、そこでの第一弾シングル「Light The Way」はラズベリーズで成功を収める以前のエリック・カルメンが曲を提供し、アレンジも手がけたバラードなので彼のマニアは要チェック。その後ポップ・カントリー調に音楽性が移行していく彼のシングルは徐々に面白味がなくなるが、レーベルをまたがって主要シングル音源を網羅したこの選曲はほぼ満点といっていいだろう。但しアルバムを3枚(グッド・アース時代も含めれば4枚)残しているアーティストのベストCDが全12曲かよっ!という不満はあるが。何れにしても60年代末の雰囲気を濃厚に反映したポップスが満載のこのCD、ファーストネームつながりでいえばキースだとか、そこら辺のファンシーなポップスが好きな人であればかなり楽しめる一枚だと思う。

収録曲等詳細(発売元のサイト)

(2005/12/4)

Mark Radice (Private Press CD)

Mark Radice (RADISONGS)


Mark Radice (1971 Paramount Records) 今年の5月にニューオリンズを訪れた際は、午前中はレコード屋巡り、午後はジャズフェスというなかなかハードな毎日を送ったのだが、その中(結局アナログのLPばかり40数枚買い込んだ)で出逢った一枚にマーク・ラディスというアーティストが1971年に発表したアルバムがあった。ジャケットの容姿からして随分と幼い感じで、僕は当初“お子様ポップ”を期待して試聴してみたのだが、これが意外なくらいしっかりしたシンガーソングライターもので即座に購入を決定。帰国後気になって彼の経歴を色々と調べてみたら、実は現在47歳になっている彼が昨年このアルバムを自らCDに焼き、ネットを通じて販売を行っていることが判明したので、試しに取り寄せてみることにした。

 この項の主役マーク・ラディスは1958年生まれ。ヴァーヴ・レコードで初期のジャニス・イアンやヴェルヴェット・アンダーグラウンド、マーキュリー・レコードではレフト・バンクやスパンキーとアワ・ギャングなどの作品のエンジニアを務めたジーン・ラディスを父に持つ彼はそのコネクションもあってかわずか6歳で最初のシングル「Wooden Girl(1964年)」をRCAからリリース。その早熟な才能は他のアーティストにも注目され、それから7年後の71年に発表された彼(まだ13歳)のファーストアルバム(今回のCD)にはドノヴァンが「1970年代はマーク・ラディスの時代だ!」とのコメントを寄せているほど。

Mark Radice (at 16) 結果を先に書いてしまうと、このアルバム及びカットされたシングルは何れもヒットチャートに某かのインパクトを残すことはなく、ドノヴァンの予言通りにラディスの時代が到来することはなかったのだが、プロデュースを東海岸の大物ジェリー・ロスが、ミキシングを父ジーンが担当したアルバムの内容は早過ぎた天才の音楽性を見事捉えた内容になっている。ポール・ウィリアムスあたりを彷佛させる作風の自作曲(アルバムすべてを占める)はどれも陰影を帯び、ローティーンらしい無邪気さは殆ど感じられずこの“陰鬱さ”がアルバムが市場に受け入れられなかった最大の原因だったのかも知れない。

 印象的な楽曲を書いておくと、短いインタールードに続いて始まる「New Day」、これがまずの聴きどころ。東海岸のトップ・スタジオ・ミュージシャンたちが集められ、ストリングスも被せられたサウンドはダイナミックで非常に聴き応えがある。続く「Hey My Love」はこの5年後にディオンがアルバム「Streetheart」で取り上げたもののオリジナルで、ちょっとクサめのメロディ・ラインが個人的には好みではない(ディオンのバージョンもあまり出来のいいものではなかった)。その後アナログA面には彼のピアノがよく響くコード選びやメロディ作りが為されているナンバーが続き、ラディスの非凡なセンスを人々に知らしめる内容になっている。

 続くB面はA面ほど耳を捕らえるメロディの曲はないが、彼の“陰鬱な”作風は全開。特に「Take Me To The Park」という曲、この歌詞は【 公園に連れていってよ/天国のような光に包まれ/木々が僕の頭上を覆う/ねえ、連れていってよ 】という13歳らしいといえばらしいものなのだが、これが非常にダウナーなメロディで歌われており、彼の未だ発展途上な精神性と、幼くして持ってしまった非凡な音楽的才能とのギャップを露にしてしまっているような印象。しかもこれが【 ここに来るのは本当に小さい頃以来/もう随分と昔の話/僕も随分歳をとってしまった 】と続くとなれば、もうどうツッコんでいいのか・・。今回のCD化にあたってオリジナルのマスターテープの使用は叶わなかったようで、ところどころ音質の悪い部分が気にはなるが、歴史から見落とされた好盤のひっそりとした復活を何かのきっかけで知り、もしかしたら僕同様偶然巡り逢って愛聴盤とする人もいるかも知れない・・ということで、ネット上に痕跡を残しておくことにした。

Mark Radice (at 19) ついでにその後の彼の活動も。続くアルバムの発表を目指して音楽制作を続けた彼はドノヴァンのツアーに参加、彼が74年に発表したアルバム「7-Tease」にもクレジットが確認できる。それから数年してレコード契約を再び獲得した彼は、今度はディスコ・アーティストとして「If You Can't Beat 'Em, Join 'Em(長いものには巻かれろ?)」をヒットチャートにランクインさせることに成功('76 POP110位/R&B55位/Disco12位)。翌年にはラディスが9歳の時のレコーディングでドラムを叩いていたという旧知のミュージシャン、スティーヴン・タラリコ(後にタイラーと改名)のバンド「エアロスミス」にキーボード奏者として加わり「Draw The Line」ツアーに参加、そこでの活躍はアルバム「Live Bootleg」に記録されている。80年代には職業ソングライターとして多くのアーティストに作品を提供、チープ・トリック1985年のアルバム「Standing On The Edge」には殆どの曲の作曲者として彼の名前がクレジットされた。

 ラディスによれば過去のレコーディングのストックは1,000曲以上あるそうで、とりあえず20枚の未発表作品集をリリースする用意があるという。流石にそこまで付き合う気にはなれないが、この超早熟アーティストの初期録音については、機会があったら聴いてみたい気はする。

Mark Radice Official Website

(2005/12/4)