CD再発業界は10月頃から年末商戦がスタートしていて、次々と届く“大型案件”を聴きながらあれこれ調べたり、思いを馳せたり・・なんてことを続けていたら、寝る時間も削らざるを得ないくらいの毎日になってしまう。なのでここに掲載するCD紹介も、そのボリュームや内容で書き上がるのに時間がかかったり、意外にあっさりと書けてしまったり、とまちまちなので、取り上げるタイミングが発売や入手順にはならないことを予めお断りしておきたい。
などと一体誰に対する言い訳なのかわからないことを書きつつ本題へ。日頃酒を飲みながら60年代やもっと古い年代の音楽の話ばかりしているから「あんた一体幾つなの??」とよく言われる。「音楽の聴き始めはいつ?」と聞かれれば、僕は「MTV世代」ど真ん中にあたるのだが、実はあの頃のリアルタイムな音楽が当時からあまり好きではなかった。だから実家に帰って残されたレコードを見ても80年代のポップスは殆どなし。60年代の再発ものばかりがゴロゴロしているという、当時10代にしてみれば異様な内容になっていて我ながら呆れたり。後年盛り上がった「ウィー・アー・ザ・エイティーズ(洋楽史上最悪のキャッチフレーズだと思う)」シリーズなんてのも、懐かしい曲、珍しい曲の幾つかには心惹かれたが、結局購入はせずじまい。
とはいえ学生時代、学校から帰ったら毎日夜遅くまでミュージック・ビデオが流される番組を観続けていた訳だから、それらが脳味噌に刷り込まれていないはずがない。先日発売の情報を見てその選曲に「おおっ!」と唸り、つい取り寄せてしまったボックス・セットが、サイア・レコードの歴史をたどったCD3枚+DVD1枚。ボックスに貼ってあるステッカーによれば“パンク、ニューウェーブ、そしてマドンナを世界に紹介したレーベル!”とのことだが、マドンナはともかくパンクとニューウェーブは言い過ぎだろっ!ま“世界”を“アメリカ”に置き換えればあながち間違いではないと思うので、言い掛かりはこれくらいにして内容に移ろう。今年「R&Rの殿堂」入りし、伝説のレコード・マンの仲間入りを果たしたシーモア・スタインがサイア・レコードを興したのはかなり古く1966年のこと。70年代にはフォーカスやクライマックス・ブルース・バンドをアメリカで成功させたが、このレーベルが真の意味で独自性を発揮し始めるのはスタインが単独で同社の経営権を握った76年あたりから。アメリカにおけるパンク・ムーブメントの中心となっていたライブハウス「CBGB」と伝説的なディスコ「Studio 54」を毎晩“シャトルのように”往復していたというスタインはシーンのユニークな才能と次々と契約。一方でイギリスの音楽シーンに精通したブレーンも得、当地の音楽をアメリカに紹介する役割も果たし始める。
といった流れを踏まえて、収録曲をランダムに紹介。ボックス冒頭を飾るのは、当然のことながら同レーベル最大のスター、マドンナ。しかし選ばれているのは今聴くと意外なくらいエレクトロ色の強い「Everybody(彼女のファーストアルバム収録)」で、このボックスには「Like A Virgin」が入っていない!強気!!勿論他の作品とのバランスを考えてのことだとは思うが。他のアメリカ勢ではニューヨークのニューウェーブ・シーン最重要グループ、トーキング・ヘッズから派生したトム・トム・クラブ、当地のクラブ・シーンを賑わせたジョナサン・リッチマンやキッド・クレオール&ザ・ココナッツなど。イギリス勢はもっと豪華でイングリッシュ・ビートやマッドネスの2トーン系に始まり、エレクトロなイレイジャー、ソフト・セル、ヤズー、デペッシュ・モード、エヴリシング・バット・ザ・ガール・・と、Disc 1を聴いているだけで目眩いが。。「えっ!?オレってそんなにこの手が好きだったっけ??」と、意外に“エレクトロ好き”な自分も発見してしまった。比較的珍しめの曲にも印象深いものがあり、スティーブン“ティンティン”ダフィなんて10数年ぶりにその名前を見た気がする。
続く2枚目は比較的ネオアコ/ギター・ポップものが多い。過去20年間に亘り、ある層の音楽ファンには最重要アーティストであり続けるスミス/モリッシーから、初めてMTVで観た時はまさかこんな大物バンドになるとは思わなかったキュア、本国と日本とどっちの方が人気が高いのかわからないエコー&ザ・バニーメンやアズテック・カメラなど。ちょっとエレクトロ入った感じでは、僕にとって未知のバンドであり続けたテレックスや純度100%の“ニューウェーブ(と僕は感じる)”、プラスティック・バートランドの「Ça Plane Pour Moi」なんてのも。モダーン・イングリッシュの名前も、別に思い入れがある訳ではないが妙に懐かしいし。プライマル・スクリーム、マイ・ブラディ・ヴァレンタイン、ライドあたりは、僕がイギリスのロックに興味を失って以降に登場したバンドなのでつい聴き飛ばしてしまうが(スマン・・)。
最後3枚目にはこういった流れの最初期に契約した重要バンド、ラモーンズが登場。そしてこちらも別格的存在のプリテンダーズ・・・もう名前を書くの疲れた。お気に入りの“エレクトロ”ものでは、レイド・バック「White Horse」のクールさに、今更ながらシビレてしまった。今までに挙げてきた“最先端”アーティストを紹介する一方で、サイアは常にベテラン・アーティストにも敬意をもったリリースも続けていて、このボックスにはブライアン・ウィルソンやルー・リード、デボラ・ハリーといったアーティストの復活作が収められているし、90年代に再発見され大きな話題となったリトル・ジミー・スコットも、思えばこのレーベルが仕掛けたものだった。当時は新人だったが、80年代後半〜90年代前半の音楽シーンで、もっとも才能ある女性シンガーと僕が考えているk.d.ラングの活動を一貫して支え続けてくれている点にも、個人的に感謝したい。オマケについているDVDには歴代のヒット20曲分のプロモ・ビデオが。79年のM「ポップ・ミューヂック」から、2000年のエイフェックス・ツインまで、バラバラなようでいて一貫したポリシーで送り出されている作品の数々を楽しむことができるので「MTV世代」が集まる際のBGVに使用してみては。
一言でいえば“僕の好きな80年代”がぎっしり詰ったひと箱。他とは毛色が違うが、これも個人的な今年のベスト・リイシュー候補の一つである。
もう一つ最近入手したのが、ライノ・レコードの「ナゲッツ」シリーズ第三弾。第一弾は60年代のパンク/サイケデリック・ロックを集大成した歴史的名企画、第二弾はそれをイギリスやその他の国に範囲を広げて選曲し、アメリカ以外の各国のロック・マニアに「ぬるいっ!」と一喝された失敗作。続く第三弾はどんな内容かというと、オリジナルの「ナゲッツ」がリリースされた1972年以降、それらの音楽に影響を受けた作風の作品を20年間に亘って拾い上げてみたというもの。収録作品の中心は80年代に録音されたもので、そこら辺はちょっと「The Sire Records Story」に被るところもある。
個人的な話をすると、80年代に洋楽を聴き始めた僕が最初に「サイケデリック」というキーワードに出会ったのはトム・ペティが85年に放った「Don't Come Around Here No More(米13位)」なのだが、その前後にロサンゼルスで“ペイズリー・アンダーグラウンド”というムーブメントがあったり(その流れからバングルスが登場した)、ロング・ライダーズなど60年代のバーズを彷佛させるフォークロック・スタイルのバンドが幾つも登場したり、イギリスのXTCが変名「ザ・デュークス・オブ・ストラスフィアー」名義でサイケデリック・アルバムを発表したり・・と一時期頻繁に「サイケデリック」が音楽シーンや誌上を賑わせた時期があった。
今となればそういった一連の出来事が、このボックスがカバーする20年間の一部分に過ぎないことがわかるが、そんなことは時がたち、ある程度年齢を重ねてみないとわかるものではない。それはともかくこのボックス、アメリカ、イギリス(あとちょっとだけオーストラリア)遠慮なく様々なアーティストが残した“ネオ・サイケ”な作品を集めた4枚組で、全米ヒットの収録は殆どなし。中には現在も現役、「Fuji Rock」などで日本に来ているようなバンドも含まれているので“ウィー・アー・ザ・エイティーズ”な音楽ファンには取っつきにくいかも知れない。僕にとっても“これまで知らなかった80年代”が満載のこのひと箱、むしろもっと若い世代の音楽ファンの方が“ルーツ・オブ・ギター・ポップ”として楽しめるのかも。僕も勉強させていただきます。
収録曲等詳細(発売元のサイト)
Just Say Sire: The Sire Records Story
Children Of Nuggets: Original Artyfacts From The Second Psychedelic Era 1976-1995