八亀's Picks - October 2005

過去の八亀's Picks

10.23 Dionne - Dionne Warwicke
10.22 Sing Great Country Hits/Gone Gone Gone - The Everly Brothers
10.22 Rock 'N Soul/Beat 'N Soul - The Everly Brothers
10.22 From Nashville To Hollywood - The Everly Brothers
10.20 Ace Records 30th Birthday Celebration
10.17 クレージー・キャッツ・デラックス
10.17 Magic Hollow - The Beau Brummels
10.12 The Legendary 60s Pop Sessions - Caterina Valente
10.12 Victim Of Romance & Rarities - Michelle Phillips

Dionne (1972)

Dionne - Dionne Warwicke
(SPY)



 昨年ライノ・ハンドメイドから次々とリリースされたディオンヌ・ワーウィックが60年代に発表したアルバム群を紹介した際「これで全盛期に彼女が録音したバート・バカラック作品はほぼ全てCDで聴けるようになった。」というようなことを書いた気がするが、実はあと1枚あることを失念していた。1972年発表の「Dionne」、今回世界初のCD化である。

David/Warwicke/Bacharach(プリクラ状態?) 1971年、10年間在籍したセプター・レコードからメジャーのワーナー・ブラザーズに移籍した彼女は、心機一転占星術師の勧めに従い姓名に“e”を加えた「Dionne Warwicke」に改名、その年の8月にセッションが行われたのがこのアルバム。全10曲中7曲がバカラック=デヴィッドの作品であったが、バカラック自身がアレンジや指揮まで務めたのはそのうち4曲のみ。残りは売れっ子ジャズ・ピアニストのボブ・ジェイムスが手がけており、それまでの「バカラック=デヴィッド=ワーウィック」作品とはやや手ざわりの違う仕上がりになっている。

 やる気満々なディオンヌの姿が写し出されたジャケットと対照的に、アルバム全体が3人の一つの時代の終わりを暗示するような暗く重い雰囲気に包まれているこの作品で、バカラック制作の4曲は重厚な存在感を示している。その中の1曲「The Balance Of Nature」は、ポピュラー界に生まれたごく初期の“エコロジー・ソング”の一つと解釈していいだろう。一方ボブ・ジェイムスが担当した3曲、カーペンターズがヒットさせた「Close To You」のセルフ・リメイク、フィフス・ディメンションの「One Less Bell To Answer」、そして「Hasbrook Heights」では意識的に楽器編成を変え、サウンドにやや軽く明るめな印象を与えている。

 バカラック=デヴィッド作品以外で注目されるのは、このアルバムから生まれた唯一のヒット「If We Only Have Love('72米84位)」。これはベルギー出身のシャンソン歌手ジャック・ブレルが作った曲に、ベテランソングライター、モート・シューマンが英語詞をつけた異色作で、短いメロディのパターンが何度も繰り返されながら徐々に盛り上がっていく力強いナンバー。移籍第一弾にしては冴えないチャート成績に終わってしまったが・・。

 このアルバム発表後“Warwicke”には、何年にもわたっての苦難が続くこととなる。育ての親であるバカラックとデヴィッドは間もなくコンビを解消し、後ろ盾となる制作チームを喪失。その後様々な組合せでアルバムが制作されたが、何れも期待されたようなヒットには結びつかず、結局70年代の残り殆どを、74年にスピナーズと共演した「Then Came You(皮肉にも彼女にとって初の全米ナンバー1ヒットとなった)」を例外に“過去の遺物”として過ごすことになってしまった。名前を元の“Warwick”に戻し、アリスタへ移籍した79年以降彼女が華々しいカムバックを遂げるのはご存じの通りだが、かつての恩師バカラックとの関係は75年には訴訟問題にまで発展し完全に破綻。裁判が和解に至り、2人が再び新たな作品を生み出すまでにはこのアルバムから10年もの歳月を要すこととなってしまった(註:このCDのライナーによれば、バカラックとワーウィックは裁判所で争うこととなる直前の74年にリユニオンを試み、3曲の録音が未発表のまま放置されているそうだ。近いうちのCD化を望みたい)。

 バカラック・マニアであれば、当然コレクションに加えるべき1枚だろう。内容も悪くはないし。なおこのリイシューを監修したのはイギリスのマニアックなR&B研究サイトで、一応このCDはそのサイトからのネット通販オンリーということになっている(実際はいろんなところで見かけるが)。他にも色々と珍しいアルバムをCD化しているので、一度訪問してみることをお勧めしたい。

収録曲等詳細(発売元のサイト)

(2005/10/23)

Everly Brothers Sing Great Country Hits (1963)/Gone Gone Gone (1965)

Rock 'N Soul (1965)/Beat 'N Soul (1965)

From Nashville To Hollywood: Rare & Unreleased Recordings 1961 to 1963


Sing Great Country Hits/Gone Gone Gone
Rock 'N Soul/Beat 'N Soul
From Nashville To Hollywood
- The Everly Brothers (WSM)



 もしかしたら2005年は、エヴァリー・ブラザーズファンにとって21世紀最初で最後の当たり年なのかも知れない・・と思えてきた。それは大袈裟かも知れないので“21世紀前半”と微妙に期間を狭めてもいいが(大して変わらないか)、そんなことも書いてしまいたくなるくらいに昨今の彼ら関連のCDリリースは凄まじい勢い。先日はコレクターズ・チョイスから再発されたワーナー時代のオリジナル・アルバムを紹介したが、今回はそれらのうちの何枚かがヨーロッパで2イン1形式でCD化されたものをご紹介。

It's Everly Time/A Date With The Everly Brothers Both Sides Of An Evening/Instant Party 

 1950年代後半にインディ・レーベル「ケイデンス」で華々しい活躍を見せたエヴァリー・ブラザーズは、1960年には新興のメジャーレーベル、ワーナー・ブラザーズと長期契約。約10年間に10数枚のオリジナルアルバムを残したのは以前書いたとおり。過去に2イン1でCD化されているものを先に紹介しておくとまず1960年には「It's Everly Time」と「A Date With The Everly Brothers」をリリース。兄弟作の名曲「So Sad (To Watch Good Love Go Bad)」で幕を開ける前者は、ケイデンス時代の主要ヒットを手がけたフェリックス&ボードロー・ブライアント夫妻作の曲が12曲中6曲を占める内容だが、若干急造の印象がある一枚。夫妻作の「Sleepless Nights」は掛け値なしの名作だが。続く「A Date 〜」はこの時期の彼らの最高傑作で、兄弟作の4曲はワーナー移籍第一弾のナンバー1ヒット「Cathy's Crown」以下佳曲揃い、夫妻の方も負けずに「Always It's You」「Love Hurts」などを提供と、大変な充実ぶり。彼らのメジャー移籍はひとまず大成功ということになった。

 翌61年には「Both Sides Of An Evening」と「Instant Party」を録音。前年の兄弟オリジナル+夫妻提供曲という体制が続けばよかったのだが、ツアー生活を送り、数カ月毎にシングル盤をリリースしながら別に年2枚ペースでアルバムを制作し続けるのは負担だったのか、以降彼らのアルバムはスタンダードなど過去の作品のカバーで埋めつくされることになる。「Both 〜」はアルバムA面が「ダンス・サイド」、B面がバラード中心の「おやすみサイド」とふた通りの夜の過ごし方を提案した“コンセプト・アルバム(?)”で、出来は比較すればバラード側に軍配が上がるか。「Instant 〜」はテーマのあまり感じられないカバー集で、早くもアイディアの枯渇か?と心配させられる。映画「上流社会」のテーマ「True Love」で聴かれる二人のハーモニーは、非常に美しいのだけれども。

 と、ここまでが過去(2001年)に2イン1化済みのアルバム。これでようやく新着CDの紹介に入れる。62年に彼らは半年間海軍に入隊、この年にも録りだめたシングル音源とベスト盤&クリスマス・アルバムで見事契約をこなした2人が翌63年に入って発表したのが「Sing Great Country Hits」。カントリー名曲集ということでまたカバーかよっ!と言いたくなるが、彼らの音楽的ルーツだけあって流石に出来はよく、二人のハーモニーも絶好調。このアルバムはそれまで彼らがレコーディングを行っていたナッシュビルを離れ、ワーナーの本拠ハリウッドで制作された最初の作品で、バックにはグレン・キャンベル、レオン・ラッセル、ハル・ブレインといった錚々たる面々が参加。この“音のよさ”もアルバムの価値を高めている。

 しかしこの時期ヒットメーカーとしての彼らは既に下降線状態にあったためその後アルバム制作は暫し停滞。そうこうしているうちに64年にはビートルズ以下イギリス勢のアメリカ襲来が巻き起こり、彼らも時代遅れの存在としてシーンから追いやられてしまうのか・・・と思ったら大間違い、イギリスのビート・バンドたちにとってエヴァリー兄弟は神様のような存在で、その再評価もあってか“敵国”イギリスでヒットを連発。本国アメリカでもブリティッシュ勢にひけを取らぬビートナンバー「Gone Gone Gone」が約2年ぶりにTOP40ヒットを記録し、その勢いにのってリリースされたのが同名アルバム。しかし内容はといえば60年に録音された作品が今更収録されていたり、ナッシュビル録音の安易なカバー録音が目立ったりと、ヒットに合わせて急遽曲が集められたという印象が拭えない出来となってしまった。

 続く65年には、彼らはR&Rクラシックを集めた2枚のアルバム「Rock 'N Soul」と「Beat 'N Soul」をリリース。またカバーかよ!なのだが仕方がない。このカップリングで面白いのは「Rock 〜」はナッシュビルで、「Beat 〜」はハリウッドで録音されている点で、前者はやや精彩に欠け、対照的に後者のサウンドには大変な勢いが感じられる。音楽界に“西海岸の時代”が到来した様子が、こんな古株アーティストの作品からでも窺い知れるのは大変興味深い。因みに参加ミュージシャンはドラムにジム・ゴードン、キーボードがビリー・プレストン、ベースは後にブレッドを結成するラリー・ネクテル、ギターには元クリケッツのソニー・カーティスにグレン・キャンベルとジェイムス・バートンが加わるという大変なオールスター・バンド状態。

 どちらのCDにも同時期に録音されたシングル音源や未発表曲などがたっぷり追加され、大変聴き応えのある内容になっているのだが、今回これに加えリリースされたのが61年から63年にかけて録音された未発表曲や別バージョン、アルバムから漏れたレア音源をアルバム一枚分詰め込んだ「From Nashville To Hollywood」。このCDの聴きどころは、恐らくシングル用に録音されたであろうアルドン系のソングライターたちによる作品群で、ハリウッドで録音を始めた彼らは当時アルドン・ミュージック(スクリーン・ジェムス)の西海岸の窓口を務めていたルー・アドラーと知り合い、その縁で同社の作品を数多く取り上げるようになったようだ。有名なものではキャロル・キングとジェリー・ゴフィン作の「Crying In The Rain('62米6位/英6位)」があるが、ここにはそのキング=ゴフィン作品が4曲、更にゴフィンがジャック・ケラーと組んだ作品が6曲と、かなりの数が収録されており、黄金期のアメリカン・ポップスの舞台裏を覗いたような気分にさせられる。

 実はこれらCDの発売がアナウンスされたのは今から3年以上も前のことで、それから待ちに待って今月ようやくの入手となったのだが、この続編もまた何年後かに発売されることになるのだろうか?少なくとも「From Nashville 〜」のライナーは【続く】で締められているが・・。ドイツのベア・ファミリーは彼らの60年代録音を網羅したボックスセットの発売を予告しているし。待つか待たないか、ハードコアなファンには悩ましいところである。

(2005/10/22)

Blues and R&B

Rock'N'Roll and Doo Wop

Garage, Beat and Punk Rock

Soul & Funk


Ace Records 30th Birthday Celebration - Blues and R&B/Rock'N'Roll and Doo Wop/Garage, Beat and Punk Rock/Soul & Funk (Ace)


 このコーナーでもかなりの頻度で取り上げているイギリスの再発レーベル「エイス」が、今年設立30周年を迎えたそうで、同レーベルが過去に再発した作品のサンプラーが通常のコンピレーションの半額くらいの価格で発売された。テーマは「ブルース/R&B」「R&R/ドゥ・ワップ」「ガレージ/パンク・ロック」「ファンク/ソウル」の4種、各20曲入り。

 CDナンバー順に紹介しよう。まずは多分一番ディープな内容の「ブルース/R&B」編。1950年代前半に録音された作品を中心に、有名なヒット曲の収録は避けた上でハイ・テンションな選曲が為されている。冒頭2曲、エルモア・ジェイムスの火を吹くようなギター「Hand In Hand」と、まるで浪曲師のような濁声、ハウリン・ウルフの「Dog Me Around」と続いたところでもうその場の空気は「ブルース」にどっぷり。CD前半はギターでグイグイ引っ張っていくタイプのダンスナンバー中心の選曲になっており、その後中盤に差しかかるとグッとテンポが落ちてチルアウト・タイムに。ひと呼吸入れたところで今度はピアノ中心のジャンプ・ナンバーが続く・・というかなり考えられた曲並びになっているので、もしその手のイベントなどあったら、このCD一枚をかけっぱなしでも充分事足りそうな充実度を誇る一枚である。

 続く「R&R/ドゥ・ワップ」編はエイスお得意のオールディーズ大会。こちらも録音年代を56年から59年という狭義の「オールディーズ」時代に絞り、ノリのいいR&Rを中心に選曲されている。有名アーティストも多く選ばれているが、ヒット曲は敢えて避け珍しいR&Rナンバーを収録しているところに選者のこだわりが窺える。中にはバラードのヒットしか知られていないグループもあるので、お馴染みのアーティストの、意外なアナザー・サイドも楽しめたり。純度の高いロカビリーもところどころ登場するので“ピュアロカ派”も満足だろう。このシリーズすべてがそうだが、インナーの収録曲リストにはその曲が収録されているコンピレーションCDが紹介されており、純粋な意味での「レーベル・サンプラー」としての使い勝手もよい。

 3枚目の「ガレージ/パンク・ロック」編はエイスの系列レーベルである「ビッグビート」と「チズウィック」から。シアトルの伝説的なガレージ・バンド、ソニックスの「Have Love Will Travel」は、昨年イギリスでCMソングに起用され大胆にもエイスがこれをCDシングルで発売した(残念ながらチャート入りは逃したようだが)話題曲。続いて同じくシアトルのウェイラーズという流れは、このCDがガレージ・ロック史の正しい観点から編まれたコンピレーションであることを物語っている。以降知る人ぞ知る名バンドによる名演が続くが、特筆したいのは日本が誇る「ガレージ・バンド」、我らがスパイダースのレパートリーが選ばれている点!数年前彼らのベスト盤がこのレーベルから発売された時は本当に嬉しかったが、このCDでは60年代当時イギリスでもシングルがリリースされた「ヘイ・ボーイ」を収録。他と比べてもまったく見劣りしない。CD後半を占める70年代後半以降のパンク・ロックは、個人的に興味がないのでパス。

 最後「ファンク/ソウル」編はソウルもののコンピレーションの選曲の確かさとマニアックさにおいては、恐らく世界一のレーベル「ケント」と、ソウルJAZZ系の作品を精力的に発掘する「BGP (Beat Goes Public)」から。こちらはベティ・スワンの超有名な「Make Me Yours」なんてのが登場して少々意外な気もするが、全体を見渡せば録音年代は概ね60年代後半、サザン、ノーザン程よく混ぜ合わされた「歴史に埋もれた佳曲集」になっていて大変好ましい。時折挿入されるBGP系のファンク色の強い作品も、あまり違和感なく一緒に聴けるのは選曲者の“ウデ”か。

 レーベルの「周年もの」サンプラーはご挨拶代わりに出しているようなもので、買う方も祝儀代わりに気軽に購入して楽しむという姿勢が一番いいのではないかと思う。日頃エイス系列の各レーベルにお世話になっている音楽ファンは、是非ともお気に入りの内容をお気軽に入手して、これまで未入手だったコンピレーションの購入検討などに役立てていただきたい。なにしろそのための低価格設定なので。

収録曲等詳細(発売元のサイト):
Blues and R&B / Rock'N'Roll and Doo Wop / Garage, Beat and Punk Rock / Soul & Funk

(2005/10/20)

クレージー・キャッツ・デラックス

クレージー・キャッツ・デラックス
(東宝)



クレージーキャッツ 無責任ボックス 我が国が誇るポップグループ「ハナ肇とクレージー・キャッツ(フィーチャリング植木等)」はこれまでに何年周期かで再評価が繰り返されており、現在はかなり珍しい音源でも探せばCDで聴ける環境が整っている。再発される度に新しい世代の音楽ファンに新鮮な驚きを与え続けているそれら音源に加え、彼らは当時TVや映画の世界でも大変なスターであり、そこら辺の活躍の様子も押さえておかないと当時の人気者ぶりを量り誤ってしまうことになる。

 彼らが主演した数多い映画の名場面から、特に音楽シーンを中心に編集されたビデオ「クレージー・キャッツ・デラックス」が発売されたのは、今から20年近く前の話。我が国音楽界随一のクレージー・フリークである大瀧詠一が監修し、数々の舞台やドラマでプロデューサーを務めた牧野敦の指示でフィルムに鋏が入れられ、繋げられた、いわば「クレージー・ムービー・メガミックス」であるこの作品が今回めでたくDVD化された。曲がフルコーラス演奏されているものは殆どないが、全部で30曲分もの音楽シーンを楽しめる形になっており、今から40年近くも前の映画がネタ元なので所々センスの古さが気になり、観ていてかったるくなる部分もあるが、植木の「ブァーっとした」勢いや、お得意の両手を上げてピョンと飛ぶ姿の美しさに見とれているうちに約一時間半が過ぎてしまう。

 日本の非常にドメスティックなエンターテインメントと、アメリカ産のミュージカル映画あたりからの色濃い影響が不思議な形で結びついた、この時代にしか生まれ得ない娯楽作品集として楽しめる1枚。個人的には谷啓の「ニッポン無責任時代」と近年の「釣りバカ日誌」シリーズにおける“部長キャラ”設定がまったく一緒であることを再確認して、今更ながら感心したり・・。「これがニッポンの“ポップ”なんだよ。」と元メガデスの“ヘビメタさん”マーティ・フリードマンにも是非教えてあげたいところだ。「それくらい知ってるヨォ」なのかもしれないけど。

収録曲等詳細(発売元のサイト)

(2005/10/17)

Magic Hollow - The Beau Brummels

Magic Hollow - The Beau Brummels
(Rhino Handmade)



 60年代ロックの歴史に関する文献を読むと、大概こんなことが書かれていたりする。

【1964年、ビートルズのアメリカ上陸に端を発した「ブリティッシュ・インヴェンジョン」の猛攻に対抗するように、翌65年にはバーズやラヴィン・スプーンフルといったフォークロック・グループが台頭し、アメリカン・ロック復権の狼煙を上げた】

 間違っていると言うつもりはないが、これだとある重要バンドが歴史の流れから見落とされてしまうことになる。ビートルズの活躍に触発され、サンフランシスコで結成されたアメリカ初の長髪バンドで、64年暮から65年初頭にかけて「Laugh, Laugh」「Just A Little」という2曲のTOP10ヒットを放ったボー・ブラメルズである。彼らが60年代に残した録音が集大成された4枚組のボックスセットが届いたので紹介しておこう。

 全113曲という、TOP40ヒットが全部で3曲しかないバンドにしては大変なボリュームのこのボックスは、前半2枚がサンフランシスコのインディ、オータム・レコード時代、後半2枚がそのオータムが買収されワーナー・ブラザーズに移籍して以降の音源という構成になっている。オータム時代の音源は、過去に何回か非常に力の入ったコンピレーションが発売されているので、今回は正式デビュー前のデモ録音以外はそれほど珍しいものはない。前述のTOP10ヒットがどのような試行錯誤の結果生まれたのか?という流れが追えるよう各々複数の試作バージョンが収録されている点が興味深いところか。当時の彼らのセッションは殆どスライ・スチュアート(後のスライ・ストーン)がプロデューサーを務めているので、彼がごく初期の“サイケデリック・ロック”に果たした役割を推し量る上で、そしてその後展開する“サイケデリック・ソウル”の原点としても、貴重な音源であることは間違いない。

 しかし、この時期の作品は僕個人的には同時代に活躍した他のバンド以上に興味がある訳ではなく、ボー・ブラメルズもこの期間だけで活動を停止していたら単なるローカルバンドという評価で歴史に埋もれてしまっただろうと思う。このボックスのポイントは後半のCD2枚、全42曲の未発表録音群のうちのかなりの部分がこちらのパートに収められているところ。ワーナー移籍後、66年にカバー・アルバム「Beau Brummels '66」を発表した彼らは、続いて“バーバンク・サウンドの名盤”とされる「Triangle」「Bradley's Barn」という2枚のユニークなアルバムを残すのだが、そこへと至る様々なアプローチが大量の未発表音源と共に初めて明らかになる、というのが今回最大の聴きどころ。

Triangle (1967) ワーナー移籍後暫くはオータム・レコードのオーナーであったトム・ドナヒューがプロデューサーを務めていたが、これが“ミスター・バーバンク”レニー・ワロンカーに交代するCD3枚目後半あたりから内容は圧倒的に面白くなり、何枚かのシングルとデモ録音を経た後に生まれたのが67年の「Triangle」。ここで聴かれるお伽話の世界のような幻想的なサウンドは“バーバンク〜”の真骨頂で「このアルバム、このボックスを買った人だったら当然持ってるよね?」ということなのか、完成品はアルバム半分くらいしか収められていないのが残念だが(これだけの収録曲数にもかかわらず、このボックスは「コンプリート・レコーディングス」ではないのだ)彼らの創作活動の頂点をしっかりと記録している。

Bradley's Barn (1968) 続いて彼らは「Triangle」の流れを汲むアルバムをもう一枚制作しようと試みていたようで、ここに収録されている未発表の“ハリウッド・セッション”はマニアには鳥肌ものの内容の連続。中にはレーベル・メイトのハーパース・ビザールがアルバム「Secret Life Of 〜」で取り上げた「I Love You Mama」のオリジナル・バージョンなんてものもあったりして非常に新発見が多い。67年後半〜68年初頭にかけて繰り返されたこれら一連のセッションは結局(今回のボックスまで)陽の目を見ることはなく、68年2月にナッシュヴィルにあるプロデューサー、オーウェン・ブラッドリーのプライベート・スタジオで録音された「Bradley's Barn」に取って代わられることとなる。初期のカントリー・ロック名盤の一つとの評価が高い同アルバムのセッションにも未発表音源があり、こちらもファンには嬉しい限り。

 「Triangle」と「Bradley's Barn」を既に持っていてもボックスとのダブりは半分くらいで済むので、無駄な買い物をした感は余りないと思うし、またこの2作の魅力にとり憑かれた音楽ファンであれば、その周辺の未発表音源はそれだけの為にボックス一箱分のお金を払ってでも聴きたいところだろう。逆にそこまで思い入れのない人には全く価値がない一箱。何しろライノも「売れてせいぜい全世界で2,500組。」と製造枚数を絞り込んでいるくらいなので。

収録曲等詳細(発売元のサイト)

(2005/10/17)

Sweet Sound: The Legendary 60s Pop Sessions - Caterina Valente

Sweet Sound: The Legendary 60s Pop Sessions
- Caterina Valente (bureau b.)



Caterina Valente in Japan メルマガの「Flashback」コーナーでもお馴染みのカテリーナ・ヴァレンテはパリ生まれのイタリア系シンガー。1954年にドイツでデビューを果たした彼女は様々な言語を駆使してレコーディングを行い、その翌年には早くも「The Breeze And I('55米8位/英5位)」が英語圏で大ヒット。以降もヨーロッパ全土で活躍を続け“Singing Interpreter(歌う通訳)”の異名をとったヴァレンテは、日本でも「情熱の花」やピーナッツの曲をカバーした「恋のバカンス」などをヒットさせている。

 ドイツを本拠に様々な言語の録音を残した彼女は、60年代に入っても英語アルバムを英米でリリースし続け、時折渡米してラスベガスのステージに立ったり、TVショーに出演したりという活動を行っていた。今回届いたCDはそんな彼女が68年に発表した英語アルバムで、当時の英米最新ヒットと、スタンダード・ナンバーのアップデイト・サウンド版全13曲が収録されている。選曲を系統別に紹介すると、まずイギリスものとしてはビートルズの「We Can Work It Out」、フォーチュンズの「You've Got Your Trouble」、ペトゥラ・クラークの「Don't Sleep In The Subway」、そしてキンクスの「Waterloo Sunset」。アメリカものはアンディ・ウィリアムスの「Music To Watch Girls By」、スコット・マッケンジーの「San Francisco」、ピーター、ポール&マリーの「I Dig Rock And Roll Music」、タートルズの「Happy Together」。スタンダート系ではガーシュイン兄弟の「Fascinating Rhythm」、ミュージカル「ショーボート」から「Ol' Man River」、そして「Blue Berry Hills」に「C'est Si Bon」。加えてこのセッションのプロデューサー、マルセル・ステルマンが作曲した佳曲「Terrible Feeling」といった按配。

 この作品でヴァレンテは、ほぼ全編を押さえたトーンで、囁くように歌っている。“サイケデリア”の時代のヒット曲と、一番古いものでは1920年代に作られたスタンダードの組み合わせは一見チグハグな印象があるが、アレンジを担当したハインツ・キースリングの斬新なアイディアにより、こちらの方がむしろモダンなのではないか?とさえ感じさせる仕上がりとなっている。ベスト・トラックを幾つかあげるとすればまず「Music To Watch Girls By」、これはどんなラウンジ系コンピに入れても見劣りしない出来。スタンダードの「Fascinating Rhythm」「Ol' Man River」のユニークな料理ぶりも評価したい。つい期待してしまう「Waterloo Sunset」は、評価が分かれるところか?「Happy Together」も、なかなかの仕上がり。60年代後半特有のムードたっぷりなこのボーカル・アルバム、ヴァレンテのファンよりも、ウィスパー・ボイス好きなマニアによりアピールしそうな一枚である。

発売元のサイト

(2005/10/12)

Victim Of Romance & Rarities - Michelle Phillips

Victim Of Romance & Rarities
- Michelle Phillips (Hip-O Select)



 ママス&パパスの女性メンバー、ミッシェル・フィリップスは、60年代後半のフラワー・ムーブメントの時代に華開いた数多くの“名花”の中でも、一際輝いた“カワイコちゃん”。グループ解散後の77年に彼女が発表した唯一のソロアルバムは既に日本でもCD化済みだが、今回はその作品に興味深いボーナスが大量に追加されたCDがネットオンリーで発売されたので、ご紹介しておこう。

Michelle Phillips ミッシェルといえば、いわずと知れたママパパのリーダー、ジョン・フィリップスの妻で、彼との間にウィルソン・フィリップスのメンバーとなるチャイナをもうけたのは有名な話。しかしその関係は1970年には破たん、その後8日間しかもたなかったデニス・ホッパーとの結婚生活をはじめ、彼女の男性遍歴を書き始めたらこのコラムが全部それで埋まってしまうほど・・。奔放な私生活を送りながら、そのルックスを活かして女優業に乗り出した彼女はデニス・ホッパーが「イージー・ライダー」の次に制作した「ラスト・ムービー」を手始めに数々の映画に出演。その傍ら歌手活動も再開し、75年にリリースした最初のシングルのプロデューサーは、なんと前夫のジョン・フィリップス!元ヒッピーの大らかさというか、そこら辺のこだわりのなさが彼女の魅力なのかも知れないが・・。

 “そこら辺”の話の前に、1977年に発表したアルバム「Victim Of Romance」の方を。ジャック・ニッチェがプロデュースしたこのアルバムは終始ノスタルジックな雰囲気が漂うポップ・アルバムだが、これを聴いて意外なのが、彼女のボーカルの“拙さ”。ママパパ時代のコーラスの印象が強いので、もっと達者なボーカルを予想していたのだが、これでは“女優の余技”の域を出ていない。しかし不思議なのは、この拙いボーカルをアルバム通して聴いているうちに、だんだんと彼女のことが好きになっている点(笑)。どうして男はこういうタイプの女性に弱いのか?それともこれも彼女の芸なのか??一流のスタジオ・ミュージシャンをバックに、ソングライター陣にはムーン・マーティンやビー・ジーズの面々までがクレジットされているこの“素人芸”アルバム、意外に悪くない。

 で、ようやくこのCDの主題であるボーナス・トラックへ。前述の通り彼女のファースト・シングルはジョン・フィリップスがプロデューサーを務めたが、その後この体制でアルバムの制作も試みられたようで、CDにはこの時期の未発表セッション音源が大量に追加されている(ジョンはこの前年に当時の妻ジュネヴィエーヴ・ウェイトのアルバムも制作しているので、それと聴き比べてみるのも一興かも)。これら音源は既に「Victim 〜」の世界がこの時点で確立されていることを証明する内容になっており、しかも過半数がミッシェル本人のペンによる作品ということで、結果的に“セレブ・アルバム”的趣きとなった「Victim 〜」が、当初はユニークな女性シンガーソングライター作品として企画されたのではないか?なんてことさえ邪推させる一枚になった。

 このCDを聴きながら、ずぅっと彼女の頼りなげな歌声、声を張ると調子っぱずれになる感じが、何処かで聴き覚えがあるなぁと、考え続けてた。ようやく思い出したのだが、これってブライアン・ウィルソンの元妻、マリリンに似ているんだね。なるほど、西海岸の天才たちは、こういったタイプの女の子がお好みですか(最近の言葉でいえば「萌え」の感覚なのか??)。。ブライアンとマリリンが70年代に作り上げた「Spring」のアルバムもCDが廃盤になって久しいので、そろそろリマスター盤が聴きたい気分になってきた。ビーチ・ボーイズでいえば「Surf's Up」級のこの名盤、是非とも入手しやすい環境を!

(2005/10/12)