ボブ・ディランのドキュメンタリー・フィルム「Don't Look Back」をご覧になったことがあるだろうか?1965年、才気に溢れ、そして生意気盛りのディランがイギリス・ツアーを敢行した模様を生々しく記録した素晴らしい一作だが、この作品には【ボブ・ディラン“イギリスのディラン”と出逢う】というエピソードがまるで裏テーマの様に終始登場する。“イギリスのディラン”ことドノヴァンはこの時期イギリスでデビューしたばかりで、彼とディランをまるでライヴァルかの様に書きたてている現地の音楽紙を目にしたディランは不快感を露わにし、その“イギリスのディラン”なるものが一体どんな奴か実際に彼の宿泊するホテルまで呼び付け、目の前で一曲歌わせてみることにする。なんと“いじめっ子キャラ”な・・。
確かにデビュー当初のドノヴァンは相当ディランに傾倒した作風ではあったものの、だからといってまさか本人に呼び出しをくらうことになるとは思いもしなかっただろう。そんな局面に立たされたら、僕だったら逃げ出してしまうかもしれない・・。ディランの部屋でカメラの前に座らされ、彼がガチガチに緊張しながら「To Sing For You」を披露する様子が「Don't Look Back」には残されているが、多分イギリスで評判の“ニセモノ野郎”を曝し者にしてやろう、くらいのつもりだったドノヴァンを、意外にもディランは大変気に入ってしまう。以降日常の何気ない会話の中でも彼に関するジョークが飛ぶし、ロイヤル・アルバート・ホールでの公演前、楽屋でナーバスになっている時も「ドノヴァンは客席に来てるのか?」なんてことをしきりに気にしてたり。・・と、前フリにしてはずいぶん長くなってしまったが、そのドノヴァンが60年代に残した4枚のアルバムが「デビュー40周年」を記念し、ボーナス・トラックを大量に追加したリマスター版として再発売された。各CDを説明するには「Don't Look Back」騒動があったちょっと後、彼が「For John And Paul(ジョンとポールに捧げる歌)」という曲を作った65年11月まで時間を進めなければならない。
1965年、デビュー後間もなく“イギリスのディラン”と評判になったドノヴァンのニュースは大西洋を渡り、作品は全米チャートにも登場。その成績は地味なものだったが、業界の大物たちの注目を集めるには十分で、すぐさまアメリカにおけるドノヴァンの活躍を手助けしようという面子が続々と名乗りを上げた。まずは当地での彼のビジネス・マネージャーとしてアラン・クレイン(出た!)が、続いて作品の配給元としてコロンビア・レコード社長のクライヴ・デイヴィス(コイツも出た!)が、更にイギリスの独立プロデューサー、モッキー・モストもこのプロジェクトに加わることとなった。
ドノヴァンとモストの顔合わせは、クレインがお膳立てしたものなのだという。最初のミーティングでデモが録音された「For John And Paul」はその後タイトルを「Sunshine Superman」と改め、大胆なロック・サウンドの味つけが施されてコロンビアの子会社エピックからシングル発売。66年の夏に全米ナンバー1に輝き“サイケデリック・サウンド”時代の到来を高らかに宣言した。同名アルバムはシングルヒットをこれ1曲しか収録していなかったが、既にアルバム・ロックの時代に突入していたということなのだろう、アルバムチャートで最高11位を記録する。「〜 Superman(ここに収録されているのはシングル・バージョン)」以外は地味目な曲ばかりが収録されている(アナログでいうところの)A面は、インド楽器等の多用が当時のアメリカ人には結構ショッキングだったのではないだろうか?B面は一転して刺激的なナンバーが並んでおり、中でも冒頭に収録されているロック・ナンバー「Season Of The Witch(魔女の季節)」、ニューロックの時代に多くのカバーが生まれるこの曲はあくまでも私見だが“ドノヴァンのロック”の完成品ではないかと思っている。その後生まれる「Hurdy Gurdy Man」も「Barabajagal」も、この曲のバリエーションのようなものだから。この再発シリーズの呼び物であるボーナス・トラック(全7曲)では「Museum」と「Superlungs」の初期バージョンが印象に残る。
明けて67年初頭に発表されたのが「Mellow Yellow」、同名のヒット曲('66米2位/'67英8位)をフィーチャーしたこのアルバムでは彼特有の“不思議な浮遊感”が前面に押し出されており「サマー・オブ・ラヴ」なこの年のジェントルな雰囲気を象徴する一枚となっている。聴きどころとしてはハーマンズ・ハーミッツが見事なサイケ調ポップに仕上げた「Museum('67米39位;考えてみたらこれもミッキー・モストのプロデュースだ)」のオリジナル・バージョンと、「Sunshine Superman」系のロックナンバー「Sunny South Kensington」あたりか。ボーナス・トラック(全10曲)の方では「Epistle To Dippy('67米19位)」と「There Is A Mountain(同米11位/英8位)」のヒット2曲を別とすれば、前作のセッションでも試行錯誤を繰り返していた「Superlungs」の別バージョン(今度はジャズ・アレンジ!)が非常に面白い。その他有名曲のデモもあり。
1967年はビートルズの「Sgt. Pepper's Lonely Hearts Club Band」をはじめ様々なアーティストによる意欲作が次々と生まれた年。ドノヴァンもその盛り上がりに呼応してこの年の暮に2枚組の大作「A Gift From A Flower To A Garden」を発表。これは彼の最高傑作の一つとされているが、元々2枚組でボーナスの追加が出来ないからか今回のリマスターの対象からははずされている(既に英米でCD化済なので併せての入手をお薦め)。続く68年はまずライブ盤「In Concert」を発表し、その年の後半にリリースされたのが「The Hurdy Gurdy Man」。タイトル曲('68米5位/英4位)と「Jennifer Juniper(同米26位/英5位)」の2曲のヒットがフィーチャーされていたが、力作「A Gift From 〜」で一旦燃え尽きてしまったのか、いま一つはっきりしない曲が多い。反面CDに収録されているボーナス・トラックは面白くヒット曲「Lalena('68米33位)」に加えてケネス・ローチ監督の映画「夜空に星のあるように」主題歌「Poor Cow」、そして未発表曲として当時同じくミッキー・モストの下でレコード制作を行っていたルルとのユーモラスなデュエット「What A Beautiful Creature You Are」と聴きどころは多い。この翌年にリリースされた彼のベスト盤「Greatest Hits」に収録されていた初期のヒット曲「Clours」と「Catch The Wind」の再録バージョンは、現在出ているベストCDではオリジナル録音に差し替えられているそうなので、聴きたいならこちらを入手しなければならないことになる。
そして69年にはアルバム「Barabajagal」をリリース、ここでの話題はジェフ・ベック・グループとの共演で、CDにはタイトル曲('69米36位/英12位)と「Trudi」、そしてボーナスとして未発表曲「Stromberg Twins」の計3曲を収録。ヒット曲では「Atlantis('69米7位/英23位)」と「To Susan On The West Coast Waiting (From Andy In Vietnam Fighting)(同35位)」、その他には過去に何度もチャレンジしてきた「Superlungs」をようやく完成させた「Superlungs My Supergirl」や、「Happiness Runs」「I Love My Shirt」といった小品など、個人的にも好きな曲の多いアルバムである。ボーナスには前述の「Stromberg Twins」をはじめ全13曲(!)の未発表録音を収録、これをもって彼にとって実り多い60年代は幕を閉じることとなる。
未発表録音も含めかなり徹底的に音源が集められているので、この4枚と「A Gift From A Flower To A Garden」、そしてイギリスのパイ・レコードから発表した初期録音を集大成した「Summer Day Reflection Songs」を揃えれば、全盛期のドノヴァンは殆ど完璧に聴ける。その後は70年代に発表された諸作(ものによって内容は悪くない)を何処までフォローするのか?という点に課題は移されるが、僕自身も「ドノヴァンの深い森」にこの先何処まで立ち入っていくことにするか、現在思案中である。
収録曲等詳細(All Music Guide):
Sunshine Superman / Mellow Yellow / The Hurdy Gurdy Man / Barabajagal