多分今年の再発大賞になるであろう、というボックス・セットが到着した。「カメオ/パークウェイ」、60年代に物凄い数のヒット曲を送り出したレーベルのアンソロジーだが、これのどこが大賞ものなのかというと・・。
まずはレーベルの歴史を少々。エルヴィスのナンバー1ヒット「(Let Me Be Your) Teddy Bear」を作曲したことで知られるソングライター・コンビ、カル・マンとバーニー・ロウの2人が57年にフィラデルフィアで設立した「カメオ(兄弟レーベルのパークウェイは59年設立)」は、アンディ・ウィリアムスと競作でナンバー1を争ったチャーリー・グレイシーのR&Rナンバー「Butterfly」の大ヒットを手始めに数々の流行歌、とりわけダンス・ステップを題材にしたヒット曲を次々と生み出した。
当時フィラデルフィアには「アメリカン・バンド・スタンド」という人気TV番組があり、そこに出演し全国に紹介されたアーティスト及びダンス・ナンバーは必ずヒットするというくらいの影響力を誇っていたのだが、その番組のホストであるディック・クラークと懇意にしていた彼らは番組の出演スケジュールに穴が空くと自動的に同社所属のアーティストを“代演”に送り込めるという特権を得、そこから労せずしてヒットが生まれる“成功の拡大再生産”のサイクルを手にした。特に59年にボビー・ライデルとチャビー・チェッカーという2大スターが登場してからはその“ヒット・ファクトリー”状態に拍車がかかり、少々誇張ぎみに書けば、1961〜63年に生まれたTOP40ヒットの一割近くはカメオ/パークウェイ関連ではないか?というくらいのヒット量産ぶり。オールディーズにそれほど詳しくない方でもチャビー・チェッカーの「The Twist」は聴いたことがあるだろうし、60年代屈指の人気曲であるタイムスの「So Much In Love(渚の誓い)」もこのレーベルから出されている。他にも数年前突然TVCMに使用されてオールディーズ・ファンを驚かせたオーロンズの「The Wah-Watusi」とか、やはりチャビー・チェッカーの「Let's Twist Again」とか。挙げだしたらきりがない。
現在我々が思い浮かべる「オールディーズ」というイメージに最もフィットするサウンドを作り出していた同社だが、「アメリカン・バンド・スタンド」がロサンゼルスで制作されるようになり、加えてビートルズの登場で音楽シーンが一変して以降は、チャート成績は次第に下火に。イメージ・チェンジを図ってクエスチョン・マークとミステリアンズのガレージ・クラシック「96 Tears」をナンバー1に送り込んだりもしたが、時代の流れには逆らえず60年代末に敢え無く倒産。で、この会社の整理を引き受けたのが60年代ロック史きっての“悪徳弁護士”アラン・クレイン。彼はこのカメオ/パークウェイを元に新会社「アブコ(そう、このCDの発売元)」を設立。彼が60年代を通じていろんな手を使って手に入れた権利を行使し、様々な編集盤を発売した。その中にはカメオ/パークウェイの音源を集めたものもあったが、70年代のある時期を最後にそれらも市場から姿を消し、その状態はこのBOXが発売される2005年まで30年近くも(!)続いた。長いねっ!!僕がオールディーズを聴き始めた時期には当然これらの音源は入手出来ない状態になっていて、インターネットを通じて海外のCDを個人的に取り寄せられるようになった90年代後半にようやく海賊盤のCDを入手し、この「音楽史の巨大な空白」の補完作業に取り組めるようになった。
この長期間の空白を今回の再発プロデューサーであるジョディ・クレイン(アランの嫁?それとも娘?)は「元々このボックスは80年代末に企画されていたが、権利が散り散りになっていたためすべての音源を揃えるのにこれだけの時間がかかってしまった。」と説明しているが、同社がフィル・スペクターやサム・クックのCDを発売する際に犯した“前科”を考えれば、それだけが理由でないことは明らかだろう。それはともかく、ようやく届いたCDを聴き進めてみることにしよう。コンパクトなBOXに入ったCD4枚はシングル盤を模してドーナツ型のデザイン(なんと裏面も真っ黒)。ほぼ時代順に曲が収録されており、当然のことながらチャーリー・グレイシーの「Butterfly」でスタート。当初はスタイルの確立に試行錯誤を繰り返している様子が面白く、代表的なヒットでいえばレイズのドゥ・ワップ・クラシック「Silhouettes」や「アホの坂田のテーマ」の元曲であるアップルジャックスの「Mexican Hat Rock」あたりが個人的なお気に入り。CD1枚目後半になるといよいよチャビー・チェッカーとボビー・ライデルが登場、僕はライデルの明るい声質や作風が大好きなので、彼のヒット曲が良好な音質で聴くことが出来るのは本当に嬉しい。
2枚目になると後続のアーティストたち、ディ・ディ・シャープ、オーロンズ、ダヴェルスといった人々のヒット曲がずらり。殆どの曲のタイトルにダンス・ステップの名が冠されており、ここまで徹底するのはちょっと凄い。珍しいところでは当時TVドラマ「ロウハイド」にレギュラー出演していたクリント・イーストウッドが歌う「Rowdy」も収録、ちょっとノヴェルティっぽい曲で本人は忘れたい過去だろうが、マニアには嬉しい珍品。3枚目ではタイムスの「渚の誓い」が登場、脳天気なダンス・ヒットはいい加減影を潜め始める。64年になると同社はイギリスのアーティストの録音もライセンス契約でアメリカ発売するようになり、中でも有名なのがキンクス初期のシングル「Long Tall Sally」。現在は数百ドルで取り引きされているという現物は、見つかれば大変貴重だろうが、CDで聴く分には別に有り難みがある訳ではない(笑)。そして65年にはバーニー・ロウが経営権を手放し、レーベル・カラーは様変わり。数々のマイナー・レーベルと配給契約を結んでおり、特にこの時期あたりから後の“フィリー・ソウル”へと発展していく音楽が独自のシステムを築き始めるので、1〜2年で作風は随分と変化が出てくる。
CD4枚目はまず以前メリリー・ラッシュのCDを紹介した時に経緯を説明したイーヴィ・サンズ版「Angel Of The Morning」で始まり、その後暫く“スイート・ソウル”ものが続く。エディ・ホルマン、カーティス・メイフィールドがシカゴでプロデュースしたファイブ・ステアステップス、ごく初期のデルフォニックス・・過去に何度も書いているが“アーリー・フィラデルフィア”好きな僕には本当に堪らない曲並び。そして終盤には70年代ロックの胎動を感じさせる作品群、前述のクエスチョン・マークとミステリアンズや、まだガレージ・バンドだったオハイオ・エクスプレス、後にグランド・ファンク・レイルロードに発展するテリー・ナイト&ザ・パックスや駆け出しのボブ・シーガーなど、レーベル運営の最期まで時代の流れにキャッチ・アップしていこうという姿勢が窺える。
・・まだまだ色々と書きたいことはあるのだが、長くなり過ぎたのでこれくらいで。全115曲、色々不満もあるかも知れないがカメオ/パークウェイ再発シリーズの第一弾としては最高の内容ではないかと思う。同社からリリースされた数多いヒット曲を以前リスト化したことがあって、そのうち何がこのボックスに収録されているのかを付き合わせてみたので、ご参考までにデータを掲載しておこう。
かなりマイナーなところまで気を配った選曲になっていることが判る反面、メジャー・アーティスト(特にチェッカーとライデル)のヒットは「えっ!これしか入ってないの!?」という感じ。前述のクレイン女史によれば、今年の後半にはボビー・ライデルやオーロンズなどの単独CDも発売される予定だそうなので、それらが揃えば長いこと見落とされていた重要レーベルの全貌が明らかになるということに。やっぱり2005年の再発大賞はカメオ/パークウェイ関連で決まりでしょう。