八亀's Picks - March 2005

過去の八亀's Picks

3.20 The R&B Hits of 1954 - VA
3.20 Dirty Laundry: The Soul of Black Country
3.20 Today/Home Style - Brook Benton
3.12 Bubble Called You - The Alan Copeland Conspiracy
3.12 If Love Comes With It - The Alan Copeland Singers
3.12 The Little Darlin' Sound of Don Williams with Pozo Seco
3.06 Roger Nichols & The Small Circle of Friends
3.06 The Original Singles - Eternity's Children
3.05 ビヨンド the シー 〜夢見るように歌えば〜

The R&B Hits of 1954

The R&B Hits of 1954 - VA
(Indigo)



 先月紹介した「Hits of '54」に続き届いた年に1回のお約束、初期のR&Bヒットをごっそり集めたこのシリーズも1954年編が登場。R&B界がいよいよR&Rの時代に突入したこの年の録音群(3枚組全85曲)を聴き進めてみましょう。

 この年のR&Bチャートでナンバー1に輝いたのは全部で12曲。このボックスには当然のように全曲が収録されているが、そのうちR&R時代の幕開けを告げるヒット曲はまずハンク・バラードとミッドナイターズの「Work With Me Annie」。この曲はR&Bシーンで大ブームを巻き起し、続編の「Annie Had A Baby」もナンバー1ヒット、妊娠しちゃったアニーの代りに“ニューキャラ”ファニー姐さんが登場する「Annie's Aunt Fannie(R&B10位)」なんて曲も出来たり、翌年には女性側からのアンサーソングとしてエタ・ジェームスの「The Wallflower (Roll With Me Henry)」が生まれ、そのポップ版カバー「Dance With Me Henry」がジョージア・ギブスによってポップチャートでナンバー1を記録するという、R&Rブーム初期の象徴的な作品となっている。

 他のナンバー1ヒットにもジョー・ターナーの「Shake, Rattle, And Roll」、ドリフターズの「Honey Love」、チャームスの「Heart Of Stone」など、その後多くのアーティストに繰り返しカバーされた作品は多い。映画「レイ」の成功で現在若い世代の音楽ファンにも注目されているレイ・チャールズがアトランティック・レコードから初めてヒットを放ったのもこの年で、このCDにはその2曲「It Should've Been Me(R&B5位)」と「Don't You Know(同10位)」が収録されていて初期の彼の作風を知ることが出来るばかりでなく、彼にとって初のプロデュース作品であるギター・スリムの「The Things That I Used To Do(こちらはR&Bナンバー1ヒット)」も聴けて、選曲的には申し分ない。その他後にR&Rまたはドゥ・ワップの古典と見なされることになる作品としては、キャディラックスの「Gloria」、ムーングロウズの「SIncerely(1位)」、スパニエルズの「Goodnite, Sweetheart, Goodnite(5位)」、コーズの「Sh-Boom(2位)」などなど。ここら辺を見ればR&B界ではR&Rの潮流が既に本格化していることがわかると思う。

 一方でクラシック・ブルース系も充実しており、特にB.B.キングやマディ・ウォータースの目覚ましい活躍などあって非常にバラエティに富んだ内容になっているこのボックス、珍しい録音は余りないが、ポップス・ファンとしてはディキシー・カップスの「Iko Iko(64年1位)」の原曲であるシュガーボーイの「Jack-O-Mo」、チャック・ベリーの「My Ding-A-Ling(72年1位)」の原曲、ビーズの「Three Bells」なんてのは、結構気になるかも知れない。この一箱があれば、この年のR&Bの流れはほとんど把握できるといっても過言ではない、充実の内容である。

R&B Hits Of 1942-45 R&B Hits Of 1946 R&B Hits Of 1947
R&B Hits Of 1948 R&B Hits Of 1949

 昨年このシリーズの前のボリューム「R&B Hits of 1953」を紹介した時は同シリーズの1950年代編を併せてご案内したので、今回はそれ以前の1940年代編を。このシリーズも全10巻となり、初期のR&Bシーンを一望できる立派な企画に育った。数年前にレコード屋で偶然見つけて以来地道に買い揃えてきた者としては嬉しい限り。このシリーズが今後どのように展開していくのか?延々と続いて“ソウル・ミュージック”の歴史をたどっていくことになるのか?その前にヨーロッパの著作権法が変わっちゃうのか??せいぜい気長につきあっていきたいと思う。

収録曲等詳細(発売元のサイト)

(2004/3/20)

Dirty Laundry: The Soul of Black Country

Today/Home Style - Brook Benton


Dirty Laundry: The Soul of Black Country - VA (Trikont)
Today/Home Style - Brook Benton (DBK Work)



 年に1回くらい非常に刺激的な内容のコンピレーションを出してくれるドイツのTrikont。このコーナーでは以前モハメッド・アリに因んだレコーディングを集めたコンピレーションを紹介したことがあったが、今回のテーマは「黒人によるカントリー・ミュージック」。これまた深い。

 「黒人とカントリー・ミュージック」まるで水と油のような取り合わせのように感じる。実際カントリー・チャートを見てもチャーリー・プライドのようなごく限られた例外を除いて黒人アーティストが登場するようなことはまずないし(近年はそのような例外さえ見られなくなってしまった)、最近でいえばティム・マグロウというカントリーのトップ・アーティストがゲスト参加したネリーのシングルも、カントリーチャートでは全く無視された(そういえばラップ・チャートでも不振だった)。でもアメリカ南部ではカントリーは普通にラジオで流れていて、というか他に聴ける音楽はほとんどなくて、それらを耳にした将来の黒人アーティストたちは、知らず知らずその影響を受けていたりする。

 このCDに収録されているのはカントリー・サウンドを取り入れたR&B、そしてカントリーソングをR&Bスタイルでカバーした作品など。有名なものとしてはこの手の音楽が語られる時には必ず例に挙げられるキャンディ・ステイトンの「Stand By Your Man」や“カントリー・ソウル”と称して大変な成功を収めたジョー・サイモンのナンバー1ヒット「Chokin' Kind」、初期のポインター・シスターズが吹込み、カントリーチャート入りまで成功させた「Fairy Tale」などがあるが、その他の曲の多くはヒットチャートとは無縁、ひっそりと、しかしかなり大量に“ブラック・カントリー”は音盤に残されている。有名アーティストの録音を列記するとエタ・ジェームスの「Almost Persuaded(オリジナルはディッド・ヒューストン)」、ボビー・ウォマックの「Bouquet Of Roses(エディ・アーノルド)」、ジェームス・ブラウンの「Your Cheating Heart(ハンク・ウィリアムス)」、ソロモン・バークの「I Can't Stop Loving You(ドン・ギブソン)」などなど。知名度は落ちるがベティ・ラヴェットが歌うケニー・ロジャースとファースト・エディションの「Just Drop In」のカバー「What Condition My Comdition Is In」なんてのもあって結構面白い。

 こうして聴いてみると実はこの“カントリー臭”というのが、サザン・ソウルの醍醐味の重要な要素となっていることに気づく。“ブラック・カントリー”の歴史的重要作、レイ・チャールズの「カントリー&ウェスタンを歌う」からの選曲はないが、そのアルバムで披露されたのと全く同じスタイルで録音されたアール・ゲインズの「You Are My Sunshine」の収録がそれを埋め合わせる形になっているし、50年代にチャームスを率いて「Heart Of Stone」のヒットを放ったオーティス・ウィリアムスが、70年代に入って全員黒人のカントリーバンド「ミッドナイト・カウボーイズ」を結成してアルバムを発表していた、なんて意外な事実も知ることが出来る。こういった試みは近年もわずかながら続けられているようで、アンドレ・ウィリアムスという黒人アーティストがジョン・スペンサー・ブルース・エクスプローションやホワイト・ストライプスのメンバーの手を借りて発表した1999年のカントリー・ロック「Jet Black Daddy Lilly White Mama」なんて珍品も収録されている。非サザン系の作品では、このCDのタイトルにも使用されているカーティス・メイフィールドの「Dirty Laundry」がスティール・ギターを取り入れた意欲作になっていて、他とは一線を画した雰囲気が味わえる。“フリーソウル”とは対照的な泥臭い作品ばかり、でも非常に魅力的な作品ばかり全24曲。カントリー・ファンにも、サザン・ソウルファンにも一度チェックしてみていただきたいCDである。

20th Century Masters - The Millennium Collection: The Best of Brook Benton もう一枚はブルック・ベントンが1970年に発表した2枚のアルバムをカップリングしたCD。50年代後半以降バラディアーとして絶大な人気を誇った彼は60年代半ばになると一時人気が低迷するが、70年に「Rainy Night In Georgia(『雨のジョージア』米4位)」の大ヒットで復活。R&B古典中の古典と言っていいこの曲は大概彼の60年代作品を集めたベスト盤の最後にオマケのように収録されていることが多いのだが、音楽マニアだったら、これだけ素晴らしい曲が生まれたこの時期の録音には、まだ他にも素晴らしい作品があるに違いないだろう、と考えたくなるのが人情。そんな要望に応えてくれたのかどうかは知らないが、こんなCDがひっそりと発売されていた。

 「雨のジョージア」はカントリー・ロック系のアーティスト、トニー・ジョー・ホワイトの作品。これを当時マイアミで多忙なセッション活動を展開していたディキシー・フライヤーズのバッキングと、近年ノラ・ジョーンズの制作で再び脚光を浴びたアリフ・マーディンのプロデュースで“カントリー・ソウル”風味に録音したのがベントン版で、これがしみじみとした作風で非常に素晴らしい。この曲が収録されたアルバム「Today」は有名なポップやR&Bナンバーをブルージーなスタイルでカバーした作品集になっており、フランク・シナトラの「My Way」やフランキー・ヴァリの「Can't Take My Eyes Off You」などを彼なりの渋味あるボーカルで料理しているが、残念ながら「〜ジョージア」に匹敵するようなものはない。

 続いて数ヶ月後にリリースされたアルバム「Home Style」は「〜ジョージア」のスタイルに焦点を絞って制作されたもので、内容はこちらの方が格段にいい。トニー・ジョー・ホワイト作品が3曲収録されているのがまず嬉しいし、他にもマック・デイヴィス、ジョー・サウスなど南部系のソングライター作品が多く取り上げられていて、アルバムに統一感がもたらされている。CD化に際して何の説明もない(ブックレットに載っているのはオリジナルリリース時のライナーのみ)のは不親切だが、このカップリングでのリリースは正解だろう。「雨のジョージア」が好きであれば、CDコレクションに加えて損のない一枚だと思う。

曲目等詳細
Dirty Laundry: The Soul of Black Country
Today/Home Style - Brook Benton

(2005/3/20)

Bubble Called You - The Alan Copeland Conspiracy

If Love Comes With It - The Alan Copeland Singers


Bubble Called You: All Things Considered, I'd Rather Be Here Than In Philadelphia - The Alan Copeland Conspiracy
If Love Comes With It - The Alan Copeland Singers
(Universal Jazz & Classics)



 “フィンガー・スナッピング・ミュージック”。音楽カテゴリーに関するネーミングセンスの善し悪しについてはもう問わないことにしよう。いずれにしてもこれまでその存在が気になっていたアルバムがCD化されるのは嬉しいこと。今回は60年代に活躍したシンガー&アレンジャーのアラン・コープランドがリーダーとして発表した2枚のコーラス・アルバムが日本で発売された。

 ポップスファンが彼の名前を聞いたことがあるとすれば、恐らくそれは彼が1968年に発表した「Mission: Impossible Theme/Norwegian Wood(米120位、イージー・リスニングチャート29位)」でではないだろうか。「スパイ大作戦」のテーマとビートルズの「ノルウェーの森」をメドレー、というかごちゃ混ぜ(最近音楽シーンで“マッシュ・アップ”という言葉を頻繁に耳にするが、これこそ“ごちゃ混ぜ”という意味で、ネーミングのセンスとしてちっともいいとは思わない)にしたアレンジはその斬新さが評価されたのかその年のグラミーで「最優秀コンテンポラリー/ポップ・コーラス」賞を獲得。今回CD化されたのはこのシングルの前後に発表された2枚ということになる。

 まずは“アラン・コープランドの陰謀”名義で67年にリリースされた「Bubble Called You」の方から。コープランドは世代的にはR&R以前の人で、1930年代から活動しているベテラン・ボーカルグループ、モダネアーズに40年代後半に加入し、60年代まで断続的にメンバーとして活躍。かつてモダネアーズをフィーチャーしていたグレン・ミラーの伝記映画「グレン・ミラー物語(54年)」にも“現モダネアーズ”の一員として出演しているという。その後数々のTVショーなどでコーラス・アレンジメントを請け負い「アラン・コープランド・シンガーズ」を結成。60年代はベテラン・アーティストが「Today!」とか「Now!」なんてタイトルで最新ヒットのカバー・アルバムを盛んに発表したものだが「The Alan Copeland Conspiracy」もそれに似たような発想でアルバムを発表するためのネーミングだったのではないかと思う。聴きどころとしてはアソシエイションの「Windy」、ペトゥラ・クラークの「Don't Sleep In The Subway」、エヴァリー・ブラザーズの「Bowling Green」といったあの時代の雰囲気を色濃く反映したポップスのカバーやラヴ・ジェネレーションのメンバーが提供したアルバムタイトル曲、やや強引なコード進行が如何にも“ソフト・ロック”っぽい「Only In The Movies」あたりだろうか。女声ボーカルが大きくフィーチャーされており、男声コーラス陣はやや陰が薄い。

 続いて69年に発表されたのが「If Love Comes With It」、こちらは男声コーラスのハーモニーがメインになっていて、聴いた印象はレターメンに非常に近い。アルバム冒頭に収録されているのは「スパイ大作戦」の成功に気をよくしたコープランドが続いてリリースした“マッシュ・アップ”もの、メイソン・ウィリアムスのインスト曲「Classical Gas」とサイモンとガーファンクルの「Scarborough Fair」の組み合わせ('69米123位、イージー・リスニングチャート20位)で、これもユニークな仕上がり。アルバム後半にはもう一曲メイソン・ウィリアムスの「Baroque A Nova」も収録されていて、ここら辺が気に入った方はウィリアムスの「The Mason Williams Phonograph Record」もお試しいただきたい。他を見るとオリジナル曲が大幅に増えていて、約半分がクリス・コープランド(アランの娘だそうだ)の作品。ラジオで耳を捕らえるようなキャッチーさには欠けるが、イージー・リスニングとしてはよくまとまっている。

 ソフト・ロックファンであれば間違いなく楽しめる作品。但しこれが“ソフト・ロック”か?と言われると首をかしげるところも。ソフトだけどロックではない、ジャズ・コーラスをうんとポピュラー寄りに展開してみました、という感じ。あと残念なのはボーナス・トラックで「スパイ大作戦」が入らなかったところ。この時期のシングル曲も一緒に収録してくれたらコープランドが時代の流行にどのように対応していこうとしたかがわかって面白かったと思うのだが。彼のオフィシャル・サイトには「スパイ大作戦」をフルコーラス聴くことができるファイルが置いてあるので、取り敢えずはそれで間に合わせておくことにするか。

収録曲等詳細(発売元のサイト)

(2005/3/12)

Don Williams with Pozo Seco

The Little Darlin' Sound of Don Williams with Pozo Seco
(Little Darlin')



 アラン・コープランドの項で話題に出た“マッシュ・アップ”ヒットだが、考えてみたら60年代後半〜70年代前半はその手のヒット曲が結構ある。一番有名なのがレターメンが歌ったフランキー・ヴァリの「Can't Take My Eyes Off Of You」とリトル・アンソニーの「Goin' Out Of My Head」を合わせたもの('67米7位)で、彼らは他にクラシックス・フォーの「Traces」とエルヴィスの「Memories」の組み合わせもヒットさせているし('70米47位)、トーケンズはスティーブ・ローレンスの「Go Away Little Girl」とユニオン・ギャップの「Young Girl」をマッシュ・アップ('69米118位)。グレン・キャンベルとアン・マレーがデュエットで「By The Time I Get To Phoenix」と「I Say A Little Prayer」を一枚のシングル盤の中で歌い合うなんて難易度の高いもの('71米81位)もあったり。中で以前から気になっていたのが“ポゾ・セコ”というグループが歌ったビートルズの「Strawberry Fields Forever」と「Something」のメドレー('70米115位)で、これが収録されたCDが最近リリースされたので紹介しておこう。

Time/I Can Make It with You - The Pozo-Seco Singers フォーク・グループ、ポゾ・セコシンガーズが結成されたのは1965年のこと。後にカントリー界で成功を収めるドン・ウィリアムスが在籍していたことで知られるこのグループはボブ・ディランのマネージャー、アルバート・グロスマンに認められてコロンビア・レコードと契約。同社では「I Can Make It With You('66米32位)」「Look What You've Done('67米32位)」他計6曲のチャートヒットと3枚のアルバムを残しているが、一部のシングル曲を除いてオール・アコースティックの典型的なフォーク・サウンドなので、ポップス・ファン的には少々退屈なものが多い。で、60年代末になって男2女1のトリオから1名が脱退し、ウィリアムスとスーザン・テイラーのデュオとなりグループ名を“ポゾ・セコ”に短縮、サートロン・レコードからリリースしたシングルが「Strawberry Fields/Something」だった。

 基本的にスーザンが「Strawberry Fields」を、ドンが「Something」を歌う形になっているこの曲は、オルガン・サウンドが怪しげな雰囲気を醸し出す本当に不思議な作品で、ついつい何度も聴き返してしまう。続いてリリースしたアルバム(70年発表)が「Spend Some Time With Me」で、これが今回CD化された音源の正体。サウンドは少々籠った感じであまりクリアではないが、かなりイージーリスニング寄りな音作りになっており、ソフトなポップスを好む耳には馴染みやすい。収録曲ではビートルズの「In My Life」やローリング・ストーンズの「Ruby Tuesday」などもやっているがそこら辺は凡庸な出来、バカラック・ナンバーの「Always Something There To Remind Me」はまずまず。アルバムのレコーディングは恐らく南部(ナッシュビルあたり?)で行われたものと思われ、当地のソングライター作品に面白いものが多い。例えば若き日のビリー・ヴェラによる「Storybook Children」や70年代にカントリー界のトップ・アーティストとなるジョニー・ペイチェックの「Apt. No.9」など、あとはシェルビー・フリントの「Angel On My Shoulder」とメリリー・ラッシュの「Angel Of The Morning」を“マッシュ・アップ”したような「There's No Angel On My Shoulder(作者は「Angel Of The Morning」を書いたチップ・テイラー)」なんて変な曲もあったり。全体的にあの時期独特の翳りを帯びた雰囲気に包まれていて、強烈な印象はないんだけどつい何度も聴いてしまうような、不思議な魅力を持ったアルバムである。

 このアルバムの後間もなくグループは解散、ドン・ウィアムスはソロとなって“カントリー界一の美声の持ち主”と呼ばれる大スターになる。ポップ・チャートでは「I Believe In You('80米24位)」くらいしか目立ったヒットはないが、カントリーの世界では17曲のナンバー1ヒットを持ち、そのチャート実績は同時代に活躍したアーティストでいえばケニー・ロジャースに匹敵する、と書けばその成功の大きさはある程度想像がつくだろう。そんなドン・ウィリアムスの若き日の記録、と書いて興味を持つ人は少ないか・・。それでは“最も奇妙なビートルズのカバーヒットが収録されたアルバム”という書き方ではどうだろうか?とにかくマニアには興味をそそられるCDではないかと思う。

収録曲等詳細(発売元のサイト)

(2005/3/12)

Roger Nichols & The Small Circle of Friends

From Us Unto You: The Original Singles


Roger Nichols & The Small Circle of Friends
From Us Unto You: The Original Singles - Eternity's Children
(Rev-Ola)



 ソフト・ロック好きな日本人でこのアルバムを持ってない人なんて果たしているんだろうか?というくらい定番中の定番となっている「Roger Nichols & The Small Circle of Friends」。しかしこのCDは長いこと日本でのみ発売されており、日本の音楽ファンと、日本盤の法外な値段を厭わず入手したごく一部の外国人マニアだけとの間で共有される宝物であり続けた。今回海外で初のCDリリース、さてイギリスの音楽ファンは、このアルバムをどう聴くのか・・?

Couples - Pizzicato Five (1987) 僕がこのアルバムの存在を知ったのは1987年、渋谷に短期間存在した輸入レコード屋「CSV」におけるピチカート・ファイヴの「Couples」発売記念インストア・イベントで。同作の制作にあたってイメージしたアルバムとして紹介されたのが「Roger Nichols & The Small Circle of Friends」で、このジャケットを掲げたメンバー(小西康陽だったか高浪慶太郎だったかは忘れた)は「入手する価値のあるレコードだと思うので、探してみて下さい。」と言った。イベントを後ろの方で見ていた僕は「(・・・無理でしょ。)」と思った。

 そのアルバムがCDで聴けるようになるのは意外に早くその年の秋のこと、当時A&Mを配給していたポニー・キャニオンが「A&M25周年」と銘打って発売した過去の名盤50枚の中の1枚としてで(ライナーノーツは小西康陽)そのリリースを知って地元のレコード屋に予約を申し込んだところ、店のオヤジさんからは「こんなマイナーなアルバム何処も注文してないから、横浜の問屋には入荷しないって。」と言われた(発売から数日後メーカーから取り寄せてもらった)。当時はそんな扱いのアルバムだったのだ。

 ひっそりと発売されたこのアルバムは、90年代に入ってから「渋谷系」の古典的名作と見なされるようになり、何故か一時期渡辺マリナさんのメディアでの強力なプッシュもあって(余談だが彼女は当時ハーパース・ビザールのアルバムに「ビザールでござーる」という名コピーをつけている)洋楽ポップスの定番的存在に。94年には渋谷でロジャー・ニコルスのサイン会(!)もあったし、翌95年には日本のみで新作「Be Gentle with My Heart」まで発表された。

 「Roger Nichols & The Small Circle of Friends」がどんなアルバムかよくご存じない方に簡単にご説明。一般の音楽ファンにはポール・ウィリアムスと組んで生み出したカーペンターズの「愛のプレリュード」や「雨の日と日曜日は」、スリー・ドッグ・ナイトの「アウト・イン・ザ・カントリー」などの作曲家として知られているロジャー・ニコルスは64年にマレイ&メリンダ・マクロード兄妹とフォーク・グループ「ロジャー・ニコルス・トリオ」を結成。64年にシングル「Bernie The Sno-Dog(後述)」を発表後、デッカ、リバティでデモテープを制作したものの契約には至らず。当時リバティに務めていたプロデューサー、トミー・リピューマ(ニコルスの大学時代の同級生だったそうだ)がA&Mに移る際に彼らをハーブ・アルパートに紹介し契約が成立、シングルを数枚リリースした後アルバムの制作が決定し、その際リピューマから提案された新しいグループ名がフィル・オクスの「Outside Of A Small Circle Of Friends」をヒントにした「Roger Nichols & The Small Circle of Friends」だった。

 アルバムに収録されているのはビーチ・ボーイズの「Pet Sounds」でブライアン・ウィルソンのパートナーを務めたトニー・アッシャーとの共作他ニコルス作品が5曲、メンバーのマレイ・マクロードが並行して参加していたバンド「パレード」の作品が1曲、その他レノン&マッカートニー、バート・バカラック、キャロル・キング、ジョン・セバスチャンといった当時のトップ・ソングライターたちの作品のカバーが、彼らのソフトなコーラスで歌われている。西海岸のトップ・アレンジャーたちが曲毎に参加して極上の“A&Mサウンド”に仕上がった、非常に贅沢な一枚。しかし当時このアルバムは売れなかった。シングルもキャロル・キング作の「Snow Queen」が最高129位を記録したのみ。ライナーノーツではこの不振の原因を、表は女性のサングラスに映ったロック・フェスティバルの群衆という“ニュー・ロック風”、裏はカウボーイ・ハット姿の素朴な青年たちという、レコードの内容とはどう考えても結びつかないジャケットがよくなかったのではないか?と推察しているが、いずれにしても当時のラジオで盛んにかけられるタイプの音楽ではないので“幻の名盤”的評価は変わらなかったと思う。

 前述のとおりこのアルバムは日本で繰り返し再発されており、これまではシングルのみの作品が加えられた19曲入りの「コンプリート作品集」が決定版とされてきたが、今回はこれに初レコーディング曲、ノヴェルティ・タイプの「Bernie The Sno-Dog」を追加した全20曲。マニアはこれだけで買ってしまうでしょ。詳細なライナーノーツもこれまでソフト・ロックファンを悩ませ続けた疑問を解消する内容を多く含んでいるし。勿論これまで買いそびれていた方もこの機会に是非とも聴いてみていただきたい。この流れでいけばRev-Olaからは今後未発表曲満載のパレードのアルバム、なんてのも期待できそうだし、アメリカでもニコルスの作曲パートナーとなるポール・ウィリアムスの再発プロジェクトがスタートするそうだし。この先暫くA&Mポップスの再発に目が放せなくなりそうだ。

Eternity's Children もう一枚、このCDとほぼ同時にRev-Olaから発売されたのがエタニティーズ・チルドレンのCD。同社からは過去にアルバム2枚のカップリングに数曲が追加されたものが出されており、ソフト・ロックファンを狂喜させたものだが、今回は彼らがレーベルをまたがって(アポロ、A&M、タワー、リバティ)リリースしたシングル音源をコンパイルした、いわばベスト盤(?)。メンバーのリンダ・ロウリー、チャールズ・ロス3世名義のシングルも網羅され、珍しい曲も多数聴ける内容になっているが、それらはすべて以前紹介した「The Lost Sessions」でCD化済。彼らの場合シングル曲以外にも魅力的な作品は多くあり、エタニティーズ・チルドレンを聴くならこの一枚!というには少々弱い。“オリジナル・モノ・ミックス”という言葉に魅力を感じるタイプの音楽ファンであれば入手する価値はあるかも知れないが、まず買うなら前述の2イン1を、更に深く聴き進めるなら「The Lost Sessions」を入手することをお薦めしたい。

曲目等詳細(発売元のサイト)
Roger Nichols & The Small Circle of Friends
From Us Unto You: The Original Singles - Eternity's Children

(2005/3/6)

ビヨンド the シー 〜夢見るように歌えば〜

ビヨンド the シー 〜夢見るように歌えば〜


 昨年秋にこのコーナーで紹介したケヴィン・スペイシーがボビー・ダーリンに扮する映画「Beyond The Sea」が先週末無事日本公開された。先行してネタ振りをした立場としてはやはりこの映画を観ておかない訳にはいかない、ということで先日早速観てきました。これがまぁなんといったらいいのか、他の人はどう感じたか知らないが、ボビー・ダーリン好きでオールド・スタイルなミュージカル映画好きな僕には堪らない内容で、ジェイミー・フォックスがアカデミー主演男優賞を獲ってしまった「レイ」もなかなか泣かせる映画だったけれども、こちらはその比ではなくミュージカル・シーンになるとジ〜ン、ストーリーが盛り上がってくるとこれまたジィィ〜ン、と2倍は泣けた。

 とにかくケヴィン・スペイシーの歌うこと!踊ること!!達者な子役の登場もあってとにかく堪能した映画だったのだが、公開中にネタバレ話をしてもしょうがないので、ここでは映画を観て感じた“重箱の隅”系の感想を幾つか。

  • この映画、とにかく言い訳が多い!45歳のスペイシーがボビー・ダーリンの20歳から37歳までを演じようというんだから元々無理はあるのだが、劇中でもわざわざそのことに触れて「あくまでも現在の僕が人生を振り返るんだ。」とダーリン(=スペイシー)に言わせたり、回想シーンでも「本当はこんな風に踊ったりはしなかったけど、思い出は美化されるものだから。」とか、映画の最後でも「映画制作の都合上エピソードの省略や時間の前後がある。」とテロップでわざわざ断わったりとか。ツッコミは許さないというスペイシーの“カラミづらい”性格がよく現れているような気がする。
  • ダーリンは若い頃から髪が薄く、デビュー当初からカツラをつけてステージに上がっていたという。ということでこの映画は“ヅラネタ”のオンパレード。ちょっとしつこいくらい。その手の話題が気になる方は、予め了承の上映画をご覧下さい。
  • ダーリンが最初にヒットを放ったレーベルはアトランティック・レコード。これはレイ・チャールズと同じでどちらの映画にも同社社長のアーメット・アーティガンが登場する。「レイ」のアーティガンは頭まで剃って相当忠実に再現しているが「ビヨンド〜」ではなんだかファンキーな頭の社長が出てきて随分違った印象。これは本当に“重箱の隅”のお話だが。あとボビー・ダーリンの初期のマネージャーはアル・ネヴィンス(元スリー・サンズのメンバーで、ドン・カーシュナーとポップス黄金期を支える音楽出版社「アルドン・ミュージック」を設立する)で、彼の果たした役割は大きかったはずなのだが、まったく語られていないのが不思議。
  • Bobby Darin & Sandra Dee

  • 映画のストーリーではダーリンは1964年のビートルズの登場とともに時代遅れとなり、そのまま晩年まで落ちぶれたキャリアを歩むような印象を受けるが、実はそうではなく結構しぶとく活躍を続け66〜67年にもフォークロック路線で何曲かのヒットを放っている。それはどうでもいい話だが、映画の中で晩年の彼のテーマソングのように何度も登場する「A Simple Song For Freedom」、これは以前彼のスタジオ録音は存在しないようなことを書いてしまったが、その後調べたら最晩年に彼がモータウンと契約していた時期にシングルで発表していたらしい。お詫びして訂正します。現状CD化はされていないが、いずれ「The Complete Motown Singles Collection」に収録されるのだろうか。
  • これは僕が見落としただけなのかも知れないが、映画のクレジットでダーリンの元妻サンドラ・ディーへのスペシャル・サンクスがなかったような気がする。映画では新進のケイト・ボスワースが美しく演じた彼女とダーリンの関係は美談として描かれていたが、実は色々複雑なものがあったのではないかと思う。サンドラは長い闘病生活の末この2月に亡くなってしまったので、今となっては知る由もないが。
 ケヴィン・スペイシーがロンドンのアビーロード・スタジオまで出かけて吹込んだサウンドトラック盤もなかなかの内容になっているし、オールディーズ好きであれば是非とも観て欲しい映画である。僕ももう一回観たいくらい。

「ビヨンド the シー」オフィシャルサイト

(2005/3/5)