ソフト・ロック好きな日本人でこのアルバムを持ってない人なんて果たしているんだろうか?というくらい定番中の定番となっている「Roger Nichols & The Small Circle of Friends」。しかしこのCDは長いこと日本でのみ発売されており、日本の音楽ファンと、日本盤の法外な値段を厭わず入手したごく一部の外国人マニアだけとの間で共有される宝物であり続けた。今回海外で初のCDリリース、さてイギリスの音楽ファンは、このアルバムをどう聴くのか・・?
僕がこのアルバムの存在を知ったのは1987年、渋谷に短期間存在した輸入レコード屋「CSV」におけるピチカート・ファイヴの「Couples」発売記念インストア・イベントで。同作の制作にあたってイメージしたアルバムとして紹介されたのが「Roger Nichols & The Small Circle of Friends」で、このジャケットを掲げたメンバー(小西康陽だったか高浪慶太郎だったかは忘れた)は「入手する価値のあるレコードだと思うので、探してみて下さい。」と言った。イベントを後ろの方で見ていた僕は「(・・・無理でしょ。)」と思った。
そのアルバムがCDで聴けるようになるのは意外に早くその年の秋のこと、当時A&Mを配給していたポニー・キャニオンが「A&M25周年」と銘打って発売した過去の名盤50枚の中の1枚としてで(ライナーノーツは小西康陽)そのリリースを知って地元のレコード屋に予約を申し込んだところ、店のオヤジさんからは「こんなマイナーなアルバム何処も注文してないから、横浜の問屋には入荷しないって。」と言われた(発売から数日後メーカーから取り寄せてもらった)。当時はそんな扱いのアルバムだったのだ。
ひっそりと発売されたこのアルバムは、90年代に入ってから「渋谷系」の古典的名作と見なされるようになり、何故か一時期渡辺マリナさんのメディアでの強力なプッシュもあって(余談だが彼女は当時ハーパース・ビザールのアルバムに「ビザールでござーる」という名コピーをつけている)洋楽ポップスの定番的存在に。94年には渋谷でロジャー・ニコルスのサイン会(!)もあったし、翌95年には日本のみで新作「Be Gentle with My Heart」まで発表された。
「Roger Nichols & The Small Circle of Friends」がどんなアルバムかよくご存じない方に簡単にご説明。一般の音楽ファンにはポール・ウィリアムスと組んで生み出したカーペンターズの「愛のプレリュード」や「雨の日と日曜日は」、スリー・ドッグ・ナイトの「アウト・イン・ザ・カントリー」などの作曲家として知られているロジャー・ニコルスは64年にマレイ&メリンダ・マクロード兄妹とフォーク・グループ「ロジャー・ニコルス・トリオ」を結成。64年にシングル「Bernie The Sno-Dog(後述)」を発表後、デッカ、リバティでデモテープを制作したものの契約には至らず。当時リバティに務めていたプロデューサー、トミー・リピューマ(ニコルスの大学時代の同級生だったそうだ)がA&Mに移る際に彼らをハーブ・アルパートに紹介し契約が成立、シングルを数枚リリースした後アルバムの制作が決定し、その際リピューマから提案された新しいグループ名がフィル・オクスの「Outside Of A Small Circle Of Friends」をヒントにした「Roger Nichols & The Small Circle of Friends」だった。
アルバムに収録されているのはビーチ・ボーイズの「Pet Sounds」でブライアン・ウィルソンのパートナーを務めたトニー・アッシャーとの共作他ニコルス作品が5曲、メンバーのマレイ・マクロードが並行して参加していたバンド「パレード」の作品が1曲、その他レノン&マッカートニー、バート・バカラック、キャロル・キング、ジョン・セバスチャンといった当時のトップ・ソングライターたちの作品のカバーが、彼らのソフトなコーラスで歌われている。西海岸のトップ・アレンジャーたちが曲毎に参加して極上の“A&Mサウンド”に仕上がった、非常に贅沢な一枚。しかし当時このアルバムは売れなかった。シングルもキャロル・キング作の「Snow Queen」が最高129位を記録したのみ。ライナーノーツではこの不振の原因を、表は女性のサングラスに映ったロック・フェスティバルの群衆という“ニュー・ロック風”、裏はカウボーイ・ハット姿の素朴な青年たちという、レコードの内容とはどう考えても結びつかないジャケットがよくなかったのではないか?と推察しているが、いずれにしても当時のラジオで盛んにかけられるタイプの音楽ではないので“幻の名盤”的評価は変わらなかったと思う。
前述のとおりこのアルバムは日本で繰り返し再発されており、これまではシングルのみの作品が加えられた19曲入りの「コンプリート作品集」が決定版とされてきたが、今回はこれに初レコーディング曲、ノヴェルティ・タイプの「Bernie The Sno-Dog」を追加した全20曲。マニアはこれだけで買ってしまうでしょ。詳細なライナーノーツもこれまでソフト・ロックファンを悩ませ続けた疑問を解消する内容を多く含んでいるし。勿論これまで買いそびれていた方もこの機会に是非とも聴いてみていただきたい。この流れでいけばRev-Olaからは今後未発表曲満載のパレードのアルバム、なんてのも期待できそうだし、アメリカでもニコルスの作曲パートナーとなるポール・ウィリアムスの再発プロジェクトがスタートするそうだし。この先暫くA&Mポップスの再発に目が放せなくなりそうだ。
もう一枚、このCDとほぼ同時にRev-Olaから発売されたのがエタニティーズ・チルドレンのCD。同社からは過去にアルバム2枚のカップリングに数曲が追加されたものが出されており、ソフト・ロックファンを狂喜させたものだが、今回は彼らがレーベルをまたがって(アポロ、A&M、タワー、リバティ)リリースしたシングル音源をコンパイルした、いわばベスト盤(?)。メンバーのリンダ・ロウリー、チャールズ・ロス3世名義のシングルも網羅され、珍しい曲も多数聴ける内容になっているが、それらはすべて以前紹介した「The Lost Sessions」でCD化済。彼らの場合シングル曲以外にも魅力的な作品は多くあり、エタニティーズ・チルドレンを聴くならこの一枚!というには少々弱い。“オリジナル・モノ・ミックス”という言葉に魅力を感じるタイプの音楽ファンであれば入手する価値はあるかも知れないが、まず買うなら前述の2イン1を、更に深く聴き進めるなら「The Lost Sessions」を入手することをお薦めしたい。
曲目等詳細(発売元のサイト)
Roger Nichols & The Small Circle of Friends
From Us Unto You: The Original Singles - Eternity's Children