Lost Treasures - Herb Alpert &
The Tijuana Brass (Shout! Factory)
Have A Heart: The Love Songs Collection
- B.J. Thomas (Varese Sarabande)
洋楽マニアの間でハーブ・アルパートが話題に上ることはめったにない。“イージー・リスニング”というジャンルのイメージがそうさせているのかも知れないし、ヒットアルバムがあまりに多過ぎて焦点が絞りにくいのも理由の一つなのかも知れない。アーティストとして活躍したばかりでなく、60年代〜90年代にかけてレコード産業史上もっとも成功を収めたインディ・レーベルの一つA&Mで社長も務めた彼はレーベルを現ユニバーサルに売却、その後ビジネス・パートナーのジェリー・モス(A&Mは“アルパート&モス”の略である)とともにA&M以前に短期間立ち上げていたレーベル「アルモ・サウンズ」を再興。そこでガービッジなどを成功させ、アルパート自身もソロ・アルバムを発表している。
A&Mのカタログは現在もユニバーサルの貴重な財産として再発が繰り返されているが、やはり自分の作品には相当愛着があると見え、再発専門レーベル「シャウト!ファクトリー」を通じて本人監修の再発プロジェクト「Herb Alpert Signature Series」がスタートすることとなった。その景気づけのためか、まず最初に発売されたのが未発表及びレア作品集の「Lost Treasures」で、これがなかなかの内容。
プロジェクトを進めるにあたってアルパートは当時残されたマスターテープすべてを聴いたのだそうで、そこで驚いたのが膨大な数の未発表音源の存在。録音したことすら憶えていない曲や彼のトランペットをかぶせる前にボツにしてしまった物などもあり、それらを注意深く選りすぐり、必要があれば新たに音を追加して完成させたのが22曲入りのこのアルバム。“オリジナル”ティファナ・ブラス30数年ぶりの新作といってもいいかも知れないこのCDには、数々の発見がある。
印象に残ったトラックを挙げていこう。意図されたことかどうかわからないが、このCDには“ソフト・ロックファン”なら興味を惹かれずにいられないカバー曲が幾つも収録されている。例えばスパンキー&アワ・ギャングの「Lazy Day」、ニルソンの「柳の嘆き」、ニノ&エイプリル(渋い!)の「I Can't Go On Living, Baby, Without You」などなど。さらにスキャット入りのジェイムス・テイラー「Fire & Rain」にサンバ・ビートの「(They Long To Be) Close To You(遥かなる影)」とくれば、聴いてみない訳にいかないでしょう。特に「遥かなる影」はアルパートがナンバー1ヒット「This Guy's In Love With You」に続くシングル候補として録音したものだそうで、出来上がってみたらあまり彼向きでないという結論に至り、代わりにカーペンターズに録音を勧めたといういわくつき。アルパートはライナーで「あの判断は彼らにも、A&Mにとっても素晴らしい結果をもたらした。」と書いている。
加えてA&Mといえばバカラック!ということで「遥かなる影」の他にもここでは「Promises, Promises」「I Might Frighten Her Away」「雨に濡れても」「恋よさようなら」といったバカラック・ナンバ−が楽しめ、その点でもポップス・マニアには見逃せない。CDの後半はややありきたりな“ティファナ・サウンド”が続いて少々ダレるが、CD前半部分だけでも十分価値のある一枚。なお同時にティファナ・ブラス初期の代表作2枚(下掲ジャケット)も発売されているが、「デラックス・エディション」と謳っている割にはボーナス・トラックの収録はなしとややショボい仕様になっている。今まで彼のCDを買ったことがない音楽ファンにはいいかも知れないけれども、過去に何枚か購入済の者には手が伸び辛いシロモノか・・。今年中には彼らすべての60年代作品を再発するそうで、僕は密かにアルパートの“ボーカル・アルバム”の再発を楽しみにしているのだが、その願いは叶うだろうか。
もう一枚はB.J.トーマスのレア録音集。このコーナーで余り書く機会がないのだけれども、B.J.トーマスは本当に好きな歌手で、新しいコンピレーションが出たらできるだけ入手するようにしている。とはいえ似たような内容のベスト盤があまりにも多いので、結局は購入見送りとなってしまうことも多いのだが。このCDの目玉はセプター時代の未発表音源8曲。中でもまっ先に聴いてみたくなるのがバリー・マン&シンシア・ウェイル作品2曲で、トーマス、マン、ウェイル3人の名前がクレジットに並べば、それはもう宝石の輝き(大袈裟な)。「This Is A Love Song」「A Long Way To Go」ともに「Rock and Roll Lullaby」級の名曲ではないが、どちらも立派なカントリー・ポップ。ポップス・マニアにとっての宝物が増えた気分。
続いてここでも登場するのがバカラック・ナンバー。以前ディオンヌ・ワーウィックの時に紹介したデュエット・バージョンのような“ビッグ・サプライズ”はさすがに登場しないが「I Just Don't Know What To Do With Myself」の抑制のきいたボーカルは、思わず「うめぇ〜!いいねぇ!」と声をかけたくなるような出来。その他の未発表曲の中では作曲者不詳の「Shades Of You」と「Blue」がスケールの大きい南部サウンド(ホーン入り)で、この路線を彼が進んだら、どんな展開があったんだろうと思わずにいられない。
既発表ものでは唯一収録されているヒットが「I Just Can't Help Believing(『君を信じたい』'70米9位)」、これはいうまでもなくマン&ウェイルによる超名曲。他はR&Bのカバーが多く、ここら辺はオリジナル・アルバムでまとめて聴きたいなー。中には「No Love At All('71米16位)」のシングルB面に収録されていた「Have A Heart(作曲はクラシックス・フォーでの仕事などで知られるバディ・ビューイ)」なんて珍しい曲も聴けることは聴けるのだが。
こういうアルバムが出てくれるのは嬉しいけど、まずは彼のセプター時代のすべてのアルバムをCD化した後で(もしくはそのボーナス・トラックで)やっていただきたいなぁ、というのが正直なところ。本当にお願いしますよ、彼のオリジナル・アルバムCD化。
曲目等詳細(発売元のサイト):
Lost Treasures - Herb Alpert & The Tijuana Brass
Have A Heart: The Love Songs Collection - B.J. Thomas