ユニバーサルの傘下に“Hip-O”という再発専門レーベルが出来たのはもう随分前のことになるが、当初MCA系の音源を扱うのみだった同社はユニバーサルが吸収・合併を重ね次々とレーベルを傘下に納めるにつれカタログを増やし、現在では世界最大級の音源を有している。
Hip-O(カバ)というレーベル名が物語っているとおり、同社は設立当初よりRhino(サイ)に強烈なライバル意識を持っているようで、数年前RhinoがWeb通販専門の「Rhino Handmade」を立ち上げ、ワーナー系列の貴重な音源の限定販売を始めるとこれに追従、昨年「Hip-O Select」がスタートしている。とにかく物凄い数のカタログを有しているので一体どのような貴重盤が登場するのか楽しみにしているのだが、現状発売されているものの殆どは「確かにレアだけど、内容は大したことないもの」もしくは「既に日本ではCD化済みのもの」ばかりで、割高な対価+送料を負担してまで入手すべきものはなく、このコーナーでも紹介できない状態が続いていた。
そんな中「これなら買ってもいいかな。」というものがようやく発売された。バート・バカラックがアーティストとしてA&Mレコードに残した全音源+αを5枚のCDにまとめたもの。まるでSP時代の“アルバム(当時はSP盤が複数枚セットになったものがアルバムと呼ばれており、それがLPの通称の起源となった)”を思わせるような豪華な装丁にも心惹かれつつ、取り寄せてみた。
バカラックがプロのソングライターとして作品を世に送り出し始めるのは1950年代の半ば。1958年に「Story Of My Love」が大競作ヒットとなって本国より先にイギリスでブレイクした彼は・・という話は、いずれホームページ「Flashback」で1コーナー設けてコッテリとやりたいと思っているので今回は割愛。CDについているディスコグラフィによれば彼がアーティストとして初めてリリースしたシングルは1957年の「Rosanne(Cabot 108)」とのことだが、これもいずれ誰かが探し出してCD化してくれるのを待つとして、ここでカバーされているのは60年代半ば、彼がヒットメーカーとして名声を確立してからの作品群。
収録音源の中心となっているのは、彼がA&Mから発表したアルバム6枚と映画「明日に向かって撃て」のサントラと称して発売された
(実際は新たに再録された)アルバム、そしてそれ以前の65年にKappレコードから発表した「Hit Maker!」の計8枚分。いずれも個別にCDとして発売済みなので、ここら辺の紹介はいいでしょう。気になるその他の音源を収録順に紹介してみましょう。
まず1枚目のCD(アルバム「Reach Out(67年)」と「Make It Easy On Yourself(69年)」のカップリング)には68年に発売されたクリスマス・シングル「The Bell That Couldn't Jingle」が。多くのアーティストが取り上げてバカラック・ファンにはお馴染みのこの曲が、ここでは女性コーラスによって歌われている。続くCD2枚目(「Burt Bacharach(71年)」と「Living Together(73年)」)にはレア音源の追加はなし。アーティストとして一番充実していた時期の2枚だから、これはこれで充分聴き応えあるが。3枚目のCD(「Futures(77年)」と「Woman(79年)」)にも追加曲はなく、この頃は既に僕の好きなA&Mサウンドではないので、多分今後一番聴く機会の少ないCDになると思う。但し“クロスオーバー”とか、その類いの音楽が好きな方にはそこそこ楽しめる内容かもしれない。
で、ここからが本番。CD4枚目にはまずアルバム「明日に向かって撃て」の9曲が収録され、続いて同アルバム収録の「Come Touch The Sun」の未発表バージョン「Etta's Theme」が。こちらはトランペットの音色がより哀愁味を帯びた仕上がり。その後には15曲に亘って1974年に日本のみで発売された来日公演実況盤「Burt Bacharach In Concert」を丸ごと収録。当時如何に彼が日本で人気があったかの証であるこのアルバムは世界初CD化。録音も非常にいいし、曲毎の観客の反応もいい。こんな音源が残っていてよかった。
最後5枚目のCDはKappのアルバム「Hit Maker!」を中心に、他社録音をセレクト。まずは63年にリリースされ小ヒットを記録したシングル「Saturday Sunshine」の未発表モノ・ミックス、そしてそのシングルのB面だった「And So Goodbye, My Love」、そして65年のシングル「My Little Red Book」と「What's New, Pussycat」のカップリング。ここら辺は既発の「Hit Maker!」CDで聴けるか。66年に出した2枚のシングル、ユナイテッド・アーティスツからの「After The Fox」と「The Fox Trot」、リバティからの「Nikki」と「Juanita's Place」が一緒に聴けるのは有難い。更におまけとして80年代の録音「Arthur's Theme」「That's What Friends Are For」「Love Theme From Arthur」も追加されているのは、はっきりいって余計。
バカラック作品のベスト・バージョンが、バカラック自身の名義による録音であることは非常に稀なので、これは入門者向きではな
い。逆にバカラック・マニアを自称する人であれば“記念品”として持っていてもいいんじゃない?ということで。Hip-O Selectにはこれに続く“第2弾”を何らかの形で出してくれることを期待したい。なお同社は2005年にモータウン関係の大変な大型企画を予定しているようで、これはいずれこのコーナーで紹介することになると思う。
曲目等詳細(発売元のサイト)