以前書いたことがある通り“アーリー・フィラデルフィア”というキーワードに非常に弱い僕にとって嬉しいリイシューがヨーロッパから届いた。1968年のナンバー1ヒット「Tighten Up」でお馴染みのアーチー・ベルとドレルズがアトランティック・レコードに残した全録音を2枚のCDに詰め込んだお得盤。
「アーチー・ベルってフィラデルフィア出身??」と多くの人は思うでしょう。なにしろ「Tighten Up」の中で彼は「ハ〜イ、僕たちテキサス州ヒューストン出身のアーチー・ベルとドレルズ!」とはっきり言っているのだから。そのとおり、彼らはテキサス出身。でもこの先を読んでいただけば、何故このCDが“フィラデルフィア”なのかがお解りいただけると思う。
アーチー・ベルは1967年10月にテキサスで「Tighten Up」を録音した時、既にベトナム戦争への出征が決まっていたという。シングル盤1枚の録音を残して旅立った彼は、しかし何故か戦地には送られず、ドイツで役務に従事しているうちに(バイオグラフィによっては彼はベトナムで負傷しヨーロッパで療養したという記述があるが、実際にはベトナムの地を踏んだことはないらしい)地元で「Tighten Up」がヒットを記録。本人不在をいいことに見知らぬ白人バンドが“ドレルズ”を名乗って巡業を始めるような状態となり、アトランティック・レコードが全国配給を申し出た際にベルは休暇を利用してテキサスに戻りたった1日でアルバム一枚分の録音を敢行。アトランティックのリリース用に「Tighten Up」のパート2も録音し、現在我々が知るAB面にまたがるシングル音源が完成したという。
そんな訳で急造盤のファースト・アルバムは、テキサスでライブ・パフォーマンスを行っていた当時の彼らの雰囲気が窺える、かなりラフな作品に仕上がった。再びドイツに戻ったベルにやがて届いたのが「Tighten Up」の全米ナンバー1ヒットの知らせで、こんな時期に十分に人前で自慢のヒット曲を演奏出来なかったベルの無念さは察して余りあるが、この思いは発売元のアトランティックも同様で、早急にヒットをフォローするシングル音源の必要から、制作を依頼したのがフィラデルフィアのプロデューサー・コンビ、ケニー・ギャンブルとレオン・ハフ。続く2枚のシングル「I Can't Stop Dancing(68年米9位)」「Do The Choo Choo(同年米44位)」は彼らのシグマ・サウンド・スタジオ及びニューヨークのアトランティック・スタジオにベルを呼び寄せる形で録音&リリースされ、残るセカンド・アルバム「I Can't Stop Dancing」収録曲はテキサスで2度に分けて録音されたが、このやる気の感じられないジャケット同様シングル曲の水準を期待するとがっかりさせられるような内容になってしまった。
イントゥルーダーズの「Cowboys To Girls(68年米6位)」、ジェリー・バトラーの「Only The Strong Survive(69年米4位)」と大ヒットを次々と飛ばしトップ・プロデューサーの座を築きつつあったギャンブル&ハフにアトランティックは続いてアーチー・ベルとドレルズ用にアルバム1枚分の制作を依頼。結果生まれたのがサード・アルバム「There's Gonna Be A Showdown」で、タイトル曲(69年米21位)をはじめほぼ全編フィラデルフィア録音の大変充実した内容となった。ソングライターは主としてギャンブル&ハフ、曲によってはトム・ベルやボビー・マーティンといったフィラデルフィア人脈も絡み“アーリー・フィラデルフィア(やっとこのキーワードが出てきた)”好きには堪らない。初期のフィリー・サウンドが存分に堪能できる名盤に仕上がっている。
ベルの兵役がようやく解かれるのが1969年の4月。その頃にはドレルズの人気は既に下火になっており、以降彼らがポップのTOP40に返り咲くことはなかった。そういった意味で彼は“ベトナム戦争にキャリアを台無しにされた不運なアーティスト”と言うこともできるが、彼はこれだけでは終わらなかった。70年に入ると今度は新たなるソウルの“メッカ”となっていたアラバマ州マッスルショールズに送り込まれ、当地のスタッフとシングルを制作。これまたいい出来で大したヒットにならなかったのが不思議なくらい。CD「〜 Showdown」のボーナス・トラックには彼らが69年〜72年にリリースしたシングル音源を11曲(うちフィラデルフィア録音3曲、マッスルショールズ8曲)追加、更に未発表に終わった「One Night Affair(後にオージェイズがヒットさせる)」、クラレンス・カーターがヒットさせる前に録音したという「Patches」等も聴ける大変な充実盤。知名度でいえばなんといっても「Tighten Up」ということになるが、内容的には「〜 Showdown」が素晴らしいということで、両方併せての入手をお薦めしたいところ。
アーチ・ベルとギャンブル&ハフの関係はその後も続き、70年代半ばには彼らの“フィラデル・インターナショナル”に移籍して「Let's Groove(76年R&B7位)」の大ヒットを放つ。そんな彼の初期コンプリート作品集、「Tighten Up」好きも、フィリー・ソウル好きも是非ご一聴を。
Archie Bell & The Drells Singles Discography on Atlantic