以前書いたことがあったかも知れないけれども、僕がR&B(現在いうところの“トラディショナルR&B”)の世界に本格的に興味を持つきっかけになったのが、1980年代に発売されていたアトランティック・レコードの歴史をたどるアナログ14枚組「Atlantic Rhythm & Blues 1947-1974(現在は曲が追加されCD8枚組で発売中)」。1940年代のジャンプ・ブルースから70年代のニュー・ソウルまで、R&Bのメインストリームを贅沢な選曲で堪能できるボックスで、この“基礎固め”がその後の僕の音楽の聴き方に大きな影響を与えている気がする。で、このシリーズがリリースされるちょっと前に、やはり同じくらいのボリュームで出されていたのがR&Bの重要レーベルの一つ「Savoy」の作品集「Roots of Rhythm & Blues」シリーズ。こちらも是非とも聴いてみたかったが、なにしろ当時はまだ学生で、経済的に両方とも入手するのは無理。その後直ぐにCDの時代に入ってしまったこともあって、いずれ似たようなコンピレーションが出されるだろうと呑気に構えていたら、それが出たのが何と10数年後の今年。ようやく入手できたのがこれ。
サヴォイは1942年にニュー・ジャージーのハーマン・ルービンスキーによって設立されたレーベル。チャーリー・パーカーやレスター・ヤングなどのジャズ作品によって現在は主に知られているが、R&B録音も多数残されていて、40年代後半から50年代前半にかけてR&Bチャートに多くのヒット曲を送り込んでいる。今回発売された4枚組全84曲は、このサヴォイ、そして後に買収され系列入りしたナショナル・レーベルのR&B作品を録音順に収めたもので、R&B/R&Rがメインストリームに浮上するまでの約10年間の、貴重なドキュメントになっている。
1枚目のCD(1944-47年)から時代を追って作品をたどってみよう。サヴォイ最初の大ヒットはジャズ・グループ、ベニー・バンクス・トリオの「Don't Stop Now(43年R&B1位)」。しかしこのボックスではジャズ作品は対象外のようで、この曲の収録はなし。R&Bレーベルとして一足先に成功を収めていたナショナル作品が目立つ。まず後に“元祖R&Rシンガー”の称号を得ることになる“ビッグ”ジョー・ターナーがボーカルを務めるピート・ジョンソン・オールスターズの「S.K. Blues(45年R&B3位)」、この人は40年代でも60年代でも全然変わらない。渋い声でバラードを唸った“Mr. B”ビリー・エクスタインの「Prisoner Of Love(46年R&B3位/POP10位)」は、当時ペリー・コモとチャート争いを演じた大ヒット。47年に大変な共作ブームとなった「Open The Door, Richard」はダスティ・フレッチャーのバージョン(47年R&B2位/POP3位)」が聴けるし、ドゥワップ・グループの始祖的存在とされるレイヴンズも「Write Me A Letter(47年R&B5位/POP24位)」で登場。一方でその後サヴォイの最重要アーティストに成長するジョニー・オーティスの「Harlem Nocturne」や、ソングライターとして大成するドク・ポーマスの貴重な47年録音「My Good Pott」なんてのも収録されていて、やがて到来するリズム&ブルースの時代の前哨戦的趣き。
CD1枚目終盤から2枚目では、ジャンプ・ブルースの黄金期に突入。ヒットを列記するとポール・ウィリアムスの「35-30(48年R&B8位)」「The Huckle-Buck(49年R&B1位)」、“ワイルド”ビル・ムーアのタイトルが素敵な「We're Gonna Rock, We're Gonna Roll(48年R&B14位)」、ハル・シンガーの「Corn Bread(48年R&B1位)」、ブラウニー・マギーの「My Fault(48年R&B2位)」、エックス・レイズの「I'll Always Be in Love with You(48年R&B3位)」、ディーコン・マクニーリーの「Deacon's Hop(49年R&B1位)」など大ヒットが満載。50年代に入るといよいよジョニー・オーティスが頭角を現し、リトル・エスター・フィリップスをフィーチャーした「Double Crossing Blues(50年R&B1位)」「Cupid's Boogie(50年R&B1位)」、ロビンスをフィーチャーした「If It's So Baby(50年R&B10位)」、メル・ウォーカーをフィーチャーした「Rockin' Blues(50年R&B2位)」と大活躍。R&Bレーベル、サヴォイのもっとも輝かしい時期だったかも知れない。他にはアトランタで活躍し、同郷の後輩リトル・リチャードやジェイムス・ブラウン、オーティス・レディングらに多大な影響を与えたというビリー・ライトの「Stacked Deck(51年R&B9位)」、20歳そこそこのラヴァーン・ベイカーが“ミス・シェアクロッパー(小作人)”の名で吹込んだ「I Want to Rock」など。
CD3枚目(1951-55年)では既にビート、スピード感ともにR&Rの原形を成した作品が並ぶ。が、この時期サヴォイは早くも創造性を失いつつあったようで、他社の人気アーティストを模倣した作品(ルース・ブラウンのイミテーター、ヴァレッタ・ディラードの「Easy, Easy Baby(52年R&B8位)」「Mercy Mister Percy(53年R&B6位)」やレイ・チャールズとルイ・ジョーダンの掛け合いのようなエミット・スレイ・トリオの「My Kind Woman(53年R&B9位)」など)が目立つ。これが55年、R&BシーンがすっかりR&Rに席巻されるとサヴォイは完全に取り残され、生まれるヒットもナッピー・ブラウンの「Don't Be Angry(55年R&B2位/POP25位)」やジャイヴ・ボンバーズの「Bad Boy(56年R&B7位/POP36位)」、前述のヴァレッタ・ディラードがロシアン・ルーレットで突然この世を去ってしまったジョニー・エイスに捧げた「Johnny Has Gone(55年R&B6位、メロディはエイスの「Pledging My Love(55年R&B1位/POP17位)」から拝借)」などちょっとノヴェルティがかったものばかりになってしまう。中にはビッグ・メイベルがジョニー・マーサーの名曲をソウルフルに歌う「Candy(56年R&B11位)」のような思わぬ収穫もあることにはあるが。
結局サヴォイはR&Rの波に乗ることが出来ず、以降ヒットチャートへの影響力は急速に衰えることになってしまったが、初期R&Bの輝きをとらえたこのボックスCD1枚目後半〜3枚目前半は本当に聴き応えがあり、学究派R&Bファンには見逃せない内容になっていると思う。なおレーベル所属の重要アーティストのうちジョニー・オーティス(上のジャケ写)とレイヴンズはコンプリート・レコーディングスが出されており、こちらも熱心なファンにはお薦め。僕も10数年越しの念願叶ってサヴォイの全貌を知ることが出来、大変満足。