「三人娘ソングブック」はコロンビア・レコード勤務の友人を通じて購入させていただいたのだが(お手数おかけしました)、その彼女から「これも結構お薦めですよ。」と言われたのが「コロムビア童謡玉手箱」。中から大好きな“アキラ”小林旭編と、特に強く推された守屋浩編をご紹介。
「コロムビア童謡玉手箱」は1961年に当時同社所属だった人気歌手5人(美空ひばり、島倉千代子、初代コロムビア・ローズ、小林旭、守屋浩)が童謡を各々10曲ずつ吹込み、10インチ(25センチ)盤5枚組のボックスセットとして発売したというレアな企画もの。収録曲の詳細は下のリンクをご覧いただけばわかる通り現在でもお馴染みの曲が多く、なかなか楽しめる。中には曲の一フレーズだけはよく耳にするけれども、フルコーラスはなかなか聴く機会がないというものもあって「へー、実はこんな曲だったんだー。」という意外な発見もあったりする。
ものの本によると“童謡”というジャンルにははっきりとした定義があるそうで、特に近年では一括りに語られてしまう記述も見られる“唱歌(こちらは官製)”との違いとか、また“わらべうた”と読み替えると概念がガラっと変わってしまうような気もするし、色々と難しく僕も勉強中なので詳細には触れないことにするが、ここで選ばれている曲の多くはその世界で頻繁に名前の挙がる作家、西条八十、中山晋平、北原白秋、山田耕筰といった音楽の教科書で馴染み深い名前がずらりと並ぶ“名曲選”になっていて、これを童謡の世界を探る手がかり一つとするのもいいのかも知れない(と自分に言い聞かせる)。しかし、このシリーズの本当の楽しみ方は、そういった学究的なことはおいといて当時の人気歌手とバックのミュージシャンたちが童謡を題材に作り上げたユニークな“ポップス”として聴いてみることなのだろう。
それではまずアキラからいってみましょう。我が国戦後歌謡のある意味“キング”といえる彼に名唱怪唱は多く、それらの多くは一昨年発売された4枚のコンピレーション(個人的にはその年のベスト・コンピの一つ)でたっぷりと楽しむことができるのでそちらも聴いてみていただきたいが、そこでも6曲が選ばれていた童謡集が完全復刻ということで、アキラマニアにはなんとも嬉しい一枚。アキラといえばあの素頓狂なハイトーン・ボイスがまず思い浮かぶが、ここでもそれは存分に聴くことができる。「夕やけ小やけ」は夕空が吹き飛んでしまいそうな勢いだし、陽気な「めんこい子馬」「ちんから峠」はまさに“スットンキョー”。この系統の最高峰といえる「どんぐりころころ」は歴史的名唱と言っていいかも知れない。
一方でこの人が単なる“人気俳優兼怪シンガー”でないのは、この声質からは想像出来ないほどのボーカル・テクニックの持ち主である点。アルバム冒頭に収録されている5分以上に及ぶ「月の砂漠」の抑制の効いたボーカルといったら!“抑制”なんて言葉とは無縁に思えるアキラだけに、これは多くの人にとって意外だろう。「青い眼の人形」ではセルロイド製の人形が独り異国に送られた心細い心情を見事に歌い切っているし、♪か〜ら〜す〜、何故鳴くの〜、の「七つの子」では、鴉が子を慈しむ親心までをも表現している(本当だって!)。まさに“歌は解釈次第”なんだなー、と改めて思う。詩の内容に合わせ曲の中でもころころリズムが変わる意欲的なアレンジメントにもアキラはまったく動じず、まるで最初からこういう曲であるかのように歌いこなす。やっぱりアキラは凄い歌手です。芸能生活50周年を迎えるという彼、またナマの姿を拝見したくなってしまった。
それにしても当時特殊な発売方法だっただけに、これらの録音はどれだけの人々に聴かれたのだろうか?と考えなくもない。21世紀の現在の方がよっぽど多くの人に聴かれていたりして。ただ、今から20年ほど前、まだ真っ当な芸人だった時代の片岡鶴太郎が小林旭のマネをする時頻繁に♪どんぐりころころ、どんぶりこ〜、と歌っていた記憶があるので、意外に60年代当時の子供達には、聴かれる機会があったのかも知れないけれども。
続いては守屋浩編。カントリー〜ロカビリー・シーンから登場した彼は“ハマクラ”浜口庫之助のもと歌謡路線で成功、「僕は泣いちっち」や「有り難や節」などユニークな作品を残したシンガー。このアルバムでもアレンジは恩師であるハマクラ氏が手がけていて、ラテン出身の彼らしいサウンド(演奏はゲイ・スターズ)に彩られた童謡集になっている。このアルバムの魅力はまず守屋の声の持つ明るさ、そしてハマクラ製のラテン・サウンド。有名な曲では♪てんてんてんまり、の「鞠と殿様」はこれまでなんとなく物凄く昔の歌だと思い込んでいたけれども、実は西条八十作詞の立派な“近代曲”であることを初めて知ったし(既にあった曲を採譜しただけかも知れないけど)、♪お山の大将おれひとり〜、の「お山の大将」なんて、このフレーズ以外は現在耳にすることはほとんどないが、その後続くのは「兵どもが夢の後」的な内容であることも、これまた初めて知った。♪ぴっちぴっち、ちゃっぷちゃっぷ、らんらんらんっ!の「あめふり」の詩が生み出す言葉のリズム感には小さい頃から気持ちが高揚させられっぱなしだし、聴きどころは多い。
日本の流行歌の世界は知れば知るほど魅力ある作品に出逢えるので、今後リサーチが進めばこのような興味深い音源を色々と聴くことができるようになるのだろう(期待してます)。しかし折角の意欲的な企画も人知れず発売されていることが多いので、こういう情報を得られる場所があるといいと思うんだけど。あ、勿論「Editor's Pick」もそんな場所を目指して頑張りますけれども。
曲目等詳細(発売元のサイト)