皆さん、ご覧になりました?映画「永遠のモータウン」。黄金期のモータウン・サウンドを支えたミュージシャン集団「ファンク・ブラザーズ」の生存メンバー達を中心に据え、かつての大ヒットナンバーの再演ライブを縦糸に、それら大ヒットが生まれたエピソードの、インタビューや再現映像を交えての紹介を横糸に編み上げられた「モータウン・サウンドの裏側」ドキュメント。上映されている渋谷の映画館に平日の最終回観に行ってきたが、スクリーンが非常に観づらい劇場であるにもかかわらずほぼ満席で、40〜50代の男性の比率がこんなに高い映画も珍しいのではないか?という感じだった(同じフロアの隣のホールで上映されていたのが今話題の“ヨンさま”映画で、その客層の違いもまた面白く・・)。映画の内容は既に方々で伝えられているとおり秀逸で、僕が観た日は終映時に会場で拍手が起こったほど。渋谷での上映は少なくとも今月中はレイト・ショーで続く様なので、音楽ファンは是非ともあの感心・感動を味わっていただきたいと思う(地方上映の予定もあり)。
音楽にそれほど関心のない方(がこのページを見ているはずはないと思うが)に「永遠のモータウン」がどんな映画なのかを簡単に説明すると
A:「大阪城を造ったのは誰でしょう?」
B:「豊臣秀吉?」
A:「ブー。正解は、大工さん。」
という感じだろうか。“総帥”ベリー・ゴーディを頂点に、数多くの才能溢れるプロデューサーやソングライター、アーティストが寄ってたかってこさえた立派な「城郭」の数々。それらを形にするには当然腕利きの職人が必要だったわけで、後に「ファンク・ブラザーズ」と呼ばれる彼らがどの様に集められ、技術を磨き、数々の名曲を現実のものとしていったか?の謎を、聞き手である現役ミュージシャンたちも興味津々な様子で解き明かそうとしている。例えば、初期のモータウンのヒットで決まりごとのように登場するドラマーのベニー・ベンジャミンによる♪ドゥワンタラタタン・・というイントロ前のドラムのフレーズ、あれをどうやって叩くか?なんてレコードだけで聴いている者にとって長年の疑問の数々を、カメラの前で再現してくれる。僕など映画館で「へぇーっ!」と、何度口に出しかけたことか。
黄金のモータウン・サウンドが完成し、ヒットチャートを独占した後、70年代に入ってモータウンは如何に呆気なく彼らを切り捨て、デトロイトからロサンゼルスに去って行ったのか?という話が物語の最後にあるので、この映画は日本版タイトルの様な「モータウン万歳!」な映画ではない。60年代〜70年代の10年間、レコードやラジオを通じて常にアメリカの“何処にでもいた”彼らがデトロイトに取り残され、30年経った現在になってまるで「ブエナ・ビスタ・ソーシャル・クラブ」のように再発見されるという現象は、モータウンが如何に非情な会社であったかということの現われでもある。そんなこともあってかこの映画に現在もモータウンにかかわりを持つ人間の登場はなし(過去の映像のみ)、ライブに登場する現役ミュージシャンもすべて非モータウン系と、結構複雑な状況で制作された様子が伺える。
と、映画の話が長くなってしまったが、ここから話題はサントラへ。再演ライブを主に収録したサントラCDは一昨年に発売され、グラミーにもノミネートされたが、映画の評判が各国で高まり、ファンク・ブラザーズのリユニオン・ツアーも盛況となるとレコード会社も黙っていられなくなったようで、ファンク・ブラザーズ単独の演奏を集めたCDなんてのも発売されたし、続いてはオリジナルのサントラに大量のボーナス・トラックが追加された2枚組の「デラックス・エディション(今回紹介)」の発売にまで至っている。
で、内容。再演ライブはコメディ・リリーフ的な起用と思われるブーツィー・コリンズを除いて(ベースを弾かないブーツィなんてっ!)実力派シンガーが集められており、どれもその歌唱力に唸らされる。特に印象的だったのは物凄くクセのあるミッシェル・ンデゲオチェロと、数年前の大ヒット「One Of Us」の時の印象とは全然違って滅茶苦茶いい女のジョーン・オズボーン。2人ともこれほど優れたボーカリストであるということにまったく気づかずにこれまで聴いていたので、認識を改めさせられる思い。それにしてもジョーン・オズボーン、逢いたいなー。男性陣も勿論健闘、映画でも最後に演奏されるモンテル・ジョーダンとチャカ・カーンの「Ain't No Mountain High Enough」は、映画館で涙が出そうになった記憶(この曲を最後に持ってくるのはズルいっ!)が甦る。
サントラに続くボーナス・トラックには、当時彼らが他のレコード会社のレコーディングに匿名で参加した“アルバイト・ヒット”が3曲。ライブではその代表としてキャピトルズの「Cool Jerk(66年7位)」をブーツィが歌っていたが、追加でジョン・リー・フッカーの超古典ブルース「Boom Boom(62年60位)」、50年代末ベリー・ゴーディにソングライターとして成功の第一歩を踏み出させたジャッキー・ウィルソンに、完成形のモータウン・サウンドを提供した“恩返しヒット”「(Your Love Keeps Lifting Me) Higher And Higher(67年6位)」、そして映画の中で「1972年、この曲が弾けないベーシストは全員クラブをクビになった。」と語られていたデニス・コフィ&ザ・デトロイト・ギター・バンドのインスト・ヒット「Scorpio(72年6位)」が収録され、サントラの見事な補完を果たしている。
続いて今回の目玉、2枚目のCDは題して「In The Snakepit: Naked Instrumental Remixes of The Original Hits」。黄金のモータウン・ヒッツからボーカルを削ぎ落とし、ファンク・ブラザーズの演奏をググッとフィーチャーしたインスト集。先ず最初は映画のタイトルの元となったフォー・トップスの「Standing In The Shadows Of Love」、当然でしょう。その後映画で紹介されたエピソードが頭に残っている者にとっては興味深い録音が続々。「レコード史上最も重要なギター・フレーズの五指に入るだろう。」と語られていたテンプテーションズの「My Girl」、近所のストリップ劇場の伴奏のアルバイトで覚えたラテン・ビートを取り入れたというグラディス・ナイトとピップス版「I Heard It Through The Grapevine」、ベーシストのジェームス・ジェマーソンを泥酔状態でスタジオに連れてきたら椅子にまっすぐ座っていることが
出来なくて、仕方がないので床に寝転がった状態で弾かせたという「What's Going On」の替わりの「Mercy Mercy Me(こちらはちゃんと素面なのか?)」とか。映画の場面々々が甦ってくる。
他にも主役のマーヴィン・ゲイの後ろで必死に声を張り上げている、デビュー前のマーサ&ザ・ヴァンデラスのコーラスが前面に出された「Pride And Joy」とか、インスト・ナンバーとしても完結した心地よさを感じるスピナーズの「It's A Shame」とか。聴きどころはたくさん。先ずは映画を観て、そこで感じたことを何度も反芻する為にこのCDを何度も聴くと。これは楽しい。何ヶ月も前から噂で聞いているファンク・ブラザーズの来日公演、本当に実現するかどうかわからないが、実現の際は是非とも会場に馳せ参じて、多くの音楽的宝物を我々に残してくれた彼らに、出来る限りの賞賛を贈りたいと思っている。
「永遠のモータウン」公式サイト