八亀's Picks - May 2004

過去の八亀's Picks

5.30 You Better Believe It - VA
5.29 The Very Best Of Little Beaver
5.23 Girls With Guitars - VA
5.20 Love Lifts Us Up...1968-1983 - Jennifer Warnes
5.15 Garage Beat '66, Vol. 1, 2 & 3 - VA
5.08 Complete Barbara Acklin On Brunswick Records
5.02 風都市伝説―1970年代の街とロックの記憶から
5.02 The Phonographic Yearbook 1908 & 1907

Rare & Modern Soul Gems

You Better Believe It: Rare & Modern Soul Gems 1967-1978
(WSM)



 英ワーナーが出している米ワーナー/アトランティック系R&Bのコンピレーションというのがどれもいちいちいい内容で、調べてみたら以前紹介した「60年代ソウル集」や「フィラデルフィア・ソウル集」以外にも色々と出ているものだから、見つかる度についまとめ買いしてしまう。で、最近届いたのがこれまたユニークな「レア&モダン・ソウル集」。何だこりゃ。

 60年代の熱いソウル・ミュージックを主に集めたCD「Sock It To 'Em Soul」の後半は、一転してクールで穏やかなナンバーがズラッと並んでいて、この手の音楽が好きな僕はその選曲センスに唸ったものだったが、今回はその部分を拡大し、作品の年代を70年代まで広げてみました、という感じのCDになっている。「レア・ソウル」というのは別にレコードの稀少価値を言っている訳ではなく(実際ノン・ヒット曲は多いのだが)、これは雰囲気でつけられたネーミングで、ある人はこの手を「70年代のノーザン・ソウル」と言うかも知れないし、またある人は「フリー・ソウル」と言うかも知れない。僕はこういったタイプの音楽を「ビーチ・ミュージック」と呼ぶのを好むので、以下はその呼称で進めさせていただく。

Beach Music Classics で「ビーチ・ミュージックって何?」という話を少々。アメリカ東海岸、南北カロライナ州には独特なR&B文化があるようで、ゆったりとしたビートのノーザン・ソウルや50年代のR&Bを「ビーチ・ミュージック」と称して珍重する傾向がある、らしい。この「ビーチ・ミュージック」のユニークなところは、通常「モータウン」でも「フィリー・ソウル」でも当地のミュージシャンが生み出したサウンドがその地域の音楽としてジャンル化されるのだが「ビーチ・ミュージック」の場合はそれが生まれた場所がアメリカの何処だろうと、たとえイギリスだろうとお構いなし、カロライナの人々の好みに合えばそれは「カロライナのビーチ・ミュージック」である点。発想的には「渋谷系」に近いかも知れない。60〜70年代に活躍し、現在は南北カロライナ州を拠点にライブを行っているアーティストも結構いて、ちょっとした“R&B天国”と化しているようなので、僕も一度は♪行ってみたいなマートル・ビーチ・・と思いつつ数年が経過している状態。

 CDの内容に移ろう。冒頭に収録されているのは、この世界の女王といっていいメリー・ウェルズが70年代にリプリーズからリリースしたレアなR&Bヒット「If You Can't Give Her Love (Give Her Up)(74年R&B95位)」。素晴らしき選曲ポリシー!その他有名どころではベン・E.キング、メイジャー・ランス、ベティ・スワン、バーバラ・リンといったアーティストの知られざる70年代録音が次々と登場、いずれも非常に心地よいサウンドで、夏のBGMにうってつけ。アレサ・フランクリンが67年のアルバム「I Never Loved A Man」セッションで録音した「Don't Let Me Lose This Dream」は、アメリカ南部のミュージシャンが、見よう見まねでやってみました的な“なんちゃってボサ”で、これは珍品。

 このCD一番の聴きものは、ダニー・ハザウェイの名曲中の名曲「Love, Love, Love」の未発表ミックスだろう。発表されたものとの違いはダブル・ボーカルがシングルになっていたり、各セクションのバランスが違っていたりといった程度だが、公式バージョンが随分とマーヴィン・ゲイの「Inner City Blues」あたりを意識した仕上がりになっていたのに対し、ミックスがシンプルな分、曲が持つオリジナルの魅力がよくわかるような印象がある。“フリー・ソウル派”はこの一曲だけでも無視出来ないCDだろう。

 なおCDのタイトルになっている「You Better Believe It」は、60年代後半に「Gimme Little Sign(67年米9位)」などのヒットを放ったブレントン・ウッドが、75年になって発表したもの。当時はまったくヒットしなかったが、90年代に入ってイギリスのR&Bマニアに再発見され、以降名曲扱いされているのだそう。確かに非常にスムーズな作品で、こんなものが埋もれているからマニアはやめられない。穏やかで涼しげなサウンドが満載のこのCD、選曲はR&B上級者向けではあるものの、そんなこと気にしなくてもただ聴き流しているだけで発見が一杯あるので、興味のある方には「絶対損はさせません」とだけ言っておこう。

(2004/5/30)

Little Beaver

The Very Best Of Little Beaver
(Stateside)



彼女の顔がよく写っているのでジャケ写は日本盤CCCDを掲載していますが、リンク先は米盤CDです。 昨年(日本では今年)リリースされ各方面で話題になったジョス・ストーンの「Soul Sessions」。とても16歳のイギリス人とは思えないボーカルも立派なものだったが、一番驚かされたのがプロデュースをベティ・ライトに依頼し、かつての“マイアミ・ソウル”の立役者たちを再招集して30年前の“マイアミ・サウンド”を再現してしまったこと。普通そんな発想浮かぶか?結果このアルバムはこれだけの充実した内容となり、これをきっかけに“マイアミ・ソウル”への感心も高まってきたということなのか「Soul Sessions」に参加した3人のミュージシャン(ティミー・トーマス、ラティモア、リトル・ビーバー)のベスト盤がイギリスで一気に発売された。今回はその中でも比較的珍しいリトル・ビーバーをご紹介。

 「Soul Sessions」からシングルカットされた「Super Duper Love」の中でジョスから「私のために弾いて頂戴!」と声をかけられているウィリー“リトル・ビーバー”ヘイルは、T.K.レコードを中心とするマイアミ・ソウルのセッションでは欠かすことの出来ないギタリスト。有名なところでは、我が国では90年代小沢健二によってよく知られるようになったベティ・ライト「Clean Up Woman(71年米6位)」のイントロのギター、あれを弾いていたのが彼。ソロでも何枚かアルバムを発表しており、74年の「Party Down(R&B2位)」を筆頭に、R&Bチャートに5曲のヒットを送り込んでいる。他のマイアミ系アーティストにくらべると地味な存在なので、これまで単独のCDは数えるほどしか発売されていなかったが、今回通して聴いてみると、これが“初期マイアミ・ソウルの神髄”的作品集であることに気づかされる。

 彼の得意とする作風は、名曲「Party Down」を聴けばすべてがわかる。メロウなサウンドに絡む、流れるようなギターのフレーズ、そしてリズムボックスの「スカポコ、スカポコ・・」という音色。これだけで何十分でも聴き続けられそうな心地よさ。このCDの前半部分は主にこの「Party Down」のムードに焦点を当てられていて、存分に“スカポコ系”が楽しめる。ギタリストだけあってインスト・ナンバーも収録されており、こちらはクロスオーバー/フュ−ジョン系のサウンドになっている(ジャコ・パストリアスが参加している曲もある、らしい)ので、意外とAORファンにも評判がいいかも知れない。

 CDの後半は彼のヒット曲を中心に構成。彼なりに“ファンキー”を追求したり、スティービー・ワンダーあたりへの憧憬も感じられたり。色々と試行錯誤があった末の「Party Down」なのだ、ということがわかる。なお彼は70年代いっぱいをT.K.で過ごし、80年代以降は時折ベティ・ライトのレコーディングを手伝うくらいで、アムトラック(アメリカの電鉄会社)で働く日常を送っていたらしい。「Soul Sessions」は彼にとって約25年ぶりの復活だったのだ。こうして彼の過去の作品も容易に聴けるようになったし、再評価はこれから進められることになりそうだ。

Timmy Thomas Latimore Miami Sound 

 ついでにリトル・ビーバーと共に「Soul Sessions」に参加したT.K.組のCDもご紹介。1973年のR&Bナンバー1ヒット「Why Can't Live Together」で知られるティミー・トーマスは、考え方によっては“マイアミのダニー・ハザウェイ”といえなくもないアーティスト。例の“スカポコ系”サウンドがたっぷり楽しめるので、リトル・ビーバーの次に聴くとしたらこれをお薦め。しかしこのCD、98年に英ウェストサイドから出てたのと内容がまったく一緒じゃん。ラティモアの方はよりディープなサザン・ソウル風なので“マイアミ・サウンド”を期待すると肩透かしを喰うかも。しかもフリー・ソウル好きだったら一発でノック・アウトを喰らうアル・クーパーの「Jolie」が入っていないのは致命的。これだったらライノのベスト盤の方がいいかも。あと「Soul Sessions」でより深くマイアミ・ソウルを聴いてみたくなったら、昨年英ソウル・ジャズから発売された「Miami Sound」が、T.K.設立以前からの音楽的流れを丁寧に追っていて、名コンピになっているので是非ご一聴を。あ、それと勿論ベティ・ライトもね。

曲目等詳細(発売元のサイト)

(2004/5/29)

Girls With Guitars

Girls With Guitars: All-Girl Bands, Axe-Backed Babes and the like... (Ace)


 オールディーズ系の再発を得意としている各国のレーベルは、他所のレーベルのリリース内容が相当気になっているようで「あちらがこうきたら、こちらは・・」という“リイシュー合戦”と化している様相が、音楽ファンとしては面白い。今月はイギリスのエイスから、何ヶ月か前に紹介した「Girls Go Zonk!!」を多分に意識したようなCDが出たのでご紹介、こちらのテーマは「60年代の女の子バンド特集」。

 このCDに集められているのは、60年代半ば、まだロックシーンにジャニス・ジョプリンやグレース・スリックといった“女傑”たちが登場していなかった時代に録音されたメンバーが女の子ばかりのバンド作品、またはそれに準ずるもの(実際には彼女たちは演奏していないかも)全24曲。実はエイスはアナログ時代の1989年に既に最初の「Girls With Guitars」をリリースしているので、別にこのCDは昨今の“リイシュー合戦”に便乗したものではないようなのだが、併せて聴くとより一層楽しめるだろうということで、この流れの中で紹介することとしたい。

Goldie & The Gingerbreads 主な収録アーティストを幾つか。“ガール・ロックシーン”の先駆者的存在となったのはニューヨークのゴールディ&ザ・ジンジャーブレッズ。1963年に結成され、ツイストで有名な「ペパーミント・ラウンジ」で演奏していたという彼女たちは、翌年業界のセレブ・パーティーに出演しているところをアニマルズのエリック・バードンに認められ、渡英して65年には「Can't You Hear My Heartbeat?(英25位;プロデュースは同じくアニマルズのアラン・プライス)」をヒットさせるのだが、ここにはそれ以前にアメリカで録音した4曲が収録されている。バンドとしては全員が女の子という以上の特色はないような気がするが、これはこれで貴重ということで。なおこのグループのメンバー、ジェニア・レヴァンはその後マイケル・ゼ−ガーも在籍していたブラス・ロックバンド、テン・ホイール・ドライヴのボーカルとして「Morning Much Better(70年米74位)」を、ソロとしても「Back In My Arms Again(78年米92位)」のヒットを放っている。

 “女の子ロック”と言われてつい期待してしまうのは、如何にも作られた感じの“お人形さん系”か、もしくはまったく逆でエグいくらいの“メス猫系(70年代以降こちらが主流になる)”のどちらか。後者に当たるのがデニス&カンパニーというバンドによる「Boy, What'll You Do Then(66年)」で、この曲を作ったメンバーのデニス・カウフマンは後にモビー・グレイプの前身バンド、フランティックスにも参加する“女傑”だそうだが、彼女の当時のボーイフレンドはその後「ローリング・ストーン」誌を創刊するヤン・ウェナーだったそうで、その彼との別れがヒステリックに歌い込まれている珍品。1964年の“ビートルズ・ブーム”に当て込んで作られた“女版ビートルズ”ビートレッツ(Beatle-ettes)の「Only Seventeen」は、「I Saw Her Standing There」と「I Want To Hold Your Hand」と「She Loves You」をごちゃ混ぜにしたような曲で、奥田民生も真っ青。この曲をプロデュースしたジョ−ジ“シャドー”モートンは、その数ヶ月後ガールグループにロック的な不良っぽさを漂わせたシャングリ・ラスを大成功させることになる。

The Pandoras 「Girls Go Zonk!!」でも紹介されていたのがロサンゼルスの4姉妹、ガールズ。「〜 Zonk!!」に収録されていた「Chico's Girl(66年発表)」は完全にスタジオ・ミュージシャンの演奏による“純正ガールポップ”になってしまっていたが、その前年にリリースした「My Baby」と「My Love」のカップリングは、まだバンドサウンドの雰囲気が残された録音になっている(本当に彼女たちが演奏しているかは不明)。同じく「〜 Zonk!!」でまったくハリウッドのゴールド・スター・スタジオのサウンドを聴かせていた「Games(67年発表)」のパンドラズは、同年の「(I Could Write A Book) About My Baby」でもやはり“プロのサウンド”の匂いがプンプン。但し録音場所は違うようだが。その他バッキンガムズのマネージャー、カール・ボナフィードがシカゴの女の子を集めたドーターズ・オブ・イヴの「Help Me Boy(アニマルズの「Help Me Girl」のカバー)」の演奏のヨレ具合もなんともいえず愛らしいし、楽しみどころは多い。

 ライナーノーツによればこのCD、第2弾も企画中だとか。あまりマイナーになり過ぎるとついていくのが辛いが、この企画だったらまだまだいけるかも知れない。あと、このCDを聴いて他のレーベルは今後どのようなガールポップのコンピレーションを出してくるのか?それも楽しみである。

内容等詳細(発売元のサイト)

(2004/5/23)

Jennifer Warnes

Love Lifts Us Up...1968-1983 - Jennifer Warnes
(Raven)



 “壁にジェニファー、障子にメアリー”とくれば、三遊亭小遊三師の得意とする駄ジャレだが(ウソ!)、ジェニファー・ウォーンズといえば80年代洋楽世代にはお馴染みの“メガネ美人”。芸歴35年を超える彼女のキャリアの前半部分を、レーベルをまたがって音源を掻き集めたCDがオーストラリアのレイヴンから届けられた。

 彼女が「Right Time Of The Night(『星影の散歩道』米6位)」で全米チャートに登場したのは1977年で、以降の彼女をよく知る人は多いと思うが、実はキャリアは想像以上に古く“ジェニファー”名義で最初のアルバムをリリースしたのはその10年近く前の1968年。ロック・ミュージカル「ヘアー」のロサンゼルス・キャストに参加し、そこからのナンバー「Easy To Be Hard」をマイクロヒット(69年128位;因みにスリー・ドッグ・ナイトがこの曲をヒットさせるのはその3ヶ月後)させたのが、彼女がヒットチャートの片隅に名前を残した最初の記録。20曲入りのこのCDではその“ジェニファー”時代(68年〜72年)、名前を“ジェニファー・ウォーンズ(本名はジェニファー・ウォーレン)”と改めアリスタでブレイクを果たした時代(77年〜81年)、更に各社で残したデュエット作(映画「愛と青春の旅立ち」主題歌の「Up Where You Belong(82年米1位)」等)3曲までをカバーしている。

 収録されている作品を時代別にご紹介。アメリカ西海岸のフォークシーンで活躍した彼女は1967年にレコード契約を結び、TVバラエティ「スマザーズ・ブラザーズ・ショー」、そして「ヘアー」への出演で知名度を上げた。当時パロット、リプリーズからリリースされたアルバムはいずれも不発に終わったが、ジョニ・ミッチェルやジミー・ウェッブといった当時新進気鋭のソングライターたちの作品を取り上げた録音はどれも聴き応えがあり、彼女の透明感のある歌声と、いかにもあの時代的なオーケストラ・サウンドが楽しめる。個人的にはこの時代のサウンドが一番馴染むので、8曲といわずもうちょっと多めに収録してくれてもよかったかな、という感じ。

 リプリーズからソロ契約を解消された73年、彼女はレナード・コーエンのバンドに参加し、数年間彼のツアーに同行。その後70年代半ばにカリフォルニアに戻りソロ活動を再開、アリスタ・レコードと契約を結び、ようやく商業的な成功が訪れる。この時期彼女は6曲のHOT100ヒットを放っているが、ここにはそのうち「I'm Dreaming(77年50位)」を除く5曲が収録されている。前述の「星影の散歩道」をはじめMORの王道といった感じのアリスタ・サウンドなので、面白みに欠けるといえば欠けるが、彼女の歌声は十分に楽しめる。お馴染みのバカラック・ナンバー「Don't Make Me Over(79年67位)」は、ディオンヌ・ワーウィックとリンダ・ロンシュタットを足して2で割った感じの趣き。79年発表のアルバム「Shot Through The Dark」では彼女のソングライターとしての資質にもスポットが当てられていたが、そこから選曲された「I'm Restless(このCD唯一の自作曲)」は70年代のニール・セダカあたりを彷佛させる凝ったメロディ・ラインのバラードで、彼女のキャリアのベストトラックといってもいい名曲。

 残り3曲の“第3フェーズ”は、現在彼女のイメージというとまっ先に思い浮かべられる「デュエット歌手」としての側面。ジョー・コッカーと歌った「愛と青春の旅立ち」そして映画「ダーティ・ダンシング」の主題歌、ビル・メドレーとの「(I've Had) The Time Of My Life(87年1位)」の印象があまりにも強烈なため、彼女といえばこの2曲しか知らない、という音楽ファンもいるかも知れないが、あれだけアクの強い歌手のパートナーを次々と務められるのは、彼女の“才能”といっていいのだろう。ここに収録されているのはまず70年代後半、ポップ・チャート同様に何故かカントリー・チャートでも受けがよかった彼女がカントリー・シンガー、スティーヴ・ジレットと共演したレアなカントリーヒット「Lost The Good Thing We Had(80年米C&W76位)」、そしてお馴染みの「愛と青春の旅立ち(作曲はかつて彼女とリプリーズの契約を取り持ったジャック・ニッチェ)」、更にクリス・トンプソンとの「All The Right Moves(83年米85位)」と、チャートファンには嬉しいチョイス。これに映画「Twilight Zone」サントラに収録されていた「Nights Are Forever(83年アダルト・コンテンポラリー8位)」が入れば、この時期の彼女のヒット曲は完璧なのに・・というのは欲張りか(デュエットじゃないし)。

 その後彼女は前述の「〜 Time Of My Life」が全米ナンバー1を記録、以降はレナード・コーエンの作品集ほか寡作ながら現在まで時折アルバムを発表し続けている。数年前には日本のTVドラマ主題歌に彼女の歌が起用されちょっとした話題になったそうで(その効果か今年の前半には来日公演もあった)、このCDはそういった「アルジャーノンに花束を(TVドラマのタイトル)」で彼女を知った世代にも、逆にヒットチャート華やかなりし頃の彼女にしか興味のない世代にもフィットする内容になっている。既にアリスタのベスト盤を持っている人は、購入に相当頭を悩ませることになるかもしれないけれども。

曲目等詳細(発売元のサイト)

(2004/5/20)

Garage Beat '66 Vol.1

Garage Beat '66 Vol.2

Garage Beat '66 Vol.3


Garage Beat '66, Vol. 1, 2 & 3 - VA
(Sundazed)



 “警告:このCDを「グッド・ヴァイブレーションズ・オブ・フィーリン・グルーヴィー'60s」みたいなタイトルがつけられた懐メロ・コンピだと思って購入しようとしている皆さん、それは大きな間違いです。ここに収められているのは、これまで殆ど語られることもなかった粗野で野卑な作品ばかり。「ロック革命」と言われたあの時代に何千と生まれた10代のガレージ・バンドたちが残し、当時地元以外では殆ど聴かれなかったシングル音源のコレクションです。”

Garage Beat '66 いきなり刺激的な警告が付けられているこのCDは、そのタイトルの通り1966年を中心とした60年代半ば〜後半に全米各地のガレージ・バンドたちによって残された強烈なR&Rを集めたコンピレーション。「Nuggets」シリーズを“グルーヴィー”な方向に展開したライノに対して「ぬるいっ!!」と一鎚を喰らわせる痛快な内容になっている。さすがはこの手の音楽にただならぬこだわりを見せるサンデイズド。ライナーノーツは更に続く。“1972年にエレクトラから「Nuggets(ガレージ・ロックという現象を初めて学究的に編纂したアルバム)」が発売されて以降、ガレージ・ロックのコンピレーションは数限り無く発売されてきたが、その殆どで見られるような編集テーマの曖昧さや制約が今回のシリーズにはまったく見られない!!”

 とにかくこの3枚全60曲からなるシリーズの「Nuggets」ボックスへの対抗心というのが並ではなくて、選ばれているアーティストでダブるのは多分10組くらい、曲に至っては重複するのがスパークルズの「No Friend Of Mine」と、バリーとリメインズの「Why Do I Cry」の2曲のみという徹底ぶり(リメインズは当時未発表だったデモ録音の方を収録しているので、実質は別)。冒頭の警告にある通り殆どのバンドが商業的な成功を収めることなく消え去っており、HOT100入りを果たしたグループを列記するとテキサスのフィーヴァー・トゥリー、本格ブレイク前のゲス・フー、ミネソタのジェスチャーズ、マサチューセッツのバーバリアンズ、後にポップ化するファイヴ・アメリカンズ、70年代以降フリートウッド・マックやフォリナー、パット・ベネターなどをプロデュースすることになるキース・オルセンがいたミュージック・マシーン、イングランド・ダンとジョン・フォード・コーリーの2人がメンバーだったサウスウェストF.O.B.(彼らのみヒット曲「Smell Of Incense(68年56位)」が選曲されている)くらいなもの。“「Nuggets」以外にも、イカしたガレージ・ロックはこれだけあるぜっ!”という選曲者の意気込みがひしひしと伝わってくる。

 第1集〜3集まで特に明確なテーマ別けはされておらず、どれもひたすら荒っぽいガレージ・サウンドのオン・パレードなので、CD毎に紹介するのも変な感じだが、とりあえずボリューム毎に聴きどころをピックアップしてみよう。まず第1集の冒頭、大事なオープニングはシカゴの“006”というバンドによる「Like What, Me Worry」。このグループも含め当時のガレージ・バンドの大半はローリング・ストーンズやヤードバーズになりたくて仕方がない!といった感じの演奏を聴かせていて、それがカッコよかったり微笑ましかったり。他には何故かホワイト・ブルース・シンガー、ジョン・ハモンドの録音にザ・バンドのロビー・ロバートソンとストーンズのビル・ワイマン(!)が参加した「I Wish You Would(明らかにヤードバーズを下敷きにしている)」なんて珍品や、ロック界がサイケデリックな世界で盛り上がる1967年に一足早く「いい加減LSDと縁を切りたい」と歌うフィー・ファイ・フォー・プラス・トゥの「I Wanna Come Back (From The World Of LSD)」なんて曲も。

 続く第2集もガレージ魂炸裂、しかし幾分ポップな曲が多いような気も。バートン・カミングス加入後のゲス・フーの「Believe Me」の突出したポップさは耳に残るし、ガレージ界の“王者”ソニックスの「You Got Your Head On Backwards」は代表的なビート・ナンバーを3曲も「Nuggets」ボックスに取られてしまったからか、ヤードバーズの「I'm A Man」やナッシュヴィル・ティーンズの「Tobbaco Road」あたりを思わせる荒っぽくブルージーな作品が選ばれている。前述のリメインズ「Why Do I Cry」はいま一つ冴えなかった65年のシングル曲を翌年に再録したもので、よりガレージっぽい仕上がりに。何故かテディ・ランダッツォが作・プロデュースしているサード・バルドーの「Love Your Mind」は本当に彼が手掛けたの?と言いたくなるようなノイジーな演奏。カッコいいけれども。

 最後の第3集は、前の2枚と比べてサイケ色が強くなった感じ。意識してフリーキーな演奏を集めたような印象もあり、シリーズでは一番印象強いかも知れない。「Talk Talk(66年15位)」のヒットを持つミュージック・マシーンの「Mother Nature/Father Earth(68年)」は“ルーツ・オブ・ハードロック”といった趣。その他ハモンド・オルガンがピロピロ鳴ってる“サイケ・ナンバー”多数で、結構楽しめる。

 内容的にも音質的にも、とりあえずガレージ・ロックファンは必聴の3枚だと思う。「Nuggets」は持っているけど、その後無数に出ているブートまがいのガレージ・コンピにはなかなか手が出せない、という初心者にも、安心してお薦めできる。サンデイズドはこのシリーズで紹介されているバンドの単独CDも多数発売しているので、気になるものがあったら更に深みに踏み込んでみてもいいかも。

収録曲等詳細(発売元のサイト)
GARAGE BEAT '66, VOL. 1 - Like What, Me Worry?!
GARAGE BEAT '66, VOL. 2 - Chicks Are For Kids
GARAGE BEAT '66, VOL. 3 - Feeling Zero...

(2004/5/15)

Complete Barbara Acklin

Complete Barbara Acklin On Brunswick Records
(Brunswick/Edsel)



 以前紹介したシャイ・ライツ(現在発売されている日本盤に表記を合わせました)に続いてイギリスのエドセルがリリースした米ブラウンズウィック・レコードの「Complete」シリーズは、ガール・シンガーのバーバラ・アクリン。彼女が1968年から72年にかけて同社に残した5枚のアルバム音源を2枚のCDにコンパイル。

 ヒット・チャートファンには68年のヒット「Love Makes A Woman(米POP15位/R&B3位)」で、それ以外の音楽ファンには多くのカバーを生んだ「Am I The Same Girl(69年米POP79位/R&B33位)」のオリジナル・シンガーとして知られているかもしれない彼女は、TOP40ヒットを1曲しか持っていないため、その他の作品は多くの人にとってノー・マークかも知れない、が、これが聴いてみるとシカゴ・ソウルファン、そしてポップなR&Bサウンドを好む音楽ファンには見逃せない内容であることが判ると思う。収録曲の多くを自作している彼女のソングライティング・パートナー(後に結婚もする)は、シャイ・ライツのユージン・レコードなのだから。

 1944年生まれの彼女は60年代半ばをセッション・シンガーとしてシカゴのソウル・シーンで過ごし、ソングライター契約を結んだブランズウィック・レコードでジャッキー・ウィルソンに「Whispers (Gettin' Louder)(66年米POP11位/R&B5位)」を提供。これが実績となって今度は人気シンガー、ジーン・チャンドラーのデュエット相手を務め(残念ながら今回のCDにこのセッションは未収録)、続いてソロデビュー・・と、まずはソングライターのキャリアがあってのスタートだった。そこでコンビを組むことになったのがまだシャイ・ライツがブレイクする前のユージン・レコードで、結局彼はバーバラがブランズウィックに残した作品の半分以上を作曲。このコンビの作品はシャイ・ライツにも多く取り上げられていて、ヒット曲でいえばまずなんといっても「Have You Seen Her(71年米POP3位/R&B1位)」が2人のペンによるものだし、70年代半ばに本国よりイギリスで人気が高くなりつつあった時期のヒット曲「Stoned Out Of My Mind(73年米30位)」「Too Good To Be Forgotten(74年英10位)」「You Don't Have To Go(76年英3位)」にもバーバラの名がクレジットされている。

 ということでこのCDの最大の聴きどころはバーバラ&ユージンのコラボぶりということになるのだが、それ以外にも目を向けつつ作品の全体像を。同時代のモータウンでいえばブレンダ・ハロウェイタイプのソプラノ・シンガーであるバーバラには、この時代のシカゴのポップなサウンド(ノーザン・ビートと呼ばれる)が非常にマッチして、どの曲も心地よい。個人的には一番好きなタイプのR&Bなので、時間がたつのを忘れてしまいそう。また初期2枚の彼女のアルバムはR&Bだけではなくディオンヌ・ワーウィック系のポップ・ナンバーへの挑戦も見られ、バカラック=デヴィッド作品を5曲(「What The World Needs Now Is Love」「The Look Of Love」「Go With Love」「Where Would I Go」「This Girl's In Love With You」)も取り上げている点もこれまた興味深い。と、ここまでがCD1枚目。

 CD2枚目は大半が70年代に入ってからの作品。サウンドは時代の影響を受けてファンキーな感じになってきているが、相変わらず初期の“グルーヴィ”感は健在。カバーではスパイラル・ステアケースの「More Today Than Yesterday」やBS&Tの「Spinning Wheel」などが独特な仕上がりになっていて面白い。彼女がR&Bチャートに送り込んだヒットの殆どは曲の2拍、4拍にアクセントがつけられたビートの“ビーチ・ミュージック”タイプのもの(大好きっ!)だが、時折登場する如何にもシャイ・ライツ流のポップ・ソウルナンバーも味わい深くてよい。

 シャイ・ライツをはじめとする70年代シカゴのスイート・ソウル好きには堪らない作品集になっているので、女の子と侮らず一聴をお薦めしたい。なお「Am I The Same Girl」については面白いエピソードがブックレットに載っていたのでついでにここでご紹介。ヤング=ホルト・アンリミテッドのインスト・ヒット「Soulful Strut(68年米3位)」にボーカルをのせて発表、と多くの音楽ファンに思われているこの曲、実はオリジナルは彼女の方なのだそうで、バック・トラックにボーカル替りにピアノをかぶせ、彼女より先にシングルをリリースしてしまったものがあれだけのヒットになったのだとか。しかもあのレコードにはヤング=ホルト・アンリミテッドの誰もセッションには参加していない(!)という・・。ヒット曲にはいろんな裏話があるものです。

 最後に余談。アメリカの本家ブラウンズウィック・レコードにもウェブサイトがあって、そこでは随分前から「もうすぐ活動を再開するよー。」と発売予定のCDジャケットまで掲載されているのだが、一向に実現する様子がない。モタモタしているとエドセルからいいところはみんな出されてしまうんじゃないか?とちょっと心配。本家なのに。。

内容等詳細(発売元のサイト)

(2004/5/8)

風都市伝説

風都市伝説―1970年代の街とロックの記憶から
北中正和:責任編集(音楽出版社)



 その時々に聴いたCDなどを紹介する僕の「Editor's Pick」コーナーは、週に2枚くらい紹介するのがいいペースなのかな、ということでそこら辺を目処に色々セレクトしているが、実はあまりのボリュームの多さに先月紹介出来なかったものがある。それが3月末に発売された8枚組の「はっぴいえんどBOX」。“日本のロックの祖”と呼ばれる彼らには人並み以上の思い入れがあって、是非このコーナーでも取り上げたかったのだが、何しろ物凄いボリューム&新発見が多すぎ。サイトを一つ立ち上げないと済まないくらいの情報量があるので、泣く泣くレビューを諦めた。本当は他のCDなど買わず、このボックスだけ1ヶ月聴き続けてもいいくらいの内容があるのだが。

はっぴいえんどBOX 制作者の「折角はっぴいえんどのボックスなんだから、ケチケチせず出来る限りのことをしよう」という気概が伝わってくるこの一箱、購入側はその気概をかって\20,000近いお金を出しているので「値段が高すぎる」だの「ボリュームが多すぎる」だのと文句を言いながら購入を見送った人々は「だったらバラで出てるものを買え。」の一言で片付けたいところ。なにしろ他でもないはっぴいえんどなので、こちらも既に殆ど持っている音源を買い直すには「もうこれで一生彼らのCDを買う必要はないだろう。」くらいの内容でないと未練が残ってしまうし。などと、ここでボックスの話を始めると際限がないので止めておくけれども、一点だけ再認識した点を。はっぴいえんどは「ウェスト・コーストのロック・サウンドと日本語を結びつけた」とよく言われる。しかし、ボックスに収録されているメンバーたちのインタビューを読むと、意外なくらいにR&Bサウンドからの影響を熱心に語っていることに気づく。スタックスとか、マッスル・ショールズとか。彼らはバッファロー・スプリングフィールドやモビー・グレープなどと同様に、同時代のR&Bの熱心なリスナーでもあったのだ。考えてみれば当たり前のことだが。そういえば僕がまだ学生でバンドをやっていた時「はいからはくち」のベースラインが、実はジェイムス・ブラウンの「Cold Sweat」からヒントを得ているのだと気づき、物凄くショックだったことを思い出した。

 さて、今回紹介するのはそのはっぴいえんどを当時マネージメントしていた集団「風都市」にまつわる関係者のインタビューを集めた本。「風都市」が何者であるか?については、本書の後書きで「責任編集」の北中氏が説明しているので、その部分を引用させていただこう。

 “風都市は、70年代の初頭、それまでの歌謡曲とは違うポップ・ミュージックが登場してきた時期に、はっぴいえんど、乱魔堂、小坂忠とフォー・ジョー・ハーフ、あがた森魚、はちみつぱい、ごまのはえ、南佳孝、吉田美奈子、ダッチャ、菅節和、シュガー・ベイブ、山下洋輔トリオなどが所属していたプロダクションだ。プロダクションといえば歌謡曲・芸能界のものだった時代に、その外側から登場した風都市は優れたアーティストを紹介し、プロデューサー・システムやメディア・ミックスのアイディアを提唱し、日本のポップ・ミュージックの行方を予言した。活動した期間は数年だったが、風都市から生まれた音楽の影響力は、YMO、ナイアガラ・サウンド、アイドル・ポップ、渋谷系、クラブ系、喫茶ロックなどを通じて、途切れずによみがえり続けている。”

 縁あって「風都市」の設立/運営に携わった者、その活動を通じて彼らとかかわりを持った者、同時代を生きながら当時はすれ違いに終わった者。数十名に及ぶ人々のインタビューが複雑にからみ合い、70年代前半の日本のロックシーン(の一部)を物語っていく。はっぴいえんどのアルバム制作、渋谷のロック喫茶「B.Y.G」でのイベント運営、ベルウッド、ショーボートといった初期の日本のロックを記録したレーベルの内情、そしてはっぴいえんどの解散とその後のメンバーたちの活動展開、経済的に行き詰まった「風都市」の崩壊等々。どれも興味深い話ばかり。ここに登場する人々の殆どが当時は20代前半で、学生同然だった彼らが30年後の現在も影響力を持つ物凄く濃いムーブメントを起したことに驚かされる。これまでレコードのクレジット等で名前を見たことしかなかったあの人が、こんな働きをしていたんだとか、視点がマニアックになればなるほど深く楽しめる。

出版社のサイトへ 個人的には大滝詠一がはっぴいえんど解散後に設立した「ナイアガラ・エンタープライズ」、当時商業的な実績皆無の彼が何故個人レーベルなどという大それたものをいきなり立ち上げられたのか?それが長年疑問だったのだが、その背景がなんとなくわかったような気がした。音楽状況が混乱していた当時はそういう“意志を持った”若いアーティストやプロダクションにプロジェクトを立ち上げさせる(悪くいえばレコード会社が丸投げする)空気が存在したんだなと。インタビューに登場するアーティストの多くは現在も“大御所”として活躍中、しかし当時のスタッフは現在殆ど音楽業界に残っていない、という点も何を物語っているのか、単に「風都市」の限界だったのか?それとも他の問題なのか?なんてことも考えさせられた。

 当時のロックシーンに興味のある方は必読、レコードだけでは知ることの出来ない貴重な「ロック史の裏側」を教えてくれる一冊だと思う。若者たちの起業物語としてもドキュメント・タッチで相当面白く読めるのでは。登場人物は有名人が多いし。

 「meantimeとはっぴいえんどなんて、全然関係ないじゃん。」と思われる方も多いと思うので、最後に少々こじつけ気味に。毎偶数月第2土曜日に渋谷で開催している「breakout」、昼間たっぷり最新の洋楽を聴いた後は恒例の飲み会に突入するのだが、その2軒目として毎回のように利用しているのが渋谷道玄坂は百軒店に在るロック喫茶「B.Y.G」。そう、かつて風都市が活動拠点とし、はっぴいえんどがマンスリー・ライヴを行っていた同店は現在も存在するのだ。ここを利用し始めて数年になるが、そもそもここでの飲み会を最初に提案したのが他でもない“はっぴいえんどマニア”の僕。それが現在も続いているのは、この店が音楽ファンにとって非常に居心地のいい店で(2階の絨毯席が特にお奨め)なおかつ結構手頃な金額で飲食ができるからなのだが、僕の“はっぴいえんど愛”も少なからず継続に寄与していることは間違いない(大げさな)。

 そんな訳で「breakout」常連者には、いつも飲んでる「B.Y.G」がどんな経緯で生まれたのか?という興味の点でも読んでみていただきたい。ネット・オンリーでmeantimeに参加されている方も、偶数月第2土曜日の21:00過ぎ、同店2階を訪れると酒を片手に音楽ネタで盛り上がっている我々「ミーンタイマー」たちに逢えるかも。それがイヤなら他の日を選んで行ってみてください。

「B.Y.G」ホームページ

(2004/5/2)

The Phonographic Yearbook 1908

The Phonographic Yearbook 1907


The Phonographic Yearbook 1908: "Take Me Out with the Crowd"
The Phonographic Yearbook 1907: "Dear Old Golden Rule Days"
(Archeophone)



 これまでも何枚か取り上げているように、20世紀前半のポップ・ミュージックのCD化が結構順調に進んでいて、特に最近はR&R時代以降同様チャートヒットを中心に選曲されたCDが各国で多く出されているので、選択さえ誤らなければチャート・マニアとしては非常に楽しい状態が続いている。

Pop Memories 1890-1954 この時代のアメリカのヒットチャート情報源として、ほぼ唯一世界中のマニアたちのバイブル的存在となっている本があって、それが今から20年近く前に出版された「Joel Whitburn's Pop Memories 1890-1954: The History of American Popular Music」。レコード・リサーチ社のジョエル・ホイットバーン名義で出されているが、これはスティーヴ・サリヴァンというマニアが3年間資料館に通ってまとめた18世紀末から20世紀半ばにかけてのレコード売上に関するデータ集。僕も本がボロボロになりそうな勢いで利用させていただいている。

 とはいっても、その本がカバーしている60数年間のヒットチャートに登場している曲を片っ端から集めている訳ではなく、気にするのは精々1940年代どまりなのだが、それ以前の時代もいいコンピレーションを見つければ入手するようにしている。最近は「1920年代のヒット曲集」なんてシリーズも各社から出始めていて、聴く度に未知の音楽に出逢えるのが楽しい。で、そんな音源を探しているうちに存在を知ったのがアメリカの「Archeophone」というレーベル。ここは1925年以前、まだ音を電気的に増幅せず、生演奏の前に大きなラッパを立ててレコード管に溝を刻みつけていた「アコースティック録音」時代の音楽を専門にCD化を進めるという超マニアックな会社で、アーティスト別のCDも何枚か出されているが、ここで紹介したいのは「The Phonographic Yearbook」という年別のシリーズ。

 「The Phonographic Yearbook」はこれまでに7枚が発売されているのだが、このシリーズの凄いところは収録曲(1枚あたり25曲前後)の殆ど全てが「Pop Memories 1890-1954」に掲載されている“チャートヒット”であるという点。100年近く経過した現在、同じ年に発売されたレコードをこれだけ集めるのも大変だと思うが、それをヒット曲に限定して収録というこだわりは凄い。しかもチャートマニアは“オリジナル・バージョン”の入手に執拗にこだわる習性があり、この時代はその録音技術の問題から、同じレコード盤号であっても同じ録音とは限らない(曲によってはアーティストが何千回もマイクの前で繰り返し演奏したという伝説が残されているものもある)という“オリジナル”の特定が難しい状況の中、極力“マニアの要求”に応えようとしている点もこれまた凄い。

 シリーズの中から今回は最近出された2枚「1907年」と「1908年」を紹介。明治40年と41年のヒット曲集だって!!我ながら呆れる・・。書き忘れていたがこのシリーズにはもう一つ暗黙のルール「その年のナンバー1ヒットは何があってもすべて収録」というのもあって、その年に同一アーティストが何曲ナンバー1ヒットを出そうとも、競作合戦となり同一曲が何バージョンもナンバー1になろうとも、ダブりをまったく気にせずすべてを収録している。これまた凄い。1907年編にはナンバー1ヒットが10曲収録されており、CDのサブタイトル“Dear Old Golden Rule Days”はこの年3曲を1位に送り込んでいるバイロンG.ハーランの「School Days (When We Were Couple Of Kids)」からとられたもの。このフレーズはビーチ・ボーイズが1980年にチャック・ベリーの「School Days」をカバーした際、曲の冒頭で引用されていたのだが、それが1907年のナンバー1ヒットだったとは・・。

 この時代は「ミンストレル・ショー」と呼ばれる旅回りの芸人や、イギリスのミュージック・ホールから出演者が巡業のため渡米した際に吹き込みを行った“芸人系”のヒットが多く、「スタンダード」が輩出されるブロードウェイなどの舞台から生まれた曲の比率はまだ低い。なので現在誰でも知っているというタイプの曲は少ないのだが、如何にも舞台ウケのよさそうなキャッチーな曲が多く、これはこれで楽しめる。毛色の変わったものではアメリカ海兵隊のブラスバンド(1890年アメリカで最初のナンバー1ヒットを放ったのは彼らとされている)の「メイプル・リーフ・ラグ」、伝説のテノール歌手エンリコ・カルーソの「Pagliacci - Vesti la giubba(全米ナンバー1ヒット)」なんてのも。フランクC.スタンリーの「Auld Lang Syne(螢の光)」はアメリカのヒットチャート記録に残されている最古のバージョンで、前世紀末にヒットしたケニーG.のバージョンから90年以上の隔たり。この“最長期間”記録はちょっと他の曲では破れないでしょう。

 続いてはこの4月にリリースされた1908年編を。この年のナンバー1ヒット11曲を収録したこちらも“芸人系”ヒット多し。この時代のレコード産業最大のスターであるビリー・マレイ、ハリー・マクドノウの2人の録音がふんだんに聴けるこのCDで、現在もスタンダードとして耳にすることのある曲はまず舞台版「オズの魔法使い」から生まれたという「Are You Sincere?」、そして1950年代にミルス・ブラザーズがリバイバルさせた「The Glow Worm」あたりか。ここではチャートのナンバー1に輝いたルーシー・イザベル・マーシュとヴィクター・オーケストラの両バージョンとも聴くことができる。

 そこら辺は別として、このCDの最大の聴きものは現在TVで米大リーグ中継があると必ずBGMとして流れる「Take Me Out to the Ball Game(私を野球に連れてって)」のオリジナル・バージョン。ハイドン・クァルテットが歌ったこのオリジナルは、その後レコード会社のカタログ記載ミスによりビリー・マレイとの共演盤とされてきたが「ビリー・マレイは歌ってません!」とArcheophoneは強調。今後この曲が話題に上り「そもそもこの曲が最初に録音されたのは・・」なんて話になった時は、我々も「ビリー・マレイは歌ってません!」とツッコミを入れることにしましょう。

The Phonographic Yearbook 1920 The Phonographic Yearbook 1921 The Phonographic Yearbook 1922

The Phonographic Yearbook 1912 The Phonographic Yearbook 1913

 とりあえずこれさえ揃えておけば「アコースティック録音」時代のヒット曲集は他に買う必要はないんじゃないか?と思われるこのシリーズ、現状はamazon.co.jpで取り扱っているものと扱っていないものがあるので、上のリンク先がバラバラになっている点はご容赦。送料を考えればamazon.co.jpでの入手が最もリーズナブルだが、レーベルのホームページも迅速に対応してくれるので、まとめての注文だったらこちらの方が得な場合も。なおまったくの余談になるが、CDのブックレットに掲載されているクレジットを見ると、オリジナル音盤提供者の中に「Hiroaki Onishi」の名が。えっ!これって過去にmeantimeの年間投票に参加いただいたこともある大西さんなの??こんなところでお見かけするとは・・。今度機会があったら、ここら辺のお話もジックリ伺ってみたいものです。

Archeophoneホームページ

(2004/5/2)