“Nuggets”、日本語に訳すと「金属の塊」という意味の言葉、チキン・ナゲットの“ナゲット”でもあるのだが、ロックファンにとっては少々意味合いが違う。
今から遡ること約30年、アメリカのエレクトラ・レコードから発売された60年代半ば〜後半のサイケ/ガレージ・ロック作品を集めた2枚組アルバム。当時音楽評論家だった(その後パティ・スミス・グループのギタリストとなる)レニー・ケイが選曲と解説を担当したそのアルバムのタイトルが「Nuggets: Original Artyfacts From The First Psychedelic Era 1965-1968」で、これがロック・コンピレーションの古典とみなされるようになって以降“Nuggets”といえばガレージもののコンピを指すようになり、以降様々なレーベル(主にインディ)からこのタイトルが冠されたアルバムがいろいろな形でリリースされた。
その“Nuggets”精神を最も強く継承したレコード会社が80年代ロサンゼルスに設立されたライノで、同社が当時新たにスタートさせた“Nuggets”シリーズは、アナログ時代にテーマ別10数種を数える大型企画に育った。CD時代に入り、何枚かのトライアル盤をリリースしたライノは、98年に満を持してオリジナル版“Nuggets”をCDで復刻、2枚組全27曲を1枚のCDに収めた上に増補盤として更に3枚(!)を追加、4枚組全118曲のガレージ・ロック一大歴史絵巻として蘇らせ、この時代のロック・コンピレーションの最高峰として、ロックファンの基本アイテムとなっている。
あれから6年、Rhino Handmadeが今回その続編として世に問うたのがこの2枚。以前聞いた話によると選曲担当者が1964年〜1970年の間にワーナー系列のレーベルから発売されたすべてのシングルを聴いて収録曲を決定したという(本当かね?)このCDは、先のボックスがハードなガレージものに主眼が置かれたものであったことを考慮してか、よりソフトかつサイケなサウンドをテーマに編まれている。
まず「Come To The Sunshine」のテーマは“サンシャイン・ポップ”。ミュージシャンで、キンクスのデイヴ・デイヴィスのツアー・バンドメンバーでもあるという“アンドリュー”ことアンドリュー・サンドヴァル監修のこのアルバムは、タイトル通りハーパース・ビザールのナンバーで幕を開ける。ワーナーはソフトロックの宝庫なので選曲には事欠かず、メジャーどころを挙げればアソシエイションやトーケンズ、ヴォーグスやモンキーズなどお馴染みの顔ぶれが並ぶ。通常レーベルもののコンピというと何組かのプロデューサーが複数のアーティストを各々手がけていて、サウンドはそれなりに統一感がある、というパターンのものが多いが、さすがはメジャーレーベル、プロデューサーが見事にバラバラ。でもなんとなくサウンドに一貫性があるように感じられるのは“バーバンク・マジック”の為せる技か。
耳を惹くマイナー作品を順に紹介。まずはアソシエイションの「Windy」の作者、ルーサン・フリードマンの作品を取り上げたパット・シャノンの「Candy Apple, Cotton Candy」、後のブレッドのメンバー2人が提供したモーニング・グローリーズの「Love-In」、トーケンズの面々が手がけたベテランガール・グループ、クッキーズの「Wounded」、何故かブライアン・ハイランドの作品をカバーしているストリート・コーナー・ソサイエティの「Summer Days, Summer Nights」などなど。更にポール・ウィリアムスが在籍していたホリー・マッケラル(いい加減アルバムをCD化してもよいのでは?)の「Scorpio Red」、シールズ&クロフツの2人がデュオとして活動を始める直前に結成していたアンクル・サウンドの「Beverly Hills」と、聴きどころはたくさん。選者の好みか、リー・マロリーの「Take My Hand」、ルッキング・グラスの「Silver Sunshine」、アニター・カー・シンガーズの「Happiness」、アドリシ・ブラザーズの「Time To Love」と、何故かアドリシ兄弟の作品が多く選ばれていて、そのどれもがいちいちいい曲で彼らの才能を再認識させられたりもする。
近年日本では再発ラッシュが一段落の感があるソフトロック系のコンピとして、約20ドルの値段分十二分に楽しめる一枚。一方「Hallucinations」のテーマは“ポップ・サイケ”。こちらもアンドリューの選曲で“産業サイケ”のこけ脅し的な、無駄に派手なサウンドを存分に楽しむことができる。
まずアルバムタイトル曲は元ロカビリー・シンガーのトーマス・ベーカーがこれ又ロカビリー出身で、この頃は業界のベテランに育っていたジミー・ボウエンのプロデュースで録音したこれぞ“産業サイケ”の鑑。現ベンチャーズのジェリー・マギーのギターもイカす。他にはエヴァリー・ブラザーズが手がけた(でもサイケ風)エイドリアン・プライドの「Her Name Is Melody」、単独のCDを出して欲しいカナダのフォークシンガー、トム・ノースコットの「Who Planted Thorns In Miss Alice's Garden」、オハイオ・エクスプレスのジョーイ・レヴィンがプロデュースした“サイケデリック・バブルガム”ソルトの「Lucifer」、キム・フォーリーとマイケル・ロイドという業界のつわもの二人が組んだこけ脅しの極み「Stranger From The Sky」、“産業サイケ”といえば忘れてはいけないエレクトリック・プルーンズの「Antique Doll」などなど。当時ビートルズをはじめ様々なアーティストたちが音楽表現の拡大を目指した末に得た“サイケデリック・サウンド”の表層のみをすくい上げ、都合よく商売に利用した感じの業の深い作品が次々と登場。これが非常に楽しい。
これは純粋にサイケ/ガレージ・ロックを愛する音楽ファンには憤まんやるかたない“Nuggets”精神に反するCDかも知れない。でもね、こういう音楽の楽しみ方もあるということで。アルバム終盤にはこの路線の極み、モンキーズの「Porpoise Song」も登場、アンドリューの選曲ポリシーは首尾一貫している。
ライナーノーツには「続編をお楽しみに!」なんてことも書いてあるので、この“Nuggets”番外編は今後シリーズ化されるようだ。人気シリーズになるであろうことを目論んで、ライノも通常は5,000枚限定で出すところを強気の7,500枚プレスにしているし、これは“ソフトロック先進国”日本の我々が率先して買い支えていくしかなさそうだ。
収録曲等詳細(発売元のサイト)
Come To The Sunshine: Soft Pop Nuggets From The WEA Vaults
Hallucinations: Psychedelic Pop Nuggets From The WEA Vaults