八亀's Picks - October 2003

過去の八亀's Picks

10.23 Innocence And Despair - The Langley Schools Music Project
10.23 唄うエノケン大全集〜蘇る戦前録音集〜 - 榎本健一
10.10 The American Song-Poem Anthology - VA
10.10 Murder on the High C's - Florence Foster Jenkins and Friends
10.10 ゴールデン・ポップス:アメリカン・ポップ・アーリー・イヤーズ

Langley Schools Music Project

Innocence And Despair - The Langley Schools Music Project
(Bar/None)



 「American Song-Poem Anthology」を購入した際、同じくBar/Noneから発売されてずっと気になっていたCD(発売は昨年)を入手したので、遅ればせながらご紹介。1970年代、音楽教育を目的としてカナダの小学生60人が集められ、当時のポピュラー音楽を録音した「The Langley Schools Music Project」がそれ。

 音楽教育?何故そんなものをCDに??しかも20年以上経ってから???その理由はこのレコーディングのディレクターを務めたハンス・フェンジャーのユニークな(時としてマッドな)音楽制作スタイルにある。はじめに言っておこう、このCDは単なる課外授業のお土産ではない。教育者の立場を“利用”したフェンジャーが、かつてフィル・スペクターやブライアン・ウィルソンが生み出した音楽の魔法を解き明かそうと、とにかく人海戦術かつ低予算(何しろ子供たちはノーギャラである)でその再現にトライした記録なのだ。

 60人の子供を1つのスタジオに集めて、澄んだ声でユニゾンで歌わせる。一斉に楽器を演奏させる。この“ナチュラル・ウォール・オブ・サウンド”がこのCDの最大の魅力。演奏される曲目はベイ・シティ・ローラーズの「サタデイ・ナイト」やポール・マッカートニーの「バンド・オン・ザ・ラン」といったものから、デヴィッド・ボウイの「スペース・オディティ(凄い!)」まで。子供たちはこの歌の意味も、何故この歌を歌わなければいけないのかもわからないまま、ただ“指導”に従って声を張り上げ、楽器を鳴らしている。

 中でもビーチ・ボーイズのレパートリーが6曲も占めているのが、ディレクターの狙いをはっきりと物語っている。しかもその選曲が「Good Vibrations」「God Only Knows」「In My Room」「I Get Around」「Help Me, Rhonda」「You're So Good To Me」とスタジオ実験向きなものばかり。他にもバリー・マニロウの「哀しみのマンディ」がメロディの近似性からまるでロネッツの「Is This What I Get for Loving You?」に聞こえるような瞬間があったり、ハッとさせられるところ多数。

 “ウォール・オブ・サウンド”の魔力にとり憑かれた経験のある方は、是非とも一聴をお薦めしたいCD。僕もあのサウンドにおけるアコースティック・ギターの重要性を改めて認識させられたり、とにかく面白い。なおこのアルバムの特集を掲載しているサイトでは、フェンジャー先生と当時の生徒たちとの近年の心温まるメールのやり取りを見ることのできるコーナーもあり、ちょっと微笑ましい。

収録曲等詳細(発売元のサイト)

(2003/10/23)

唄うエノケン大全集

唄うエノケン大全集〜蘇る戦前録音集〜 - 榎本健一
(Universal)



 「喜劇王」エノケンの歌は、懐メロファンでなくとも聴き覚えがあるはず。♪狭〜いな〜がら〜も楽しい我が家〜、の「私の青空」、♪ダ〜ンナ、奢ってちょーダーイナ!の「ダイナ」、♪俺は村中で一番“モボ”だと言われ〜た男、の「洒落男」・・。どれもTVCMなどを通じて耳に馴染みのあるものばかりだが、不思議なことに彼の全盛期、戦前のポリドール録音が単体のCDにまとめられることがこれまでなかった。この二枚組30曲は個人的にも十数年越しの“念願のCD化”である。

 音楽には“しゃべるように歌う”という表現があるが、エノケンの場合はさしずめ“ボヤくように歌う”。メロディの抑揚を平板な感じにして、呟くように歌う。これがなんとも可笑しみ(日本語変?)を誘うのは、彼の舞台経験によるものなのだろう。

 CDを聴いてみる。ディスク1前半は当時アメリカのヒットチャートを賑わせていた曲のカバーが次々と登場して非常に楽しい。まず冒頭曲「エノケンの浮かれ音楽(なんというネーミング・センス!)」は1931年の全米ナンバー1ヒット「Music Goes Round And Round」だし、その何曲か後に収録されている「南京豆売り」は1930年に1位を記録したルンバ・ビートの曲。ついでに書いておくと「私の青空」は1927年の、「ダイナ」は1932年の全米ナンバー1、「洒落男」は1929年に最高2位を記録した大ヒット曲。彼はごく初期の我が国“翻訳ポップス”シンガーの一人なのだ。ハンガリーでは曲を聴いて厭世的な気分になった若者の自殺が相次いだという「暗い日曜日」も、エノケンにかかれば単なる酒飲みソングに・・凄い。ディスク1後半及びディスク2になると彼の主演映画用のオリジナル・ソングが続き、若干かったるい感じになるが、戦後のクレージー・キャッツ一連の楽曲にも通じる作風なので、その手のものに興味のある方は色々な発見があると思う(こういう系統がお気に入りなら、戦後録音された「冗談音楽」三木鶏郎とのコラボ集「エノケンMEETSトリロー」もお薦め)。

 ・・と、聴いていくうちに気がつくことがある。あれ?「私の青空」は??「洒落男」は???実は当時あの曲をレコードに吹き込んでいたのは、エノケン一座で活動をともにした二村定一の方で、エノケンの録音は戦後にならないと存在しないらしい。へぇー。舞台では間違いなくレパートリーとしていたと思うのだが。これは“我が国最初のポップス・シンガー”二村定一のCDも入手しておいた方がよさそうだ。

 ライナーノーツを読むと、エノケンのSP盤はなかなか現存しないとかで、これだけの音源を揃えるのは画期的なことなのだそうだ。ひとまずは全盛期の彼の録音が簡単に聞けるようになったことに感謝したいが、でも不満はある。まずは資料面の不備。CDに解説を寄せている諸氏は嬉々として彼のレコーディング・キャリアを昭和6年の二村定一との共演盤から紹介しているが、その“デビュー盤”がCDに収録されていないのは仕方がないとして、その後彼が各社に吹き込んだレコードのディスコグラフィがどのようなもので、そのうち何がこのCDに収録され、何が収録できなかったかの記述がまったくない。これはあまりにも不親切でしょう。

 「そんな文章を載せられるスペース、ないんだよねー。」という言い訳がすぐさま聞こえてきそうなのだが、実はこのCDには分厚い“豪華ブックレット”が付いている。紙質上々。でもそのブックレットの大半を占めるのは、中途半端に大きいサイズで印刷された歌詞(解説文は物凄く細かい文字で印刷されている)。「ほら、このCDを買うのは大体年輩者だし・・」という声がまたまた聞こえてきそうだが、老眼の方はこのサイズの文字は読めません。この分厚いブックレットを入れるためなのか、凄く久しぶりに見た気がする二枚組用の(90年代前半かよっ!みたいな)分厚いCDケース・・とにかく制作担当者のセンスの古さが端々に窺える。一昨年ビクターから何種も発売された“戦前戦後の和製洋楽”シリーズの素晴らしさに打ちのめされた者としては、どうしても気になることが多すぎる。

 あともう一点。このCD化に際してSP音源調達のコーディネーター(監修)を務めたのは、30歳くらいのコレクターなんだって!へぇーっ、もうそういう時代になってきているんですねー。過去の優れた、または優れていなくても愛すべき音楽や芸能を、ネット時代ならではの手段や方法論で友人たちと共有していこう、という一方的に“志を同じくする者”としては、負けずに気概は高く、社会貢献度は低く(申し訳ない・・)今後も頑張っていこうと思うばかりである。

収録曲等詳細(監修者のサイト)

(2003/10/23)

Do You Know The Difference Between Big Wood And Brush

The American Song-Poem Anthology:
Do You Know The Difference Between Big Wood And Brush
(Bar/None)



 “大木とブラシの違いがわかるかい?ブラシはあっという間に燃え尽きてしまうけど、大木はいつまでも燃え続ける。だから男は浮気を思いとどまって、家庭へ帰っていくのさ。”

 アルバムタイトル曲からの引用である。なんという理屈。比喩も絶対間違っているし。。

 「Song-Poem」というちょっと分かりにくい言葉、これは早い話が歌の歌詞なのだが、1970年代アメリカには「貴方の詞(詩)買います」と雑誌や新聞に広告がうたれ、それに応えて一般から寄せられた歌詞を一曲何ドルかで買い取り、それに曲がつけられてレコード化されるという“システム”が存在したそうである。このCDはそのような過程で生み出された数多くのインディ・レコードを元に作られたアメリカ版「幻の名盤解放同盟」的なアンソロジー。

 このCDに収められている曲に共通して見られる傾向は、その圧倒的な“視野の狭さ”。もちろん当時はもっとましな作品も作られたはずで、ここには極端な作風のもののみが集められているのだろうが(と信じたい)前述の曲をはじめ、一方的な思い込みで書かれた作品ばかり。「アタシ、黄色いものが好きなの〜」とひたすら黄色いものが列挙される「I Like Yellow Things」、時の大統領を賛美した「Jimmy Carter Says "Yes"」、ディスコ・ビートにのって「貴方はいつまでこんな退屈なところ(=ディスコ)にいるつもりなの?」と歌う「How Long Are You Staying」、「アルゼンチン人のカウボーイに彼女を取られちまったぜー」と裏声で歌われるあきらかにアブない「I Lost My Girl To An Argentinian Cowboy」、さらに詞を訳す気にもなれない「Blind Man's Penis (Peace And Love)」なんて曲まで。

 その詞の内容もさることながら、曲やサウンド、歌を担当する制作側のスタッフもまた奇妙で、その“奇妙の倍加”がこのCDをよりユニークなものにしている。チープなサウンド、珍奇なメロディに歌・・。中にはロッド・キースというその世界では伝説的な存在となったアーティストもいて、彼などは単独のCDまで発売されているほど。そのキースをはじめ、このCDに登場する人物の幾人かが作品発表後しばらくしてドラッグが元のトラブルで命を落としていることを考えると、その制作状況が如何なるものであったか?がなんとなく想像つく。自らの才能を信じ、見果てぬ夢を追い続け、ついにはその“夢”に殉じてしまう・・。これほど人間の“業”がギッシリ詰まったCDも珍しいだろう。

 これまで我々はアメリカ社会が持つ闇の部分を、破壊的なロックや暴力的なラップを引き合いに語られる記事を嫌というほど見せられてきているが、本当の意味の“アメリカの精神的な影”は、このような取り立てて音楽的才能を持ち合わせず、でも人一倍の野心は持っている“一般の”人々による作品からより強く感じられるような気がする。どうやら我々は新たなる“モンドの金脈”に出逢ってしまったようだ。同シリーズでは続いてクリスマス・ソング集(冒頭曲のタイトルは「サンタが核ミサイルに乗ってやってくる」)もリリース。今後も続くのか??

収録曲等詳細(発売元のサイト)

(2003/10/10)

Florence Foster Jenkins

Murder on the High C's - Florence Foster Jenkins and Friends
(Naxos Nostalgia)



 変なCDの紹介が続いてしまって申し訳ないが、本当に変なCDなのでここで紹介させていただく。“オペラ歌手”フロ−レンス・フォスタ−・ジェンキンス。彼女がどんな感じの人なのか説明するのに、非常に便利な日本語があるので使用させていただくことにしよう。簡単に言ってしまえば彼女は「アメリカの大屋政子」なのだ。

 このCDは“オペラ歌手”ジェンキンス女史が1941〜44年に残したレコーディングを集めたもの。普通じゃん。でもこのCDが普通じゃないところは、彼女がとんでもない“オンチ”である点。1860年代(!)半ば〜後半に生まれたという彼女の経歴には諸説があり、正確なところは判らないが、その「成果物」に相応しいエピソードをかいつまんで紹介すると、富豪の銀行家兼弁護士の娘として生まれたフローレンスはこれまた富豪の石油会社社長と結婚。そのあり余る財力を使って憧れのオペラ歌手のキャリアを目指し始めた彼女は、その道の精進のあまり“ウチのオトーチャン”から三行半を突き付けられ、慰謝料をせしめた上でフリーに。折よく(??)実父も亡くなり莫大な遺産が転がり込んだフローレンスを誰も止められるはずはなく、満を侍してプロの歌手として一大興行をうつ。

 ニューヨークの有名ホテル「リッツ」のボールルームをはじめ、各地で行われたリサイタルは「2ドルのチケットを買ってご来場いただいたお客様には、もれなく20ドルを差し上げます。」という彼女ならではの営業戦略(?)が功を奏してどこも大入り満員、ついにはあの「カーネギー・ホール」公演(1944年)を敢行し、懐を潤し、その美声(?)に笑い転げる満場の観客の喝采を浴びることとなったのであった。。

 そんな彼女が「メロトーン」というレーベルに残した4枚のSP(もちろん制作費は彼女もち)は、念願のカーネギー・ホール公演の一ヶ月後に心臓発作で急逝してしまった(享年76歳)という彼女の没後10年目にアルバム化され、その後度々再発され続けている。実は約10年前に日本でも彼女のCDは発売されており、既に持っている方もおられるかも知れないのだが、今回は新たに発見されたという一曲(SP両面分)を追加したまさに“コンプリート・レコーディングス”。気になるでしょ。以前の日本盤にはボーナスとしてまた別のオンチなオペラ歌手の録音を4曲収録していたが、今回は当時の別アーティストによるオペラっぽいノヴェルティ録音を10曲追加収録。いずれにしてもジェンキンス女史のインパクトには及ぶはずもないので、はっきりいってどうでもいい。彼女のハズシっぷりは尋常でなく、とにかくこれは一度聴いていただきたい。ただし気がたっている時にこのCDを聴くと、その“神経逆なで度”はこれまた尋常でないので、できるだけ精神状態が安定している時の“試用”をお勧めするが。。

 このCDを出している「NAXOS」は基本的にはクラシックのレーベルらしく、その筋では大変な信用を誇っているそうなのだが、一方で20世紀前半のポピュラー音楽のエラくマニアックな音源を、これまたエラく安価でリリースしてくれるレーベルでもあり、僕は日頃大変お世話になっている。しかも「NAXOS」には日本支社もあり、これがまた本国がリリースしたものをクソ真面目に全て帯を付けて日本盤でリリースしてくれているのだ。驚くことなかれ1枚1,000円で!!あの時代のポップスに興味のある方は、是非とも日本語ホームページに立ち寄って、気になるCDを“ドカ買い”していただきたい。なにしろ一枚1,000円だし。(いい意味で)アタマの可笑しな人たちは応援したいし。

収録曲等詳細(発売元のサイト)

(2003/10/10)

Golden Pops

ゴールデン・ポップス:アメリカン・ポップ・アーリー・イヤーズ
- 木村ユタカ:監修 (シンコー・ミュージック)



 この前のスキーター・デイヴィスの時に1960年代前半のポップスを表現するのに“ゴールデン・オールディーズ”という言葉を使ったのだが、違うそうである。正しくは“ゴールデン・ポップス”なんだとか。

 僕が洋楽を聴き始めたのは1980年代のことで、いわゆる「MTV世代」にあたるのだが、その当時からリアルタイムよりも1960年代の音楽の方にやたらと惹かれる変な子供だった。それから約20年、今の中高生の中にそんな“変な子供”がいたとしても、彼らの興味の対象は80年代の音楽なのだろう。現在60年代の音楽を聴こうとすると、時間ベクトル的に考えれば「MTV世代」が1940年代の音楽を発掘するくらいのエネルギーが必要、ということになるのだから。

 90年代以降、この本でいうところの“ゴールデン・ポップス”は、フィル・スペクターやバート・バカラックといったごく限られたキーワードに結びつくものを除いて、メディアで紹介される機会が目に見えて減った。考えてみれば仕方がない、その後の“ビートルズ世代”と呼ばれる人でさえ50代に突入し、エルヴィスの初期録音は間もなく半世紀昔の音楽になってしまうのだから。とはいえ世の中にはこの時代のポップスに興味を持つ音楽ファンは常に存在するはずで、そういった人に向けてのガイド本は常に必要とされているはず。

 この本は狭義の“オールディーズ”と呼ばれる時代(1955〜64年)のポップスを、収録CDのレビューという形でジャンル別に紹介していく。チョイスは基本的にオーソドックスなもので、ほぼ万遍なく当時のポップスをカバーしているといっていいだろう。ところどころアーティストの扱いに近年のCDの再発状況や音楽の再評価の様子が窺え(“一発屋”のロージー&オリジナルズが、他のアーティストより大きな扱いで載っているのは以前では考えられなかっただろうし、もっと前にこの本が出されていれば白人ドゥ・ワップ系のアーティストがより大きなスペースを占めていたことだろう)これはこれで「21世紀のオールディーズ本」としていいのではないかと思う。久しく出ていなかったこの時代のポップスのベーシック・ガイドとしては、これはなかなか使えるものだと思う。

 もう一点この本が重要なのは“リアルタイム以降の世代によって編まれたオールディーズ本”である点。これまでの同趣の本は「少年時代から聴き続けている大好きなオールディーズを、自慢のシングル・コレクションを交えてご紹介」というパターンが多かったのだが、ここでは音源を基本的にCDに絞り(それでも一部オリジナル・シングルを披露したい欲求を抑えきれなかったページが散見されるが・・)その紹介をメインにしているところも読んでいる側には好ましい。他のメディアで書かれている文章も併せて考えるに、監修者の木村さんという方は、オールディーズを後追いで聴いていった世代に当たるのではないかと思われるが、そういう人による本が約40年たってようやく出たというのが“後追い世代”のオールディーズファンには感慨深い。世の中にはエルヴィスもリッキ−・ネルソンも聴いたことがなく(当然ディオンもボビ−・ダ−リンも知らない)、ゆえに“ビートルズこそがすべて”と言い切ってしまう50代の音楽ファンなんてのがいっぱいいたりするので、後の世代がもうちょっとしっかりしないと。

 この本で紹介されている約500枚のCDを全て聴くのは大変かも知れないが(1枚\2,000としても100万円かかる!)興味のあるジャンルを絞ってコレクトのガイドとしてパラパラと眺めるだけでも有用な一冊だと思う。なお同時にブリティッシュ・ビートのガイド本も発売されており、当サイトを出入りされている方の多くは、こちらの方が興味をそそられるかも知れない。

内容等詳細(発売元のサイト)

(2003/10/10)