なんだか、やけに気になるアルバムなのだ。
現在、meantimeでは年間投票の受付中。私も現在は選考モードで、意識して2003年に気に入ってよく聴いたアルバムを改めて聴き返している。そんな中で、改めて気になった作品。
マンディ・ムーアのカバー集。発売当初私がメルマガでやたらと持ち上げていたことを覚えている人もいるだろう。
正直言って、すごく質の高い作品というわけではない。1曲目からXTCの「Sences Working Overtime」(1982年UK10位)という選曲センスは悶絶モノだが、やたらとがちゃがちゃしたアレンジなど、音のセンスは決してよくない。
2曲目、ウォーターボーイズの「The Whole Of The Moon」(元は1985年、1991年にリエントリーでUK3位)。これも素晴らしい選曲だが、原曲のもっていた繊細さが表現できていない。しょせん、アメリカ人のアレンジなのだ。
3曲目トッド・ラングレンの「Can We Still Be Friends」(1978年US29位)。このアルバムで取り上げられてる曲は80年代ニューウェーヴ(NW)系と、70年代シンガーソングライター(SSW)系に大別できるが、ここでSSW系選曲が登場。これはオリジナルに近いアレンジで、透明感のある多重コーラスを全編に配してることもあって好感。選曲はちょっと普通だけどね。
4曲目はこのアルバムで取り上げている曲ではいちばん有名な曲か?キャロル・キングの「I Feel The Earth Move」(1971年シングルB面としてUS1位)。これもまあ、取り立ててどうこう言うほどのない出来。選曲も直球だしね。
やっぱり1984年生まれの女の子が70年代の曲を選べば超有名曲になっちゃうよな、当たり前だよな、とナメていると、5曲目でやられる。エルトン・ジョンの「Mona Lisa And Mad Hatters」。1972年のアルバム収録曲でシングルヒットはしていない。改めて名曲だと騒ぐほどの曲でもないのだが、だからと言って欠点も見つからない。さりげなく、地味な存在でありつつ、人に“へえ、いい曲じゃん”と言わせしめる曲。人にオムニバステープを作ってあげるときに(今ならMD? CD?)「どうだ、こんな曲知らないだろ(でもいい曲でしょ?)」と隠し球として使いたい、奥の手。そんなマニア心理をくすぐる、たまらない選曲センスだ。
そして6曲目。楽曲そのものの出来、アレンジの良さともにこのアルバム中ベスト候補であるジョーン・アーマトレイディングの「Drop The Pilot」(1983年UK11位)。そもそもジョーン・アーマトレイディングという人が渋いが(イギリスの黒人女性シンガーソングライター)、よくぞこんな埋もれた名曲を発掘した。偉い。溌剌とした、伸びやかな歌とアレンジも好感。オリジナルとほとんど同じアレンジなのだが、こっちのほうが躍動感があるのと、ジョーンほどの歌唱力・表現力がないことが逆に幸いし、軽さ・爽やかさを強調したマンムー・バージョンは素晴らしい出来映えとなった。
続く7曲も珠玉の作品。キャット・スティーブンスの「Moon Shadow」(1972年US30位)。雪に閉ざされた北国の、たまに晴れた冬の朝の澄んだ空気のような透明感。繊細。これ以外の言葉はいらないかもしれない。
続く8曲目で雰囲気は一変、ブロンディの「One Way Or Another」(1978年US24位)。ブロンディで普通この曲か?と思うし、曲のタイプからしてすっかりアルバムの中で浮いているのだが、不思議と聴き慣れてくると悪くない。比較的おとなしくお上品にしていることが多い他の曲に比べ、崩し気味に歌うこの曲のほうが“20歳の女の子”らしさが感じられるのがいいのかも。とか書くとものすごいエロジジイみたいだな。やだな。
9曲目、これはやや安直か。ジョー・ジャクソンの「Breaking Us In Two」(1982年US18位)。アレンジもオリジナル通りだし、曲も有名だし、あまり面白みはない。
10曲目はカーリー・サイモンの「Anticipation」(1972年US13位)。これはヒット曲ではあるけど、5曲目のエルトンの曲にちょっと近い“隠れた佳曲”の感触。
11曲目がある意味アルバムの目玉。ジョニ・ミッチェルの「Help Me」(1974年US7位)。ジョニ・ミッチェルの曲なんて簡単にカバーできるはずはないのだが、やっぱりこうして他の曲と並べてみるとこの曲が圧倒的に難易度が高い。それを、マンムーは健気に完コピで歌う。もちろん言われるまでもなく、どんなにオリジナルに似せて歌ったところで、やっぱオリジナルのほうがいいのだ。ジョニ・ミッチェルの表現力にマンムーごときの小娘が敵うはずがない。しかし何と言うか、この難しい曲を完璧にこなして得意げになってるところが、何とも微笑ましいのだ。ああいかんまたオヤジな発言だ。しょせんこのアルバムは単なるオヤジキラーなのではないかと言う気もしてきた。
そしてラスト12曲目は、ジョン・ハイアット。ああ。もういい、全部許す。「Have A Little Faith In Me」は1987年のアルバム収録で、ヒット曲ではない。というかジョン・ハイアットにはそもそもヒット曲がないので知る人ぞ知る存在だが、ブルース・スプリングスティーンなど同世代シンガーソングライターからも敬愛される偉大な人だ。本当にたくさんの名曲を生み出している人の、名曲のひとつ。と言っても、やっぱりジョン・ハイアットの代表曲というほどでもない、絶妙な選曲だ。
この曲はゆったりしてるから歌えるだろうとこないだSmash Hitsでカラオケで歌ってみたのだが、いや難しい難しい。ほとんど即興ででたらめに歌ってしまった。よりによってこの曲を第1弾シングルに選んだのはまったく見上げた根性だ。
と、結局のところ単にオヤジ心くすぐられまくりの作品なんだと発覚してしまったが、ならばそれはそれで70年代に洋楽を聴いて育ち、80年代半ばで挫折した(人が多いであろう)オヤジは必聴。
ブリトニーやアギレラと真っ正面からは勝負できないマンムーが“オヤジ受け”というニッチ市場で生き残ることを狙ったのだと言えなくはない。が、例えばブリトニーの「(I Can't Get No) Satisfaction」や「I Love Rock N'Roll」といったカバーのしょうもなさを考えると、やっぱマンムーは才能あるのかも、とか思えてきたり。
おまけDVDではマンムー自ら取り上げた曲の解説をしてたりするので、今から買うならぜひDVD付のほうを探しましょう。