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(はじめに) この原稿は95年の7月頃から10月にかけて執筆され、「meantime」第4号に掲載されたものです。従って文中で「今年」とか「最近」などと表現している場合は、95年の秋頃のことだと解釈して下さい。(May 1998) 序章 拳銃とか、若者どうしの殺人とか麻薬が日常生活の中に入り込んでいない我々にとって、いわゆるギャングスタ・ラップというのは理解しづらい。たとえば、今年の大穴ヒットメイカーとなったThe Notorious B.I.G. (aka Biggy Smalls) のデビューアルバム。タイトルが「Ready To Die」で、あどけない黒人の赤ん坊がジャケットに描かれる。これを、悪趣味なフィクションとして受け取るか、現実を直視した「社会派」と受け取るか。ラップに興味のない人ならばたいていは前者として捉えるだろう。しかし、彼らの現実を考えれば、後者が正解なのである。
ひとつ、エピソードを紹介しよう。昨年一世を風靡したR.Kellyという男。「Sex Me」だの「Bump N'Grind」だの「やみつきボディ」(...という邦題だそうです、原題はYour Body's Callin')といった曲ばかりヒットさせて、若い女の子ばかりプロデュースするわ、その中でも弱冠15歳のAaliyahと浮き名を流すわで、すっかりエロエロ星人というパブリック・イメージが出来上がってしまった。しかし、こいつ、若い頃はさぞ遊びまくってた軟派野郎なんだろうな、というのは日本的な発想なのだ。 苦労人なのである。どん底からスターダムまで這いあがるブラックミュージシャンたちのすべてがこんな苦労をしてきているとまでは言わないが、別にR.Kellyが例外的にとくに苦労人だというわけでもない。とりあえず、彼は世間で思われているような単なるエロエロ星人ではないし、ギャングスタ・ラップで語られるような、ムカついたから銃ブッ放してやったぜ、というのは決してフィクションではないのだ。
ギャングスタ・ラップ同様我々にはその作品の真価が伝わりにくいのが、ここ数年盛んに制作されているブラック・ムービー、中でもいわゆる「Hoodモノ」である。そもそもは91年の大ヒット作「Boyz N'The Hood」から生まれた言葉で、「Hood」は「Neighborhood」の略。うまく日本語にするのは難しいが、いつも顔を合わせる馴染みの連中と、自分の住んでいる町一帯だけで物語が完結する、といった感じか。宇宙に行ったり化け物が出てきたりとかいうのの対極にある、「日常生活モノ」とでも言えばいいのかな。 |