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GOD'S SON
(2002, Ill Will / Columbia) |

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前作『Stillmatic』で見事に復活したナスが、この新作では更に多様なトラックを配し、サウンド的にも全体クリスプにタイトになった音像をバックに、更にディープなメッセージをリスナーに投げかけてくる。メインディスク+ボーナスECDで構成されたこのアルバム、マーケティング的には2パックの「Thugz Mansion」の第一ヴァースにナスのラップが挿入されたリミックス・バージョンが当初目玉だったに違いないが、このアルバムが化けたのはあの「I Can」がヒットしたのが大きい。「エリーゼのために」をバックに“努力すればきっと望みはかなう”というメッセージから正しい生き方、欲に溺れるべからずという戒めから果てはアフリカ出身民族の歴史までレクチャーするこのとてもオフビートな曲がトップ20ヒットになるという事実からして、ナスのシーンに置ける今の評価軸と評価の度合いが判ろうというもの。かの「Thugz Mansion」にしたって、ナスのパートは“想像力さえあればいろんなことが感じられる”というスピリチュアルなメッセージを投げかけていて、アルバム全体ナスが発信するメッセージと見事な整合性を保っている。この前の「One Mic」のようなストリート性の高いクールネスはここにはあまり見られないが、半ば哲学的な深さで表現者としての成熟度を見せつけてくれている。ナスの2打席連続ホームラン。(阿多)
ジャケットに書いてあるアーティスト名はナスではなく、ナシア・ジョーンズ。そしてタイトルが「神の子」。なんかすっかり向こう側に行っちゃった感じがする。『The Lost Tapes』が思わぬ大ヒットとなったおかげで吹っ切れたか、『Stillmatic』から1年のインターバルでリリースされた本作は、贅肉を殺ぎ落としたようなシャープなトラックが特徴。とは言ってもアウトテイクとは違ってしっかりお金をかけたことはわかる。シンプルで内省的な作風と思われがちだがゲストはおそらく今までで一番豪華。エミネム制作の「The Cross」では彼のフロウが乗り移ったみたいで笑えるが、アリシア・キーズや(後にゴールインする)ケリスといった歌姫や、お前もかといった感じの2パックとの擬似競演など華やかな内容。もっとも2パックとの「Thugz Mansion」は2パックのアルバムに収録されてヒットしたヴァージョンと対になっていて、単なる一発芸では終わっていない。それにしてもこんな内容にも関わらず、シングルには誰の助けももらってない「Made You Look」と「I Can」を選び、そして大ヒットさせたのはさすが。(松本)
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THE LOST TAPES
(2002, Ill Will / Columbia) |

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『Stillmatic』での商業的・社会的復活。これがナスの活動意欲を前向きにしたことは間違いない。ついでに商売っ気もアップ。本作は『I Am』から『Stillmatic』制作時にアウトテイクとなった音源集。このちょっと前に『From Illmatic To Stillmatic』というリミックス盤を出したばかりだが、さらにマニアックな内容だ。しかしこれがTOP10に入る大ヒットとなるのだから勢いというのは恐ろしい。中身も決してボツ曲っぽいものではなく、バックトラックがプリプロっぽい分シンプルで、ナスのライムも通常のアルバムより映えるくらい。『Stillmatic』は巷で言われるほどシンプルな作りではなかったが、本作こそがシンプルネス。ただし裏を返せば日の目を見なかった分最後の装飾が行われていない感じで、はっきり言って地味。ライムを追える人ならいいけど、普通に流して聴いてると飽きてくるし、クラブで使うにも一工夫必要。いずれにしても本作の成功でナスはさらに自信を深め、次作『God's Son』へと向かっていったことがわかるので、彼の変遷を知るには外せない一枚。(松本)
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STILLMATIC
(2001, Ill Will/Columbia) |

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このアルバムを巡っては、本当に色々なことがあった。ジェイZとのディス合戦。そのジェイZと2人揃って「SOURCE」誌で年に1枚出るかどうかというマイク5本評価の栄誉。その後まる1年も続いたジェイZや、その周辺とのバトル。
“ルーツに立ち返る”“基本に戻る”という言葉は、表現としてはよく使われるが、実際にはとても難しいことである。5年前、10年前の自分は、今の自分ではない。周りの環境も、経験も、考えていることも違う。今まで自分は、正しいと思う道を進んできた。5年前よりも“進歩”したつもりだった。その“進歩”を捨てて、敢えてスタート地点に戻ろうというのは、普通の人にはなかなかできることではない。いや、ナスも別に超人ではないので、本作で彼がそれを完全に実現できているとは言わない。が、かなりはっきりとそれを彼が意識したことが随所に伺え、はっきりそれが本作の魅力として現れているのだ。
何と言っても白眉は「One Mic」。一本のマイクさえあれば俺は何にでも立ち向かう、というバトルMC宣言もかっこいいし、控えめながらもドラマチックに盛り上げるトラックの出来も素晴らしいが、彼の全ラップ人生を賭けたかのような入魂のリリックが凄い。デビュー作に比べれば音は格段に圧塗りで、単純にあの作品の再来というわけでは全然ない。しかしここ数作とは明らかに心構えが、鋭さが違うことは、ティアーズ・フォー・フィアーズの「Everybody Wants To Rule The World」をモロに使って、普通なら売れ線全開と批判されそうな「Rule」でさえかっこよく聴こえるところからも明かだろう。天才ナスが堪能できる傑作。ぜひ歌詞/対訳付きの日本盤で。(しんかい)
デビュー作が大絶賛され、その後は常に売れ続けてはいるが、かつてほどの評価は得ていない。それをセルアウトととる人もいるが、基本的にこの人は不器用なだけなんじゃないか。流行のトラックや歌メロを取り入れても、きちんと消化してる人は売れてもセルアウトを回避しているのだから。でも彼の場合はいつも消化不良気味で、取り入れた部分だけが強調されて聴こえてしまう。80'sのサビメロも、シンコペーションのトラックも、早口のライムもみんなそう。彼はデビュー当時から、スタンスは変わってなんかいない。前作の評判が悪かったためか、今作の初登場順位は低かった。が、しばらく上位にランクされ、息の長いヒットになった。SOUECE誌でマイク5本というのも効いたのだろうけど。シングルになった「One Mic」のような、シンプルなトラックに乗せて淡々とラップする曲で彼は本来の姿を取り戻しているものの、このアルバムのポイントは、今まで消化不良だった流行の部分が、きちんと消化されていること。だからタイトルが示すほど、作風としては決して1stと似ているわけではない。むしろ3rdなどに近い。しかしアルバムを自分の世界でまとめ上げたという点では、確かに1stに通じるところもある。そうは言っても相変わらず80'sのカバー(ティアーズ・フォー・フィアーズ)は蛇足。まあエイメリーのお披露目と考えれば良いんだろうけど。(松本)
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THE FIRM: THE ALBUM - NAS ESCOBAR, FOXY BROWN, AZ & NATURE
(1997, Aftermath/Interscope) |

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ううううんまずいぞナス。悪い方向に向かっている。発売の瞬間から殿堂入り扱いのデビュー作、全米No.1のセカンド。ほんとうは「セルアウトだ」と悪口の一つも言いたかったラップファンたちも、「あの」ナスには文句は言えず、「なんかちょっとねえ」みたいな中途半端な感想を漏らしていた。そして今回。フォクシー・ブラウンもエーズィーもソロヒットを出している実力派だが、やはり中心になるのはナスだ。おそらくは彼のシュミで、「ゴッドファーザー」をお手本に、自分たちをマフィアのファミリーに準えている。しかしそこはまだまだ若いナスのこと、マフィアになんか全然なり切れてなくて、中ジャケの写真なんか単なるヤンキーだ。音も、まるで面白くない。これはまずいぞ、いくら何でも。プロデュースはドクター・ドレとトラックマスターズ。ドレの久々の活躍のチャンスだったが、相変わらず煮えきらない。トラックマスターズはいつも通りの、悪くはないんだけど満点には届かない仕事ぶり。ナスさん、あんたにゃみーんな期待してるんだから、頼むよほんとに。(しんかい)
Nas「Ilmatic」以来の組み合わせとなるNas、Trackmasters、Dr.Dreの三者、MC陣には他にFoxy Brown、AZ、Natureといった核となるメンバーの他、曲毎にさらにCanibus等のゲストが参加。Dre.DreとTrackmastersによる劇的なプロダクションからFoxy Brown演じるところのポルノチックな寸劇まで、エンターテイメント的色彩が強いアルバムである。こうしたコンセプトのアルバムが発表されたことに対してコアなファンの反応は鈍いようだ。まあそれもわからないでもない。ストイックなイメージの強かったNasが直接的でギャングスタラップそのものといっていいトラックで主役を張っていることや、こうしたメンバーによるユニットが単なるアルバム上だけでの共演ではなくツアーも行うことに必然性が感じられないのかもしれない。だが、このアルバムをThe Firmというグループの一つの作品として捉えるとすればなかなか魅力的な内容を持っていると思うのだが。(信沢)
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IT WAS WRITTEN
(1996, Sony) |

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本アルバム製作にあたりナスは大きな自治を獲得したそうだが、彼の意向が随所に反映されるようにと製作陣の選定にも自ら深く関わったという。前作とはかなり異なるサウンド・アプローチには驚かされるが、それも彼の意とするところなのだ。このヒップ・ホップ全盛の世にあって歌心を備えたプロデュース・ワークを得意とするトラックマスターズは希少な存在だが、彼らの手に大半のトラックを委ねている本作に対してその是非が議論の対象になったのは予想されたことといえ彼にとっては心外だったろう。生真面目な彼のこと、別に道化を演じるためにあえて逆説的な方法をとる、といったことをするはずもない。前作に比較するとより広い層に受け入れられる余地が出来たことにコアなファンの間では不満の声も聞かれるが、コアなアーティストとして期待されるものに染まってしまわないところが逆に更なる飛躍の可能性を感じさせる。(信沢)
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