LAURYN HILL

MTV UNPLUGGED NO. 2.0 (2002, Columbia)



 ローリンの新譜が届いた。アンプラグドのライブ盤。まあデビュー2作目がこういうのってよくあるし。しかしリストを見ると、知ってる曲が全然ない。カバー2曲以外は全部新曲。ヒット曲を意図的に外したライブ盤というと、スティングの『Bring On The Night』があるし、クラプトンがたまにブルーズだけのライブをやるのは有名な話。しかしそれは大御所だからこそ許されることで、彼女のようにキャリアの浅いシンガーがこういうアルバムを出すのは極めて異例。決して上手ではないアコギを鳴らしながら歌う彼女のヴォーカルは、すぐにかすれがちで音域も狭い。伸びやかなヴォーカルも、完成度の高いプロダクションも失って、一体何が残るんだろう。しかしアルバムを聴きつづけると、まぎれもないローリンの歌が聴こえる。1-2曲ごとに長いMCが入り、聴衆にじっくりと語りかける。時に優しく、時に憂いを持って包み込むメロディの完成度は、前作にも決して劣らない。ラップの切れ味にも衰えはみられない。
 ローリン・ヒルの人気ってなんだったんだろう。あの頃、彼女は確かにカッコよかった。でも、カッコ良かったのは表面的なことじゃなくて、彼女の音楽そのものだった。サウンドのクオリティが高くないこのアルバムを聴いて、こんな当たり前のことにようやく気付いたけど、みんなはもうわかってたよね。(松本)
THE MISEDUCATION OF LAURYN HILL (1998, Ruffhouse / Columbia)



 冒頭の「Lost Ones」が始まるやいなや、その力強いリフレインに思わず襟元を正す。「Ex-Factor」の優しいメロディとアーシーなトラックに託された男と女の関係の難しさに思わず胸が熱くなる。「Doo Wop (That Thing)」のモータウン的アップビートなリズムに乗せた男たちへの強烈なメッセージに思わず考えさせられてしまう。ローリン・ヒルの初ソロ作は、そんな魂を突き動かすような音楽と一人の女(あるいは母)としてのローリンのむき出しのソウルがビンビンと伝わってきて、思わず引き込まれずにはいられない、そんなアルバムだ。彼女をはじめフージーズのメンバーはいわゆる正統派アフリカン・アメリカンではなく、ハイチ系移民の子供たちなのだが、今のアーバンなサウンドのブラック・アーティストたちや中途半端なラッパーたちにはとても表現できないような、脈々と奴隷船の時代にまで遡るような感覚の、ディープなところからわき上がる真のリズム&ブルースを感じさせてくれる。文句なしに90年代のブラックミュージックを代表する1枚となることは疑いなし。(阿多)

 優しい音楽。とても久しぶりに出会った気がする。色んな意味で世の中がどんどん便利になり、情報化されていくことで、人々の好みはどんどん細分化されていく。みんなが、それぞれに外の世界とは隔絶された自分(とごく内輪の仲間)だけの世界を作って、その中に閉じこもっていく。プライバシーや人権や個性の尊重といった言葉を防御壁として周りに張り巡らせて。やがて外の世界に出るときも、自分の世界と同じように振る舞うようになり、「公」と「私」の区別ができない人間が生まれる。「公」としての責任をいっさい拒否し、「自分らしさ」と「自分勝手」を混同している愚か者たち。ローリンがこのアルバムで我々を迎えるのは、学校の教室だ。我々が「公」と「私」、人間関係や友情や恋愛を最初に学ぶところ。教師と生徒の他愛無いやりとりという、一見何でもないインタールードがとても大切な意味を持っている。ゲットーの黒人たちも、日本の若者も、グラミー審査員の爺様たちも、私もあなたも、みんなが惹かれたのは、このアルバムがとても優しいからだと思う。(しんかい)

 そのこのアルバムはどこを切り取ってもHillの顔が手前でクッキリと見える。それは本作に収録されている曲がカバーを除いてどれもHillの視点から生まれたものだからである。母としての視線やマイノリティとしての視線等々,ここにはさまざまな歌の題材がある。それぞれの立場に身を置いて感じたものがじつに率直に歌となっている。ご存知のとおり,Hill自身のアイデンティティは多様な要素の上に成り立っているのだからどれも彼女の主張がこめられていると言っていいだろう。この明確な主張が込められた詞が載るヴォーカルはメッセージを伝えんがための力強さが感じられる。そこには詞とヴォーカルの自然な融合によるリスナーを惹き込む説得力があるのだ。その卓抜としたセンスは詞は詩ではなく,あくまで歌として音と一体となってこそ価値があるということを教えてくれる。訴えるものがはっきりとしている者は強い。バックのサウンド,コーラスはヴォーカルを引き立たせる装飾品として過ぎず及ばず,適度な現代的プロダクションによりじつによくHillの魅力を引き出している。(信沢)


copyright(c) by meantime 1998-2003 all rights reserved.
無断転載を禁じます。