|
A DAY WITHOUT RAIN
(2000, Reprise/Warner Bros.) |

|
97年のベスト・アルバム「Paint The Sky With Stars」を除いて、オリジナル・アルバムとしては5年振りの新譜となる。ベスト・アルバムにも新曲は入っていたがやはりエンヤはアルバムを通して味わいたいアーティスト。特に大きなアナウンスがあったわけでもなく、世紀末の晩秋に音も立てずに現れた、そんな気配すらする。こんなところが彼女らしいのかもしれないが。エンヤの楽曲と言えば荒涼としたアイルランドの冬ざれた世界を想像させるような凛とした透明感と暗く厳しい冬を耐え忍ぶような力強さを感じていたが、今作では少し趣が違う。どこかに冬解けを思わせるような明るさと温かさを感じる。内容的にもアイルランドに伝わる民話や伝説にインスパイアされたものから、人生や愛など従来に比べて日常生活に即したような身近な内容のものが増えている。全体的にストリングスをふんだんに用い、ハーモニーも今まで以上に主旋律を引き立てるようなものに変化してきている。どの曲を取っても心が洗われ、落ち着きを取り戻し、心地よい安らぎを与えてくれる。テクノロジーだ、ドラムンベースだ、リズムだ、ヒップホップだと世の中は無機質な音が増えていくけれど、そんな音とリズムの洪水の中で人間が求めるのは、やはり生の肉声であり、生の楽器音であり、安らげるメロディなのではないだろうか。このアルバムを聞いていると日頃の喧騒すら忘れ、そんな事を考えてしまう。「癒し系」、そんな単純な言葉では括りたくないアーティストだと思う。(小松)
|
|
PAINT THE SKY WITH STARS - THE BEST OF ENYA
(1997, Reprise/Warner Bros.) |

|
一般にエンヤはニュー・エイジやヒーリング・ミュージックなどの範疇で語られることが多いが、その音楽の持つ構造は意外と複雑である。まず、かつて在籍していたクラナド以来のケルト・ミュージックの要素が下地にある。次に、多重録音による効果として、ミュージック・コンクレート的な音楽構造とともに、10ccやスティーリー・ダンなどのスタジオワーク主体のユニットとも近似しているという側面がある。オーバーダブによる分厚いコーラスワークは、中期ビーチ・ボーイズを想起しても不自然ではない。そして、過去にこうした構造の音楽を開拓したのは、言うまでもなくプログレの面々であり、メロディ・ラインは正に耽美派のプログレの流れを引き継いでいる。と、意外なほどその内にさまざまな要素を包含しているのがエンヤの音楽であり、こうした音楽をエニグマやディープ・フォレストと同次元で考えるのは適当ではないと思う。これはファースト以来の作品を選りすぐったものに新曲を加えたエンヤのベスト・アルバムだが、こうして10年近い時間の幅のある作品群を聞いていると、彼女の音楽の特異さが際立っているのが、さらによくわかる。聞きやすいが意外と深い。(鎌田)
|