AALIYAH

I CARE 4 U (2002, Blackground / Universal)



 このアルバムが発表されたのは2002年末のこと。つい最近になってアリーヤの存在を知ったリスナーの方々は、本作をどのような作品として解釈しているのだろうか。初めてリアルタイムで触れた新作?それとも自分の知らない間に積み上げられた彼女のヒット曲が詰まったベスト盤?
 この二つの見解はいずれも正確ではないのが難しいところ。アリーヤのサード・アルバム『Aaliyah』が発表されたのが2001年7月。その一ヵ月後、不幸な事故により、彼女の命が奪われた。本作は、これまでにヒットを記録してきたシングル曲と、生前に彼女が生み出した未発表曲によって構成された一枚である。DVDでヒット曲のビデオクリップも堪能できるのが嬉しい。
 未発表曲は比較的スローなナンバーが多いが、彼女の死後ということもあってより一層説得力を帯びたのか、現時点で「Miss You」「Come Over」の二曲がTop40ヒットとなった。一方過去のヒット曲については、アルバム三枚からバランスよく選曲。映画『Dr.Dolittle』サントラからのヒットである「Are You That Somebody?」もしっかり収録されている。しかし、美しいバラード「The One I Gave My Heart To」(97年)、映画『Anastasia』サントラ収録の名バラード「Journey To The Past」(98年)などが抜け落ちているし、日本盤においてこそボーナストラックとして収録されているものの「If Your Girl Only Knew」(96年)、「Rock The Boat」(01年)などが漏れている点は看過できない。
 おそらく未発表曲だけでは一枚の作品として構成するに足りなかったことによる苦肉の策であったことが容易に想定できるものの、後世まで彼女の名をしっかり語り継ぐためにも、その功績をくまなく網羅したベスト盤をいつの日か発表してくれることを願いたい。(小川ボ)
AALIYAH (2001, Blackground)



 圧巻だ。一時は飽きられて、勢いが落ちているかと思われたティンバランドが2001年は大活躍だったが、その中でも圧倒的な完成度を誇り、他を寄せつけないオーラを放っているのがこの作品だ。スライ「暴動」〜プリンス「Parade」「Sign 'O' The Times」と連なる密室ファンクの系譜を酌むこの作品。私はジャネットの前作「The Velvet Rope」もこの流れに位置付けたが、幹は同じでも本作とは違う枝に属する。ジャネットが「沈む」作品だったのに対し、本作でアリーヤは「浮遊」する。アリーヤの声は、線は細いのだが、ティンバ、ミッシーから若手まで、ファミリー総出で構築した圧倒的な音の世界に潰されたりかき消されることは決してなく、音の塊の間を、水が流れる如く滑らかに、緩やかに、浮遊する。しかも、それは流されているのではなく、自らの意思で流れている。「Loose Rap」でのしなやかさ。「More Than A Woman」の壮厳さ。「It's Whatever」の、痛ましいまでの美しさ。本作とは直接関係ないが「Rock The Boat」のビデオの、この世のものとは思えない美しさ。
 この作品を高く評価するのに、アリーヤの死というセンチメンタルな要素は影響していない。ただ、一個の作品として、圧倒的だ。問答無用で2001年の最重要作品。(しんかい)

 それにしてもサウンドの緻密で多彩なこと。あえて単調なリズム構成にした上でR&B特有のグルーヴを際だたせる「Rock The Boat」とか、ファンクのリズムに80年代風のシンセを断片的に組み込んだ「More Than A Woman」などはまだおとなしい方。壮大なストリングスをバックに憂いを持ったメロディがシンフォニック・ロック的に盛り上がっていく「I Refuse」や、ヘヴィなギターが鳴り響くインダストリアル的な「What If」などは、もう圧巻の一言。ティンバランドだけでなく仲間のラプチュアやJダブらも曲によって制作を担当しているが、アルバムとしてはきちんと統一感がとれている。それはもちろん、アリーヤのヴォーカルの存在。彼女の声がきこえると、様々な方向に拡散していた音が一気に収束する。これだけ革新的なプロダクションなのに、決して独りよがりのならないのは、彼女の声があってこそだろう。彼女は決して歌唱力があるシンガーではない。しかし典型的ソウル・ヴォイスではない故に、ヴォーカルとサウンドが奇跡的なマッチングをみせた。R&Bなんて次元を軽く超越し、テクノやプログレまでも彷彿させる奥行きの深さを感じさせるアルバムだ。(松本)

 アルバム全体に充満するこのクールな色香はどうだ。単にCDのインサーツにビジュアルとして表現された女性アーリアの色艶もさることながら、収録された多様なサウンドを自分のものとして自信に満ちた歌声を聞かせるその様子からも、彼女の女として、シンガーとして充実した様が手に取るように感じることができる。冒頭の「We Need A Resolution」「Loosey Rap」そして腹の底をかき回すような重いグルーヴが快感を呼ぶ「Rock The Boat」と、彼女の決して力みのないクールなボーカルと、プロデューサー陣の織りなす複雑なサウンドはあくまで一体となり、聴く者の脳に、感性に強く共鳴を迫ってくる。複雑なサウンドとリズムを練り込んだ極めてクセの強いティンバランドのトラックを、あたかも熟練したサーファーが荒波を軽々と乗りこなすがごとくクールな歌声で乗りこなすアーリヤ。ラプチャーのうねるようなメロウなグルーヴと様々な細かい仕掛けが同居した「Rock The Boat」に身を任せるように囁くアーリヤ。どの曲を取ってもいずれ劣らぬ通常の R&Bのステレオタイプを裏切るような難しいトラックを軽くいなすがごとく自分のグルーヴに取り込んでいる本作でのアーリアの成長度は特筆モノだ。それだけに彼女の他界はいかにも惜しい。しかしそうした感傷を別にしても、今R&B界に溢れる“オーガニック・ソウル”という風潮へのアンチテーゼとしてのコンテンポラリーさを表現手法として選び、それを見事にエグゼキュートしたこのアルバムには脱帽するのみ。(阿多)


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